『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第30弾~

2021年9月9日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第30回目の放送です。

9月9日は救急の日です。これは救急業務及び救急医療に対する国民の正しい理解と認識を深め、救急医療関係者の意識高揚を図ることを目的に、昭和57年に定められ、以来、9月9日を「救急の日」、この日を含む一週間(日曜日から土曜日まで)を「救急医療週間」としています。

本地洋一さん:本日は循環器領域の救急疾患についてお話ししていただきますが、その前にリスナーの方から松尾院長に質問のお便りが届きました。

吉田早苗さん:岐阜市の「一市民」様からのおたよりです。

松尾院長先生にお聞きしたいのでハガキを書きました。

私の孫で生後3か月の女児で、先日病院で診察していただき病名が『心室中隔欠損症』で手術を受けたほうが良いと言われました。・・・生まれて3か月の乳児が手術することが心配で質問させていただきました。・・・どうか宜しくお願いいたします。

松尾院長:生後3か月のお孫さんが心臓の手術を、と言われたら・・・

ご両親をはじめ、おじい様やおばあ様は大変驚かれますし、ご心配なお気持ちはよく理解できます。

お問い合わせのあった『心室中隔欠損症』という病気ですが、心室中隔とは心臓の4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)のうち、右心室と左心室の間を隔てる筋肉の壁のことです。心室中隔欠損はこの壁に欠損(あな)が開いている状態です。先天性心疾患(うまれつき心臓に何らかの異常を伴う)はだいたい100人に1人(1%)の割合で起こると言われています。『心室中隔欠損症』はその先天性心疾患の約20%を占めています。

つまり、極めて珍しい病気というわけではなく、比較的多い頻度で見つかる病気です。

あなのあいている場所やあなの大きさは患者さん個々様々で、それにより病気の程度、症状出現の時期、治療の必要性や方法、タイミングが全く異なってきます。たとえば大きな『心室中隔欠損症』のあいた赤ちゃんは産まれて数ヶ月の間、自分で息をするのがやっとで、ミルクを飲むこともできないぐらいしんどい状態になりますし、逆に筋性部欠損といってあなの周りを分厚い筋肉で囲まれたところの小さなあなであれば放っておいても成長とともに自然に閉じてしまいます。

『心室中隔欠損症』の治療に関してですが、あなが小さい患者さんでは、とくに手術治療も内服治療もなしで、通常の発育が見込まれます。中等大のあなを持つ赤ちゃんはまず利尿剤、強心剤といった薬で心不全症状の緩和をします。薬を飲んでも心不全症状が強い、呼吸器感染を繰り返す、あるいは肺高血圧症の進行が疑われる場合には乳児期早期でも手術をします。

したがって、あなの大きな『心室中隔欠損症』で専門医の医師が手術をしたほうが良いと判断した場合は思い切って手術をしたほうが、手術をせずに経過を観察するよりも赤ちゃんにとってメリットが大きいと判断したと考えられます。

ご両親やおじい様、おばあ様がどうしても不安でということならば、今はセカンドオピニオンというシステムを使う方法があります。

つまり、診断していただいた病院の先生とは異なる病院の専門医の先生のご意見を伺ってみて、どちらの専門医の先生も手術をしたほうが良いとのご意見であるなら、やはり思い切って手術をしていただくのが赤ちゃんのためになるのではないでしょうか。

本地洋一さん:心臓の専門の松尾院長から見てもそのよう見解だということですね!

さて、今日は『救急の日』ということで先生の専門の循環器領域における救急医療についてお話をお願いします。

循環器領域の病気で、急いでお医者さんに診てもらう必要がある病気、つまり救急車を呼ばないといけないような病気を教えてください。

松尾院長:緊急度が高い病気とはどういうことかと言いますと、急いで診断して、急いで治療しないと命に関わる状態になってしまう病気であるということです。

循環器疾患の中にはそういった病気が多くあります。

代表例として『急性心筋梗塞』『急性大動脈解離』『肺塞栓症』などがあります。

この3つの病気はいずれも胸の痛みがキーワードとなります。

『心筋梗塞』:以前にもこちらのコーナーでもお話ししました。是非ご覧ください。

『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第13弾~

『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第14弾~

心臓に酸素や栄養を運ぶ血管を『冠状動脈』といい、心臓の表面を冠(かんむり)が覆いかぶさるようにして心臓全体に血液を運んでいます。

年齢を重ねてきますと、冠状動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることがあります。

動脈硬化自体には自覚症状はないのですが、ある時動脈硬化の起こっている部位に血栓という血の塊ができて急激に詰まることにより、一気に血流が途絶することがあります。そうなると心臓の筋肉に栄養が行かなくなって心筋は壊死を起こしてしまいます。これが『心筋梗塞』という病気です。

『心筋梗塞』の典型的な症状は胸の真ん中が締め付けられ、冷汗を伴う胸の痛みを訴えられる方が多いです。しかし、中には激しい症状がなく、なんとなく胸に違和感がある程度の軽い症状の方もお見えになります。

また、これらの胸の症状は『心筋梗塞』以外の病気でも起こることがあるので、症状だけで『心筋梗塞』と診断するのは難しいです。

しかしながら、ほとんどの『心筋梗塞』は病院で心電図と採血検査を行うことによって診断がつきまので、出来るだけ早く医療機関に行くことが重要です。

『心筋梗塞』という診断がつきますと、我々はできるだけ早く詰まった血管を再灌流させるため、緊急冠動脈造影検査を行います。この検査はカテーテルを手首もしくは肘・そけい部の動脈から冠動脈に挿入し、造影剤を使用して冠動脈の狭窄や閉塞が血管のどの部分にあるかをみる検査です。

冠動脈造影検査で心筋梗塞の原因となる冠動脈の閉塞部を特定したのち、引き続き『カテーテル治療』で閉塞した部位の再灌流を行います。『カテーテル治療』は経皮的冠動脈形成術といって、急性心筋梗塞に対するものとしては、風船により狭窄部を拡げる方法・網目状の金属(ステント)を狭窄部に留置する方法などがあります。

患者様が、病院に到着してから『心筋梗塞』の診断をして、カテーテル治療によって、冠動脈が再灌流するまでの時間をDoor to balloon timeといって我々医療従事者はこの時間を短くする医療体制を24時間365日とっています。

患者様をはじめとした一般の方々の中には、“今は夜中だし、救急車を呼ぶといろいろな人に迷惑をかけることになるから、朝まで我慢しよう”という考えの方もお見えになります。日本人の美徳とも言えますが『心筋梗塞』『急性大動脈解離』といった心血管系の救急疾患にとってはまさに命取りになりかねません。15分以上持続する胸の痛みや、短くても何度も繰り返す胸の症状がある場合はできるだけ早く専門病院を受診してください。

『急性大動脈解離』:以前にもこちらのコーナーでもお話ししました。是非ご覧ください。

『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第12弾~

『急性大動脈解離』は非常に致命的な病気で、発症から2日以内に50%以上の方がお亡くなりになると言われているため、一刻も早く病院を受診する必要がある疾患です。

大動脈というのは3層構造になっていて、いちばん外側を外膜、真ん中を中膜、いちばん内側を内膜と言います。

『急性大動脈解離』とは、大動脈内膜に生じた小さな亀裂から血液が血管壁内(中膜)に流入し、外層と内層に壁が解離を起こす。つまり、大動脈の中膜に裂けめが出来てそこから末梢に向けてメリメリと血管が裂けてしまう病気です。

急性大動脈解離についてはこちらをご覧ください。

症状としては、激烈な胸部痛や背部痛を主症状としています。大動脈が上から下、つまり、胸から背中、お腹に向かって裂けていくにつれて、大動脈に沿って痛みが抹消に向かって移動していきます。

つまり、前胸部痛からはじまり、それが強い背部痛からさらに腰へと痛みが移動していくことが『心筋梗塞』とは異なります。

『急性大動脈解離』の診断ですが、胸の痛みの性質や心電図だけでは『心筋梗塞』や他の循環器疾患と鑑別は難しいですが、CTによって診断が出来ます。

『急性大動脈解離』は解離した部位によりStanford A型と Stanford B型に分類されます。大動脈の根元から脳への血管が分岐するまでの「上行大動脈」に解離が及んでいるものがA型、及んでいないものがB型となります。上行大動脈は破裂しやすくまた、心臓周囲の出血や心筋梗塞の危険性がありますので、基本的にA型は緊急手術の対象となります。手術は大動脈瘤と同様に人工血管置換術を行います。救命のための手術であり、解離した大動脈全部を取り替えるわけではありません。

特に、非常にリスクの高い患者様には、当院では開胸しての人工血管置換とステントグラフトを併用することにより、何とか救命につなげるハイブリッド手術も行っております。

B型においては血流障害や破裂がない限り、血圧管理および安静確保による経過観察(降圧保存療法)を行います。

『肺塞栓症』:塞栓とは、血液の流れに乗って運ばれてきた血栓が血管をふさぐことです。

この病気は肺の血管(肺動脈)に血液の塊(血栓)が詰まる病気のことです。

この血栓がどこで出来るかというと、90%以上は脚(あし)の静脈内にできます。航空機の座席の狭いエコノミークラスで長時間、座ったままといった状況で起こることがあり、エコノミークラス症候群とも呼ばれています。

『肺塞栓症』の症状で最も多い症状は息苦しさで、次いで多いのは胸痛です。典型的な症状は息を吸うときの鋭い痛みです。これは肺動脈の血流が血栓によって急にせき止められるため、肺動脈内の血圧が上昇し、肺血管が太くなることや、動脈の血圧が下がり、冠動脈の血流が少なくなることによると言われています。このほか失神、ショックがあります。原因は心臓から流れる血液量が減って血圧が低下することや、神経反射の影響があるためと考えられています。病状が極めて重い場合は、突然死することもあります

『肺塞栓症』『急性心筋梗塞』と比較しても死亡率が高く、この病気が日本より多い欧米でさえ、診断がつかずに死亡することが多いと報告されています。

『肺塞栓症』の診断ですが、これも自覚症状と心電図だけでは不十分で、血液検査、胸部レントゲン、CTで迅速に診断する必要があります。

本地洋一さん:循環器領域での救急疾患として『急性心筋梗塞』『急性大動脈解離』『肺塞栓症』の3つの病気をお話ししていただきましたが、これらは異なる病気であるにもかかわらず、すべて胸痛を訴える場合が多いため、一刻も早く正しく診断し、治療を開始することが、患者さんの救命と予後に大きく影響するということですね!

また、これら3つの循環器救急疾患の診断にはCT検査が大変有効であるということでしょうか?

松尾院長:おっしゃる通りで、医療機器の進歩は循環器救急の現場においても診断能力の向上に大変貢献していますし、迅速に正しい診断が出来るということは適切な治療につながるため、非常に大きな戦力になっていると感じています。

本地洋一さん、吉田早苗さん:大変よくわかりました。ありがとうございました。

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年9月23日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。