心臓弁膜症の一つである大動脈弁狭窄症は、心臓の出口の扉である大動脈弁が硬くなり、開放が困難になることにより、心臓に大きな負担がかかる病気です。現在、高齢化により最も増加している心臓弁膜症の一つです。重症になるまで症状が出にくいこと、症状が出てから急速に進行することが知られています。他の心臓病と同様に適切な診断、治療時期が求められます。
この大動脈弁狭窄症に対する治療法は、従来の外科開胸手術に加え、2013年10月よりカテーテルによる治療(TAVI)が本邦でも開始されました。今回さらにこの二つの治療を組み合わせた治療=“スーチャレス弁”による治療を2020年3月に岐阜県下の最初の施設として開始しました。スーチャレス弁とは、“スーチャ(Suture)=縫う”+”レス(less)=ない“つまり”縫わない“生体弁を用いて、外科開胸手術を行う方法です。この治療法の利点として、悪くなった大動脈弁を外科的に切除することが可能であること、生体弁を縫うことがなく、ステントというバネで固定することにより、心臓を停止する時間(大動脈遮断時間)が短くなるなどが挙げられます。冠動脈バイパス術など合併手術が必要な方、透析を受けている方(TAVIの保険適応外)などカテーテル治療が困難な患者様にも手術が可能です。この治療法の不利な点は、外科的な開胸手術ですので、カテーテルによる治療(TAVI)よりは体の負担はありますが、低侵襲手術(MICS)にも適応があり、場合によって体の負担を少なくすることも可能です。また、カテーテル治療(TAVI)と同様にステントというバネで固定するため、縫合する生体弁よりペースメーカーが必要となることがやや多いことが挙げられます。治療にはそれぞれの利点・欠点があります。我々は、患者様の状態や背景を見ながら、様々な治療法を提示して、患者様と相談しながら最適な治療法を選択することが最も重要と考えております。
大動脈弁狭窄症の治療方法がさらに増えたことは、患者様にも我々医療従事者にも朗報です。
当院では、大動脈弁狭窄症に対する全ての治療法を提供できるようになりましので、遠慮なくご相談ください。
心臓血管外科 小山 裕(文責)