『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第40弾~
2022年2月10日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』今年3回目の放送です。
本地洋一さん:今日のテーマは『心臓と感染症』で、松尾院長は電話での出演です。
心臓もウイルスや細菌に感染して様々な病気を起こすということでしょうか?
松尾院長: 今日は、心臓も風邪をひくというお話をしたいと思います。
皆さん風邪をひくと喉が痛くなったり、咳や鼻水が出たりしますよね。これは細菌やウイルスが喉や鼻の粘膜について炎症を起こすために起こる症状です。
心臓は口や鼻と異なり、体の奥にあるのですが、感染により炎症を起こすことがあります。
「心筋炎」
心臓の筋肉(心筋)に細菌やウイルスが入り込み、炎症を起こす病気を心筋炎と言います。
心筋組織に炎症が起こると、心臓のポンプ機能が低下して心不全を起こしたり、心室細動や房室ブロックなどの致死的な不整脈が発生したりします。
いままで元気で生活していた方が、かぜ症状を契機に数日後には突然胸痛に悩まされたり、心不全を起こしたり、さらにはショックを起こしたりします。最悪のケースでは死亡することもまれではありません。心臓突然死の有力な原因のひとつが急性心筋炎です。
「感染性心外膜炎」
心臓は心外膜という二重の膜に包まれています。二重の膜の中は心嚢と言って心臓運動の摩擦を軽減させる働きをしています。急性心外膜炎とは心膜が炎症を起こす病気で、胸痛が起こるとともに、心膜液が過剰に増えて心嚢が膨らみ、心臓のポンプ作用を悪くします(心タンポナーデ)。
「感染性心内膜炎」
血液中に入った細菌が、心臓の中にある弁、腱索に菌の塊が付いて炎症を起こし、心臓弁が破壊されてしまう病気です。僧帽弁や、大動脈弁に生じることが多いです。
細菌(または頻度は少ないが、真菌)は、血流中から侵入して心臓弁にとどまり、心内膜に感染します。異常のある弁や損傷した弁、あるいは人工弁は、正常な心臓弁よりも感染症にかかりやすくなります。
本地洋一さん:さきほど先生も言われた通り、心臓というのは胸の奥にあるため、細菌やウイルスと直接接触しないと思うのですが、どのような経路で感染を起こすのでしょうか?
松尾院長:急性心筋炎や急性心膜炎の原因となるウイルスは、かぜや胃腸炎などを起こす病因ウイルスと同じものが多いことが知られています。心臓というのは身体の表面に出ていない臓器ですが、喉や鼻から入ったウィスルや細菌が虫歯や歯槽膿漏などで出来た歯茎の傷などから血液中に入ると、血管を通じて運ばれて心臓で感染症を引き起こすことがあります。また、腸炎や尿路感染症なども心筋炎や心膜炎の原因となることがあります。
心臓の感染症の症状は多彩です。最初は喉の痛み、咳、発熱などですが、やがて胃のむかつき、腹痛、下痢、筋肉痛、全身倦怠感などの消化器症状や感染症としての全身症状が出てきます。繰り返しになりますが、急性心筋炎の症状は、症状のはっきりしないものから、かぜ様、不整脈様、急性心筋梗塞様、心不全、そしてショックを伴うものまで様々です。
本地洋一さん:心臓の感染症についていろいろお話を伺っているのですが、これらの中で特に恐ろしい病気にはどのようなものがあるのでしょうか?
松尾院長:命に関わる心臓の感染症の中に『劇症型心筋炎』という病気があります。この致死的な心筋炎では、かぜ症状から一転して手足が冷たくなるとか、言いようのない体のだるさに襲われるとか、悪性の不整脈が現れ、極端な例では失神やショック、重症な呼吸困難に陥るといった重篤な急性心不全病状へと激変してしまいます。この病気は約100年にわたり、救命できない致死的な心筋炎として知られてきました。現在の医療現場では、心停止や極端な低心臓ポンプ機能に陥った患者さん対して、一次的に強力な心肺補助循環装置を装着することにより、救命できる症例が現れるようになりました。その際に用いる代表的な装置が体外式膜型人工肺(ECMO)や植込み方人工心臓(LVAS)です。これら濃厚で適切な初期対応を専門病院で行うことにより、半数以上の患者さんが救命されるようにようやくなりました。
本地洋一さん:命に関わる心臓の感染症を予防するためにも、風邪や虫歯、尿路感染症なども早めに適切に治療する必要があるということでしょうか?
松尾院長:「風邪は万病のもと」とはよく言ったものです。風邪症状を軽く考えてはいけません。頭の片隅にまれであっても急性心筋炎や心膜炎といった病気があることを記憶しておいてください。
この病気は子どもから高齢者まで、誰でも罹る可能性があります。かぜ症状から胸の異常を感じたり、不整脈を感じたり、あるいは極度の頻脈や徐脈に気づいたら早期に医療機関に受診することを勧めます。
本地洋一さん:今、世界中で新型コロナウイルス感染症が蔓延していますが、この新型コロナウイルスが心臓の病気に関連してくることもあるのでしょうか?
松尾院長:新型コロナウイルス感染症と心臓病の関係も注目されています。このウイルスに感染した方の中には心筋炎を合併される患者様もお見えになります。
また心臓だけではなく、全身に及ぼす影響として新型コロナウイルス感染によって血栓症が起こりやすくなるという報告があります。
その理由は二つあり、一つ目は新型コロナウイルスが肺を通じて血管内に入りこみ、血管の内皮細胞を攻撃して、血栓つまり血の塊を形成させることが知られています。
二つ目は、サイトカインストームという免疫機能の暴走です。私たちの身体は、ウイルスや細菌から体を守る免疫システムを持っていてこのシステムによって健康が守られています。
この免疫システムは病原体から身体を守るために必要なシステムですが、病原体の感染量が多くなると、時に暴走して健康な細胞を傷つけてしまうことがあります。
サイトカインストームが起こると、発熱や倦怠感などが過剰に起き、全身状態を悪化させるばかりでなく、血液を固める凝固系にも異常を起こし、全身の血管内で血栓症をおこすことが知られています。
本地洋一さん:新型コロナウイルス感染症は主に肺などの呼吸器に悪さをするだけでなく、免疫機能にも影響を与え、血栓症により心臓をはじめとした全身の臓器機能にも悪影響を及ぼす病気だということですね。
今、日本ではこの新型コロナウイルス感染症の予防として、3回目のワクチン接種が進められているところですが、このブースター接種に関しての先生のお考えをお聞かせください。
松尾院長:我々循環器領域でいいますと新型コロナウイルス感染症は、心筋炎の合併が報告されています。日本での調査では新型コロナウイルス感染症に感染した100万人中834人(0.08%)、つまり1万人に約8人が心筋炎を合併し、この場合ECMOなどを用いた集中治療を行っても救命することが極めて困難であるとの報告があります。
一方、ワクチン接種による副反応として心筋炎用の症状を起こした方の頻度は、新型コロナウイルス感染症に合併した心筋炎の発生頻度の100分の1以下であるとの報告があります。
注目は重症化のリスクが高い、高齢者は若い方に比べ、新型コロナワクチン接種後の心筋炎合併頻度が低いと言われていますので恐れずワクチン接種をしていただきたいと思います。
リスナーの皆様の中にもワクチン接種による副反応を気にされている方も見えると思います。
確かに、翌日や翌々日に発熱したり、全身倦怠感といった副反応が起こる方は確かにお見えになります。しかしながら、これらの副反応があったとしても、新型コロナウイルス感染症に感染することによる健康被害の重篤さを考えた場合、ワクチン接種をすることを強く、強くお勧めいたします。
吉田早苗さん:ありがとうございました。また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などがございましたら、番組までドシドシとお寄せください。
次回のハート相談所は2022年2月24日(木) 14:30からの放送になります。