『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第107弾~
2024年11月14日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 今年21回目の放送です。
本地洋一さん: 今日のテーマは『コレステロール -脂質異常は何故いけないの?-』です。
本地洋一さん:今回の放送のテーマは『コレステロール』についてお話を伺いたいと思います。
まずは、『コレステロール』とは一体何なのか?まずはそこから教えてください。
松尾仁司院長:健康診断で『あなたはコレステロールが高いですから注意しましょう!』などと言われたことがある方もお見えになると思います。
健康診断の採血項目では総コレステロール、HDLコレステロール、LDLコレステロールなどがあります。
『コレステロール』とは血液の中の脂分の一つで、専門的な言い方で血中脂質といいます。これは文字通り血液に含まれる脂肪分を示しまして、最近よく耳にすることが増えてきた『LDL(悪玉)コレステロール』、『HDL(善玉)コレステロール』、『中性脂肪(トリグリセリド)』などの総称をいいます。
善玉コレステロールと悪玉コレステロール
水と油ということわざにもある通り通常水に油は溶けにくいのですが、『コレステロール』はあるたんぱく質と結合することにより血液という液体に溶け込んでいます。『コレステロール』はこのたんぱく質の種類の違いによって善玉になったり悪玉になったりするわけです。
その理由は、『LDLコレステロール』は肝臓で合成された『コレステロール』を全身の組織に運搬する働きをしています。つまり『LDLコレステロール』が多ければ多いほど全身の組織に多くの脂肪分が運ばれるため、組織の一つである血管内にもその脂肪がしみ込んで蓄えられ、これが動脈硬化の原因となります。そうすると、それをマクロファージという貪食細胞が血管の中にはいってきて『コレステロール』を食べて掃除しようとします。その後、食べて死んでしまったマクロファージの死骸が血管内にたまってしまいます。この死骸は『粥腫』といって動脈硬化のもととなります。
動脈硬化は全身で起こります。頸動脈や脳の血管で動脈硬化が起これば脳卒中の原因になりますし、心臓を栄養している冠状動脈に動脈硬化が起これば、狭心症や心筋梗塞の原因となることが知られています。
つまり、『LDLコレステロール』が高い人は、中高年を過ぎると脳梗塞や心筋梗塞といった動脈硬化性の恐ろしい病気にかかる可能性が高いことが知られていることから、『LDLコレステロール』は『悪玉コレステロール』と呼ばれているわけです。
逆に『悪玉コレステロール』の値が低い期間が長いほど冠動脈疾患イベント発症の危険性が低下し、人生における総『LDLコレステロール』値が低いほど心筋梗塞の発症率は低下するという報告もあります。
健康診断の際に血液検査でコレステロール値を定期的に測定する目的は、動脈硬化による恐ろしい病気を発症する前に動脈硬化を起こしやすいかどうかを見つけ、悪玉コレステロール値が高い人は対策をしましょうということなのです。
本地洋一さん:なるほど、 『LDLコレステロール』値と動脈硬化性の心臓病には明確な因果関係があるため、動脈硬化による病気を予防するためには血管を守り続けていくことが大切で、そのためには『コレステロール』のコントロールが必要ということですね!
『LDLコレステロール』基準値の範囲内でも、ほとんどの人は動脈硬化が進行しています
松尾仁司院長:健康診断の採血結果を見てみると、皆さんの測定値の横に基準値という値が書いてあるのをご存じでしょうか?たとえば、悪玉の『LDLコレステロール』の基準値は70~120mg/dl程度が基準値となっています。ご自分の『LDLコレステロール』の値が110mg/dlだった場合、基準値の範囲内なので正常であると解釈する場合が多いと思います。
しかしながら、この基準値というのは、健康な人々の検査データを統計学的に算出した数値で、20~60歳くらいまでの健康な人の検査成績をもとに、上限と下限の2.5%ずつを除外したもので、残りの95%の人の数値が基準範囲とされたものです。健常者の検査結果であるため。かつては「正常範囲(正常値)」と呼ばれていましたが,現在では『基準範囲 (基準値)』が一般的です。正常範囲という言葉には、あたかも「健康状態の指標である」などの多くの混乱や誤解があり、最近では、使用されなくなってきています。例えば、基準値の出し方から明らかなように、健康な人でも5%は基準値からはずれることになります。
また、『LDLコレステロール』の値と動脈硬化の進行という面から見た場合、70mg/dlよりも低い値の方は動脈硬化が進行しない反面、『LDLコレステロール』の値が70mg/dlを超えた人の場合は、たとえ基準値の範囲内であっても動脈硬化が進行していくことが分かっています。
したがって、現在のガイドラインでは冠動脈疾患が確定した患者さんにおいては、『LDLコレステロール』の値を70mg/dlよりも下げることを強く推奨しています。
本地洋一さん:『LDLコレステロール』の値を下げることは可能なのでしょうか?
松尾仁司院長: 主な治療法は以下の通りです。
- 薬物療法: スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬などの薬剤が使用され、LDLを効果的に低下させます。
- 食事と生活習慣の改善: 健康的な食事、運動、禁煙などが推奨されます。
- 重症例の治療: 遺伝性に血中LDLコレステロールが非常に高くなる家族性高コレステロール血症のうち、両方の親から異常な遺伝子を受け継いでいるホモ接合型の場合、血漿交換や肝移植などの治療が必要になることもあります。
吉田早苗さん: 善玉コレステロールについても教えてください。
松尾仁司院長: 『HDLコレステロール』は全身の組織に蓄えられた『コレステロール』を肝臓に戻す働きをしています。そのため『HDLコレステロール』が多いと組織にたまった脂肪を取り出してくる働きをしているため、『HDLコレステロール』の値が高いということは組織に脂分が沈着しにくくなり、動脈硬化の発症を抑えることが分かっています。これが『HDLコレステロール』が『善玉コレステロール』と呼ばれている所以です。
しかしながら、現在の医学をもってしても善玉コレステロールの値を上げる良い薬は開発されていないというのが現状です。
食事との関係が誤解されていた
かつては「コレステロールの摂取は血中コレステロール値を直接上げる」と考えられていましたが、最近の研究では、食事から摂取するコレステロールの影響は個人によって異なることがわかっています。ほとんどの人にとって、食事からのコレステロールは血中コレステロールに大きな影響を与えません。むしろ、飽和脂肪やトランス脂肪の摂取が血中コレステロールを増加させる主要因であるとされています。
松尾仁司院長: 人生50年の江戸時代と違って、日本人の平均寿命は延びて人生100年時代と言われています。
100年間元気で健康的な生活を送るためには、血管の寿命をのばすことが大切です。
そのためには、動脈硬化進行の原因の一つである脂質異常症をコントロールし、脳卒中や、心血管イベントを予防する必要があります。
最近は脂質異常症に対し効果的に『LDLコレステロール』の値を下げることが出来る良いお薬も開発されていますので、健康診断で脂質異常を指摘されたら是非とも医師にご相談ください。
吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2024年11月28日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。