皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?
2021年2月18日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第17回目の放送です。
岐阜県に発令された緊急事態宣言により年末年始に比べて新型コロナウイルス感染の新規患者数は徐々に減少し、2月も半ばになり岐阜県の病床利用状況も次第に改善してきているように思えますが、まだまだ予断を許さない感じです。
2021年第4回目の放送は、ぎふチャンの入り口で検温をして、3密と飛沫対策されたスタジオでの放送です。
今回の放送のテーマは『糖尿病と心臓病』についてです。
前回のテーマ メタボリック症候群のお話をした際に、『糖尿病』、高血圧症、高脂血症に加えて肥満がある方は、これらのリスクを全く持っていない方に比べ心血管疾患や脳卒中と言った恐ろしい病気にかかる確率が35倍高いとお話ししました。これらは死の4重奏とも言われています。
本地洋一さん:今回は糖尿病と心臓病ということで病名が二つありますが、まずは『糖尿病』とは何かを説明していただいて、それから『糖尿病』が『心臓病』とどのような関係があるのかをお話しいただいてもよろしいでしょうか?
松尾仁司院長:まずは『糖尿病』からお話ししましょう。皆さんは、『血糖値』という言葉を聞いたことがあると思います。これは血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を表す言葉です。食事の際にご飯やパン、麺類を食べると思いますが、これら炭水化物は、体の中で消化吸収されて、ブドウ糖(グルコース)になり、血液中に入って人が生きていくためのエネルギーになっていきます。したがって人はエネルギーを消費すると、『血糖値』が下がり空腹や疲労を感じます。食事で炭水化物を摂取すると、『血糖値』は上がり再び仕事や勉強をするための活力が生まれます。
健康な人の場合はこの血糖値はホルモンによって上がりすぎたり下がりすぎたりしないようにコントロールされています。下がりすぎた『血糖値』を上げるためのホルモンはいくつかあるのですが、上がりすぎた『血糖値』を下げるためのホルモンは膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるインスリン1種類だけです
『糖尿病』とは、このβ細胞の働きが悪くなってインスリンの分泌量が少なってしまったたり、インスリンがうまく働かなくてグルコースが脳や筋肉などの臓器にうまくとりこめなくなって『血糖値』が常に高い状態になる病気です。
本地洋一さん:『糖尿病』の方は『血糖値』が高い状態であるとのことですが、心臓病とどのような関係があるのでしょうか?
松尾仁司院長:『血糖値』が高い状態だと、どうして心臓病になるのか?
これは『血糖値』が常に高い状態が続くと、血管内皮という組織が障害されるからです。
この内皮細胞の障害が動脈硬化の始まりになるのです。
食事で炭水化物を取りますと『血糖値』は一時的に急上昇します。これをグルコーススパイクというのですが、健常な人の場合このグルコーススパイクによる『血糖値』の急上昇をインスリンが抑え込む働きをしているのですが、『糖尿病』の患者さんはグルコーススパイクによる『血糖値』の急上昇を抑えることが出来ないため、内皮細胞の障害が起きやすくなってしまうのです。
この状態が何年も続くと内皮細胞機能がどんどん低下してしまい、それに伴って動脈硬化がどんどん進行してしまいます。
『糖尿病』の患者さんの多くが動脈硬性の病気を併発することが知られています。
本地洋一さん:もう少し詳しく『糖尿病』が血管に及ぼす悪影響を説明してください。
松尾仁司院長:血管というのは大血管と微小血管に分けることが出来ます。微小血管とは聞きなれない言葉かもしれませんが、直径でいうと500ミクロン以下の非常に細い血管のことを言います。
『糖尿病』が原因となるような大血管障害は、脳梗塞、心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などがあります。これらは『糖尿病』歴が比較的短く軽い『糖尿病』予備軍と言われる段階からでも高頻度で起こることが知られてきています。
『糖尿病』歴の長い患者様は、この微小血管障害が強く出ることが知られています。糖尿病性の網膜症や糖尿病性腎症などがこれにあたります。現在人工透析を導入する患者様の原因疾患は糖尿病性腎症が最も多いと言われています。
いずれにしても『糖尿病』であるということは、動脈硬化が起こりやすい状態と言えるため、『糖尿病』と診断されたら早期から動脈硬化の評価も併せて行っていくことが重要となります。
本地洋一さん:ということは、『糖尿病』患者さんの場合は、単に血糖をお薬でコントロールするだけではなくて、『糖尿病』の先には脳梗塞や心筋梗塞、糖尿病成人症などの恐ろしい病気が待ち受けていることをしっかりと認識しないといけないということですね!
松尾仁司院長:おっしゃる通りで、『糖尿病』の治療が何故重要かというと、その先にある大血管障害や微小血管障害を原因とした恐ろしい病気になる確率を減らすためには『血糖値』をコントロールし、グルコーススパイクをなるべく減らして内皮細胞を守る必要があるからです。
心臓病の患者さんの半数が、『糖尿病』を持っていると言っても過言ではないと思います。
岐阜ハートセンターでは狭心症や心筋梗塞の患者さんにバイパス手術やカテーテル治療によって侵襲的な治療をしていますが、患者さんの予後を改善し、健康寿命を延ばして幸せな人生を送るためにはそれだけでは不十分です。
『血糖値』や血圧、コレステロール値も併せてきちんとコントロールして動脈硬化の進行を抑えることも非常に重要なのです。
本地洋一さん:今、予後という言葉が出ましたが、心臓病を患った場合、基礎疾患の中に『糖尿病』を持っているか持っていないかで予後は変わってくるのでしょうか?
松尾仁司院長:心臓病の患者さんの場合は『糖尿病』がある場合、『糖尿病』がない方に比べ予後が悪いという報告があります。これは『糖尿病』がある心臓病患者さんの場合は、カテーテル治療やバイパス手術で大血管を治療したとしても、その末梢にある微小血管も障害されているため、侵襲的治療の効果が得られにくいことがあるからです。
また『糖尿病』患者さんは狭心症などで通常患者さんが感じる胸の痛みなどの胸部症状を感じにくいため、かなり重症になってからでないと心臓の病気に気が付かないことも予後が悪い原因の一つと言われています。
本地洋一さん:患者側でも『糖尿病』のグルコーススパイクに気を付けなければならないということでしょうか?
松尾仁司院長:患者さん側がご自分で出来ることと言えば、食習慣の改善です。
まずは間食をしない。食べ過ぎない。ゆっくり時間をかけて食べる。食べる順序は野菜や海藻を最初に食べてから主食をとることによって、糖の吸収を緩やかにする。夕食は床に就く3時間前までに済ませるなどです。
あと、適度な運動習慣も重要です。『糖尿病』は摂取カロリー(食事)と消費カロリー(運動)のバランスの乱れ、つまり摂取カロリーが消費カロリーを大きく上回った状態を続けることによって発症リスクが上がります。したがって、食事で摂取したカロリーは運動できちんと消費することが、グルコーススパイクを抑え、重篤な心臓病の発生リスクを軽減することにつながります。
前回の『メタボリック症候群』でもお話ししましたが、運動も自分一人でストイックにトレーニングをするよりも、夫婦一緒にとか仲間と一緒におおらかな気持ちで、無理せずに楽しんで運動することが、長続きのこつだと思います。
吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年3月4日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。