『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第29弾~

2021年8月26日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第29回目の放送です。

本地洋一さん:今日は『心臓弁膜症』について、お話ししていただきます。

我々もよく耳にする『心臓弁膜症』とはどのような病気なのでしょうか?

松尾仁司院長:心臓という臓器はよくポンプに例えられますよね!

全身から静脈を通って心臓に戻ってきた血液(静脈血)は右心房から右心室を経て肺へ送り出されます。肺で血液は二酸化炭素を放出し、酸素を取り込み再び心臓に戻ります。肺から心臓に戻った血液(動脈血)は左心房から左心室を経て大動脈に拍出され全身に動脈血が届けられます。

この心臓のポンプ機能が効率よく、適切に働くために右心室と左心室の入り口と出口に合計4つの心臓弁(右心室の入口に三尖弁、出口に肺動脈弁があり、左心室には入口に僧帽弁、出口に大動脈弁)があります。

これらの弁が、加齢や何らかの感染などでうまく働かなくなる病気が『心臓弁膜症』です。

本日は、左心室の入り口と出口にある弁、つまり僧帽弁と大動脈弁の病気と治療についてお話しできたらと思います。

本地洋一さん:心臓の弁というのは非常に重要な働きをしているとのことですが、この心臓弁が年を取ることによって変化をしたり、くたびれてきたりするということですか?

僧帽弁とか大動脈弁の働きが悪くなるとどのような症状が出るのでしょうか?

松尾仁司院長: 大動脈弁の弁膜症を例にあげますと、その自覚症状は労作時の息切れ、意識消失、胸の痛みなどがあります。

ただし、弁の障害が軽度のうちはほとんど自覚症状なく経過します。自覚症状が出るのはかなり病気が進行してからです。大動脈弁疾患で上記のような自覚症状が出現した時、弁膜症はすでにかなり進行していて、自覚症状が出た後の平均余命は2年~5年と言われています。

本地洋一さん:自覚症状が出たときは、病気がかなり進行しているため要注意ということですね!

松尾仁司院長:そのとおりです。労作時の息切れ、意識消失、胸痛などの症状が出た場合は、大動脈弁の弁膜症を絶対に見落としてはいけないということです。

この病気の方は聴診器で心臓の音を聴くと心雑音を聴取しますので、医師が聴診することにより、自覚症状が出る前に発見されることも多くあります。検診などで心雑音を指摘されたら、循環器専門医にきちんと精査していただくことをお勧めいたします。

本地洋一さん:『心臓弁膜症』の患者様に対して心臓の専門病院である岐阜ハートセンターでは、どのような治療がなされているのでしょうか?

松尾仁司院長:岐阜ハートセンターでは『心臓弁膜症』の患者様を診る際は、まず治療が必要かどうかをきちんと診断します。そして、治療が必要と判断した場合は循環器内科医師、心臓血管外科医師を中心とし、麻酔科医、看護師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、医療ソーシャルワーカーら、多職種で構成されたハートチームがしっかりとディスカッションして、その患者様に最も適した治療は、カテーテル治療か外科的治療なのか、あるいは薬物治療かを決めていきます。

岐阜ハートセンター ハートチーム

本地洋一さん:『心臓弁膜症』のカテーテル治療とはあまり聞いたことがないのですが、どのようなものなのかお教えください。

松尾仁司院長:10年前までは心臓弁膜症の根治治療は外科手術、つまり全身麻酔と人工心肺補助下に開胸して障害のある弁を人工弁に取り換える外科的弁置換術が主流でした。

これは、小さな手術ではなく、いわゆる大手術です。一方、カテーテル治療は足の付け根にある血管から、開胸することなく、小さな傷で治療することができますので、患者様への侵襲度はきわめて小さいといえます。

『大動脈弁狭窄症』に対する代表的なカテーテル治療のひとつとして経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI:タビ)を説明します。

『大動脈弁狭窄症』は全身に血液を送る役割を果たす左心室と、その先につながる大動脈との間にある大動脈弁が悪くなり、うまく動かなくなってしまう病気です。動きの悪くなった扉を無理に血液が流れようとすることで心臓に負担がかかり、意識消失、胸の痛み、息切れなどの症状が現れます。高齢の患者様に多いこの弁膜症は、全員が外科手術を受けられるわけではありませんでした。ここで登場したのがタビで、日本でも2013年10月から治療可能になりました。カテーテルというストローのような管を太ももの付け根に入れて、開かなくなった大動脈弁の中に新しい弁を植え込みます。外科手術と異なり、部分(局所)麻酔で治療できるため、手術後の痛みや出血を少なくすることが期待できます。また、これまで高齢であることや体力に自信がない、過去に心臓手術をうけた、臓器の障害(肝臓、腎臓、肺)、またはガンなどが原因で、従来の心臓手術を受けられなかった方も治療が受けられる可能性があります。

大動脈弁と付近の構造物

カテーテル治療で使用する人工弁

また、『僧帽弁逆流症』に対するカテーテル治療には、経カテーテル的僧帽弁接合不全修復術(MitraClip:マイトラクリップ)があります。

僧帽弁逆流症は、僧帽弁を左心室側から引っ張っているひも(腱索)が伸びたり切れたり、あるいは僧帽弁の枠が拡大したりすることで、うまく弁が閉じずに合わさりが悪くなることで血液が左心室から左心房に逆流するようになります。はじめのうちは症状がありませんが、進行すると息苦しさ、むくみなどが生じ、心不全を起こします。この弁膜症も年齢の増加に伴い増加する傾向があります。これまでは、胸を開ける外科手術や飲み薬による治療が通常でした。しかし、このマイトラクリップによる治療は、タビ同様、外科手術が難しい方、飲み薬による治療では十分な効果が無い方に対する新たな選択肢となりました。日本には2018年4月に導入されまして、ハートセンターグループではこちらも導入当初から治療を行ってまいりました。

僧帽弁の位置と逆流症の概要

マイトラクリップによる治療

本地洋一さん:これらの治療を積極的に行っていけるのは、以前先生が言っておられた「ハートセンターは内科と外科の距離が近い」ということにも関係しているのでしょうか?

松尾仁司院長:おっしゃる通りで、近年循環器領域のカテーテル治療はより低侵襲な治療法が日々進歩しています。これらはハートチームという職域を超えた専門家が協力して治療にあたる必要があります。

岐阜ハートセンターは循環器内科医と心臓血管外科医が一つの医局に共存しています。このため内科と外科の壁がなく、患者様に関する情報共有や相談が大変シームレスに行われているため、ハートチームが有効に機能しやすい土壌と言えます。

最後に、今日この放送を聞いておられるリスナーの中には『心臓弁膜症』の侵襲的治療は怖いと思われている方もお見えになると思います。しかしながら、重症の弁膜症患者様の症状は適切な治療を行うと劇的に改善することが多いです。

怖い気持ちは理解できますが、『心臓弁膜症』は我慢していてよくなる病気ではないので一度専門医の診察を受けることをお勧めします。

本地洋一さん:我々シロウトは心臓手術やカテーテル治療と聞くと一歩間違えると死んでしまうのではないか?と悪い想像してしまいます。知らないが故に悪い想像を勝手にしてしまうもので、先生もそのような患者様を診られることが多いと思うのですが、いかがでしょうか?

松尾仁司院長:もちろんです。患者様によって病気や治療に対する考え方は様々です。同じ病気であっても、患者様によっては積極的な治療を望まれる方もみえますし、そうでない方もおみえになります。患者様にとって最良の治療法を選択するために、医師は医学的な情報を客観的にわかりやすくきちんとお伝えし、患者様の意思を尊重したうえで、治療選択をいたします。

このためには、医師をはじめとした医療従事者にとってコミュニケーション能力は大変重要な資質といえます。

また、別の医師の話も聞いてから治療法を考えたいと考える患者様に対しては、セカンドオピニオンというシステムがどの病院にもありますので、活用することをお勧めいたします。

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年9月9日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。