虚血性心疾患に対するカテーテル治療

虚血性心疾患は急性冠症候群と安定狭心症に大別できます。急性心筋梗塞や不安定狭心症など急性冠症候群に対するカテーテル治療は患者様の生命を救うために質の高い治療が要求されます。また安定狭心症においては治療適応をきちんと吟味するとともに、複雑病変を治療する高い技術が要求されます。我々、岐阜ハートセンターでは開院時より24時間体制で循環器専門医が対応できるシステムを構築してきました。2009年2月開院時は上野勝己前院長(現松波総合病院心臓疾患センター長)、松尾仁司循環器内科部長(現院長)、三宅泰次医師、近藤裕樹医師(現松波総合病院循環器内科副部長)の4名体制、2カ月後より、土屋邦彦循環器内科部長(現副院長)、大久保宗則現循環器内科医長(現部長)、太田秀彰医師(現医長)が加わり、7人での初年度本格スタートでした。虚血部門は、上野、松尾が両輪となり其々の持ち味を発揮。そこにやる気溢れる多くの若手医師が加わり、凄い一体感を感じて日々を過ごしました。応援いただく沢山の先生方に支えていただき、初年度より800例を超えるPCI(経皮的冠動脈インターベンション治療)を実施することが出来ました。1日の手技が終わった後の症例検討会が終わり、急いで仕事を終えて帰宅するのは、毎日21-23時を過ぎていました。日々、先生方に感謝して10年がすぎてきたと感じています。2018年12月までの10年間で10720病変に対して冠動脈カテーテル治療を施行させていただくことができました。治療を岐阜ハートセンターでうけていただくことを選択していただけたすべての患者様、御紹介いただきました近隣の先生方に心より感謝申し上げます。

岐阜ハートセンターが目指すState of Art PCIとは

さて、虚血性心疾患患者様に対する最善の予後を期待できるPCIを考えると、5つの大切なポイントがあります。

  1. 外科を含めたハートチームで適応をきちんと検討する。
  2. 心筋虚血を正確に評価し、適応ある病変のみを治療する。
  3. 血管内超音波をきちんともちいてstentの拡張など最適化をはかる。
  4. 慢性完全閉塞病変など複雑病変をきちんと治療する。
  5. 至適薬物療法でリスクファクターコントロールをきちんと行う。

ということです。

岐阜ハートセンターではプレッシャーワイヤーを用いた虚血評価をきちんと行い、ハートチームで治療方法を検討し、IVUSやOCTでstentの最適化を行い、そして慢性完全閉塞も高い成功率で治療を行っています。実績グラフには、この10年間のカテーテル検査数、カテーテル治療数、IVUS検査数、OCT検査数、プレッシャーワイヤーによるFFR計測数を示します。ほぼカテーテル治療の全症例はimagingガイドで施行しており、FFR計測数も年々増加している傾向が御理解いただけると思います。
治療技術の面で考えますと、石灰化の切削に有用なロータブレーターは開院約2カ月後の2009年4月1日には施設基準をクリアし、認可をいただくことができました。2009年4月9日に第1例目のロータブレーター治療を行った後、10年間で928例の患者様にロータブレーター治療を行っております。その後、2018年にはDiamondbackという新しい石灰化病変への治療デバイスも使用できるようになり治療の幅もさらに拡がりました。またスーパーバイザーである豊橋ハートセンター循環器内科部長の土金悦夫先生、木下順久先生、菊名記念病院循環器センター長の本江純子先生に指導を仰ぎながら、慢性完全閉塞を含めた複雑病変に対するカテーテル治療を、より高いレベルでのPCIを目指し研鑽しております。もっとも高度な技術が必要とされる慢性完全閉塞の成功率88.0%が示すように、最高のカテーテル治療を提供できるように、スタッフ全員で日々研鑽を重ねています。
10年間を振り返ってみますと冠動脈狭窄治療に関する概念の大きな変革がありました。それは虚血評価の重要性がより認知され、保険診療においても2018年4月より安定狭心症においては多くの病変において虚血評価が必要となったことです。今までは狭窄度が強ければ虚血があってもなくてもステント留置するという解剖学的狭窄重症度に基づいた治療判断でしたが、虚血の有無に基づいた血行再建の妥当性を判断することが求められるようになりました。2014年より全国にさきがけて虚血を重視した血行再建適応の決定を行うことを実行し、狭窄病変の約50%の病変をステント留置せず、至適薬物療法で治療を行っています。このような理由でPCI治療症例数は2010年の1096例から2018年666例と約40%減少しましたが、必要な病変に対してのみにstent治療を行い、不必要な場所へのstent留置を行わず、至適薬物療法に徹底したことを示しています。このような虚血に基づいた虚血性心疾患の治療戦略決定の重要性に関しては、岐阜ハートセンターから全国の循環器インターベンション専門医の先生方にPOPAI(PCI optimization by physiology and imaging)というライブを主宰し、その必要性の情報発信を行ってきました。また全世界の著名な先生方と協力し多くのエビデンスの構築にも携わることができました。New England Journal of Medicine, Circulation, Journal of American College of Cardiology, Journal of American Heart Association, European Heart Journalなど多くの海外文献に岐阜ハートセンターが貢献した論文が掲載されました。ガイドラインに影響を与える臨床研究に大きく参画できたのは大変光栄であると考えております。
虚血性心疾患の治療ガイドラインも年々変化しており、全国的にカテーテル治療の適正化が厳格化する中で、先日の全国ランキングでもカテーテル治療数24位(東海北陸地方で第2位)という位置を維持してさらに数が増える傾向にあるのもご紹介いただきます先生方のお陰と感謝申し上げます。
虚血性心疾患の治療には血行再建のみではなく、術後の薬物療法の重要性も認識されています。御紹介いただいた先生方の御協力なくしては、最善、最適の治療は不可能と考えております。今後も御指導いただきながら、地域の先生方と協力しながら、よりたくさんの患者様の幸せに貢献していきたいと考えております。
まだまだ発展途上の我々ですが、謙虚に、常に考えながら、たゆまぬ努力を忘れずに精進していきたいと思います。今後の御指導をよろしくお願い申し上げます。

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