『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第28弾~
2021年8月12日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第28回目の放送です。
吉田早苗さん:今日は松尾先生宛にお二人のリスナーの方からメッセージが届いていますので、ご紹介します。
リスナー1:私の糖尿病は心臓の検査でハートセンターを受診した際の血液検査でヘモグロビンA1cが11.3あることで発覚しました。その時お世話になった先生がラジオから聞こえてくる声の人、松尾院長です。心臓は大丈夫でした。診察の際、院長先生は本当に穏やかに私にもわかりやすくお話ししてくださいましたよ!
リスナー2:心臓の病気が分かってから8年になります。今はすっかり良くなっていますが、父親の兄弟の叔父や叔母はみんな心臓の病気で亡くなっていますので、私もその血を引き継いでいるようです。ハートセンターは我が家から自動車で15分程度の距離なので、とても心強く感じています。先生のお話も次回を楽しみにしていますよ!
松尾仁司院長:どうもありがとうございます。患者さんが、ハートセンターを受診して良かったと思っていただけるのは大変ありがたいことで、すごく嬉しいです。
本地洋一さん:今日は『心筋梗塞』について、お話ししていただきます。
我々もよく耳にする心筋梗塞とはどのような病気なのでしょうか?
松尾仁司院長:まず最初に、心臓という臓器は人が母親のお腹にいる時からその方がお亡くなりなるまで、起きているときはもちろん寝ている時も、ズーっと動き続けなければならない臓器で、心筋という筋肉で出来ています。動き続けるためには、冠状動脈により酸素と栄養が供給され続けなければなりません。
心臓に酸素や栄養を運ぶ血管を『冠状動脈』といい、心臓の表面を冠(かんむり)が覆いかぶさるようにして心臓全体に血液を運んでいます。
年齢を重ねてきますと、冠状動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることがあります。
動脈硬化自体には自覚症状はないのですが、ある時動脈硬化の起こっている部位に血栓という血の塊ができて急激に詰まることにより、一気に血流が途絶することがあります。そうなると心臓の筋肉に栄養が行かなくなって心筋は壊死を起こしてしまいます。これが『心筋梗塞』という病気です。
本地洋一さん:『心筋梗塞』の場合、患者さんはどのような症状を訴えられるのでしょうか?
松尾仁司院長:『心筋梗塞』の典型的な症状は胸の真ん中が締め付けられ、冷汗を伴う胸の痛みを訴えられる方が多いです。しかし、中には激しい症状がなく、なんとなく胸に違和感がある程度の軽い症状の方もお見えになります。
また、これらの胸の症状は『心筋梗塞』以外の病気でも起こることがあるので、症状だけで『心筋梗塞』と診断するのは難しいです。
しかしながら、ほとんどの『心筋梗塞』は病院で心電図と採血検査を行うことによって診断がつきます。
つまり、『心筋梗塞』の場合は発症から循環器専門病院までできるだけ早く到着して、正しく診断し、一刻も早く再疎通療法を行うことが、心筋梗塞の壊死範囲を小さくし、予後の改善ばかりでなく、その後の生活の質を落とさないためにたいへん重要ということです。
岐阜ハートセンターでは循環器専門医が常に病院内に常駐する体制で、24時間体制で『心筋梗塞』をはじめとした循環器救急疾患に対応しています。少しでも早く正しい診断をするためには早期の受診をお勧めいたします。
本地洋一さん:『心筋梗塞』は大変恐ろしい病気で、少しでも早く受診する必要あることはリスナーの方々もなんとなくお分かりと思います。具体的にはどのような理由で一刻を争うのでしょうか?命に関わる状況や合併症などを教えていただけますか?
松尾仁司院長:もっとも致命的で恐ろしい合併症は心室細動という不整脈です。これは心室が痙攣したように震えてポンプの働きを失ってしまう不整脈です。この状態が続くと致命的であるため、直ちに除細動をして心室細動を止める必要があります。
心筋梗塞の患者さんの15%は心室細動による心肺停止を起こし、30%の方は病院まで到着する前に死亡するというデータがあります。
最近では多くの商業施設にはAED(自動体外的除細動器)が設置してありますので、ご自分の職場や学校、駅のどこにAEDが設置してあるかを一度確認してみてください。
もう一つの『心筋梗塞』の恐ろしい合併症に心破裂があります。
冠動脈が詰まり、その還流領域の心筋が壊死を起こすと筋肉はブヨブヨに弱くなります。そして血圧に耐えられなくなると心室の筋肉が破れて血液が心嚢にあふれ出てしまいます。こうなると、緊急開胸をして破れた心筋を外科的に修復しないといけませんが、たとえ直ちに処置が出来る病院内で心破裂を起こしたとしても救命することが難しい合併症です。
早期に再灌流治療が成功すると心破裂の合併を低下させることが知られていますが、それでも心破裂を0%にすることは出来ません。
これらの恐ろしい合併症は発症から1週間から10日程度の間に起こると言われています。したがってこれらの合併症を防ぐため、『心筋梗塞』は再灌流療法で詰まった冠動脈が流れるようになっても、しばらくは集中治療室で慎重に不整脈や血圧のコントロールを行う必要があります。
本地洋一さん:『心筋梗塞』の治療はいち早く再灌流療法を行うとのことですが、一度詰まった血管を再度流れるようにするということですか?
松尾仁司院長:病院では心電図や採血検査で『心筋梗塞』を疑った場合、可及的速やかにカテーテル検査を行います。この検査はカテーテルを手首もしくは肘・そけい部の動脈から冠動脈に挿入し、造影剤を使用して冠動脈の狭窄や閉塞が血管のどの部分にあるかをみる検査です。
この検査での原因となる冠動脈の詰まった箇所を同定して引き続きカテーテル治療を行い、詰まった血管を再び流れるようにする治療が再灌流療法です。
『心筋梗塞』の治療の重要なポイントは心臓の筋肉のダメージを出来るだけ少なくすることにあります。このためには、詰まった冠動脈をきちんと流れるようにする再疎通治療を出来るだけ迅速に行う必要があります。
具体的には、風船により詰まった血管を拡張する方法や、
ステントという金属の筒を植込み、詰まった箇所を血管の中から押し広げる治療法などがあります。
虚血性心疾患の治療についてご興味のある方はこちらをご覧ください。
本地洋一さん:一口に迅速にと言っても、患者さんが倒れた環境であるとか、地域性によっても、心筋梗塞の発症から病院を受診するまでの時間に差が出てしまうのではないですか?
松尾仁司院長:『心筋梗塞』の場合、冠動脈が詰まってから90分以内に再疎通出来ると、予後は良好であると言われています。一方で24時間以上詰まった状態が続くと心筋壊死が完成してしまうことが分かっています。一般的には発症から6時間以内に再疎通治療を行うことが理想的であると言えます。
本地洋一さん:まさに、時間との戦いですね!
松尾仁司院長:その通りです。最近は救急車にも心電図が搭載されており、救急隊員の方々が現場で心電図を見て、「心筋梗塞の可能性が高い」と判断した場合、病院では患者さんの到着前に準備をして、到着後速やかにカテーテル室に入室し、治療を始めることもあります。
現在の医療では病院に到着した患者さんは95%の方が生存退院することが出来ます。
『心筋梗塞』は怖い病気ですが、きちんと治療をすればほとんどの方は元通りの生活に戻ることが可能です。
そのためには、元気になって退院してからも再発を予防する必要があります。
これには、危険因子(リスクファクター)のコントロールをすることが重要です。
具体的には、糖尿病のコントロールや悪玉コレステロール値を下げる、禁煙、肥満の改善などです。
一病息災という言葉があります。これはちょっとした病気のある人のほうがからだに注意するので、健康な人よりもかえって長生きするということです。
『心筋梗塞』で入院治療をして幸いにも良くなって退院した方などは、きちんとお薬を飲んで、食生活を改善したり、運動習慣をつけることによって二次予防をきちんとすることが大変重要です。
本地洋一さん:再発の防止には自己管理が重要ということですね!大変よくわかりました。
吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年8月26日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。