『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第32弾~
2021年10月14日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第32回目の放送です。
本地洋一さん:今日は松尾院長に『お薬の話』というタイトルでお話ししていただきます。
松尾院長:一般的に病院というと、『手術をする場所』というイメージを持っている方も多いと思います。
岐阜ハートセンターのような循環器の病院ですと、急性心筋梗塞の患者様に対してはカテーテル治療でステントを血管内に留置して、詰まった血管を流れるように治療したり、急性大動脈解離に対しては、外科的に胸やお腹を切って裂けた血管を人工血管に置換したりする治療を行っているイメージがあるかと思います。
ところが、『手術がうまくいった、病気が治った、バンザイ』というわけにはなかなかいかないのが現状で、これら侵襲的治療が無事成功した後も、長く元気な生活をしていくためにどうしても必要なことがあります。
それは、これらの恐ろしい循環器疾患になる原因である高血圧症、高コレステロール血症、糖尿病、肥満や喫煙といった、いわゆる生活習慣病をきちんとコントロールし続けることです。
もちろん、運動習慣をつけるとか、禁煙する、バランスの取れた食事習慣を身につけるなど、生活習慣病が改善されることは大変重要です。
それとともに重要なことは、治療後のお薬をきちんと内服をするということです。
本地洋一さん:手術後の良い状態をより長く維持ため、お薬で血圧、コレステロール値、血糖値をきちんとコントロールすることが大切ということですね!一方で、処方された薬を飲み続けることに対しては薬の副作用について心配される方も少なからずお見えになると聞いたことがありますが、その点はいかがでしょうか?
松尾院長:薬には病気の治療に関わる主作用に対し、それとは異なる別の作用や有害である作用が出ることがあり、副作用と呼ばれています。一般的には主作用以外の作用でも患者にとって不都合でない場合は副作用と呼ばないことが多いのですが、病気の予防、診断、治療に通常用いられる用量で起こる好ましくない反応を有害反応と呼びます。医薬品添付文書では副作用の項目に有害反応が記してあり、一般には副作用と有害反応は同じ意味として扱われています。
あらゆる薬には必ずと言っていいほど副作用があり、この副作用を全くゼロにすることは難しく、一部の患者様の中にはある薬が合わない場合があります。
患者様から診察室で『この薬はこのような副作用があると書いてありますが、私はこの薬を飲み続けても大丈夫でしょうか?』といった質問を受けることがあります。
例えば、高血圧の患者様には血圧を下げる降圧剤というお薬を処方します。この薬の主作用によって血圧を下げることが出来ますが、中にはその薬を服用すると、ふらつきやめまい、頭痛といった副作用による症状を訴えられる患者様がお見えになります。こういった患者様に対しては副作用の出ない別の薬を探して処方することは我々医師の重要な仕事の一つです。
また、我々循環器領域の医師は動脈硬化に対して血管の中を流れる血液の状態をコントロールする薬を処方することがあります。これは血液を固まりにくくする主作用があり、脳塞栓や心筋梗塞を起こりにくくするといったメリットがあります。一方で出血しやすくなるといった副作用もあり、頻度は少ないのですが、これはデメリットと言えます。
我々医師は、薬を飲むことによる主作用と副作用を十分理解したうえで、薬を飲むメリットのほうが薬を飲まないデメリットより大きいと判断して処方しています。
週刊誌などの特集で『この薬は絶対に飲んではいけない!』といった特集が掲載されることがあります。私の外来でも、そういった特集記事を読まれた患者様が、診察室で『あの雑誌でこの薬を飲んではだめだと書いてあったので、飲むのを止めました』と言われることが何度かありました。
本地洋一さん:確かに週刊誌や雑誌ばかりでなく、インターネット上にも様々な情報が出ていて、中にはいろいろな薬に対してネガティブな記事や特集を見かけることがあります。
そのような記事を読んでお医者さんに相談することなく、薬の内服を独断でやめてしまう患者様もお見えになるということですか?
独断で薬を飲むことを中断することは危険ということでしょうか?
松尾院長:そのとおりです。
『この薬は絶対に飲んではいけない!』といった特集は、本来薬の持つ主作用によるメリットよりも副作用によるネガティブな面に焦点を当てているように思います。
循環器疾患を患っている患者様の中には、処方された薬を飲み続けているが故に良い状態を維持できている方が大勢お見えになります。薬の中には急に服用を中止すると非常に危険な薬、つまり飲まないことによるリスクやデメリットが大きい薬もあります。
先ほどお話しした血液を固まりにくくする、いわゆる血液をサラサラにする薬などは、冠動脈ステント治療前から治療後も一定期間は飲み続ける必要があります。この薬をご自分の判断で急にやめてしまうとステント血栓症と言って、ステントが血栓で詰まってしまう恐ろしい合併症を起こすことがあります。
本地洋一さん: 患者様が薬をちゃんと服用しているかどうかを知ることは、医師にとっても重要な情報であるということですね!
松尾院長: 患者様にとって医師が自分のために処方した薬についていろいろ聞くことはなかなか言い出しづらいことかもしれません。
我々医師は患者様にとって最小のリスクで最大限のメリットが得られる薬を選んで処方することが仕事ですから、診察室で患者様とのお話の中から様々な情報を得ています。
薬の副作用等やご自分が服用しているお薬について疑問や不安を持たれたら、遠慮なさらずに主治医の先生にご相談ください。
そのためには患者様にとって話しやすい医師であることも大切だと考えています。
本地洋一さん:日本の場合は諸外国で既に承認された薬であっても、国内で使用可能になるにはずいぶん時間がかかると聞いたことがあります。これは、言い換えると日本は薬の安全性の検証に時間をかけていると考えてもよろしいのでしょうか?
松尾院長:日本の厚生労働省の薬剤認可に関するプロセスは極めて慎重で、念には念を入れて審査していると言ってもよいと思います。したがって薬の安全性の担保はきちんと出来ていると思います。また、薬の添付文書には主作用や副作用といった情報が詳しく書かれていますので、ご自分が飲んでいる薬の正しい情報はこういった添付文書から得ることが出来ます。
そのうえで、疑問に思われたことや薬を飲み続けることによる不安などは医師や薬剤師に相談してください。
吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年10月28日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。