狭心症の冠動脈バイパス術
手術の内容
新しい道(バイパス)をつけるために、使う材料として下図右のような血管を用います。
図1
心臓の手術では、一般的に、「人工心肺」(図2)と呼ばれる機械を用いて心臓の血液循環を代行させます。人工心肺の装置は人間の行っている呼吸作用と心臓循環の作用を完全に代行します。すなわち、この間は呼吸と心臓が完全に停止している状態になります。
人工心肺を使う冠動脈バイパス術(オンポンプ)と使わない手術(オフポンプ)の全国件数の比は、4:6です。(2004年日本胸部外科学会による全国手術統計)
図2 人工心肺(←は血流方向を表す)
現在、オフポンプとオンポンプとの比較では、
- 両者の、手術死亡、1~2年までの死亡に差はない
- オフポンプの方が、手術の周辺で合併症の頻度が低い
- オフポンプの方が、術後入院期間が短い。出血量、輸血量が少ない
- オフポンプの方が、脳血管が細い場合や腎障害がある場合に、有利である――と
されています。
(循環器病の診断と治療に関するガイドライン 04-05年度報告より)
これらのことは、より安定した手術時の麻酔管理や、確実な吻合技術などに裏打ちされることにより実現されます。当院では、冠動脈バイパスには、オフポンプを第一選択として採用しています。
09年には、当院では、バイパス術29例(オフポンプ25例、オンポンプ4例)を行いました。
また、グラフトには、よりよい長期成績が報告されている両側内胸動脈を採用しております。
心臓の血管が細い方は、他の部位の血管が細い可能性も十分あります。このため、他院の脳外科医との緊密な連携のもとに、脳・頚部MRを行うことで、診断、治療方針を立てております。
手術の危険性
日本胸部外科学会による全国手術統計(04年)では、冠動脈バイパスの病院死亡率は1.7%と示されています。(緊急手術の場合10.8%)
手術を行わなかった場合に予想される経過
現在、すでに内科的治療を十分行った状態です。それにも関わらず、狭心症が頻発するようならば、そのままでは、心筋梗塞へ移行する危険性があります。
狭心症自然歴(http://www.ctsnet.org/residents/ctsn/から和訳)
- 狭窄の進行
進行度は個人差があります。若年、高脂血症、末梢循環障害のある場合、より急速に冠動脈の狭窄が進行します。 50%の患者様が2年以内に新たな狭窄病変を起こします。 - 心機能の低下の進行
虚血領域がより大きくなる場合、負荷テストで心臓全体の機能が低下します。安静時の心機能の低下は通常心筋梗塞の瘢痕(心室瘤)に由来します。
手術後の経過観察
手術を受けた場合、狭心症が再発する可能性はゼロではありません。再発の主な理由は、静脈グラフトの閉塞と冠動脈自体の狭窄の進行です。長期のグラフトの開通を良くするためにも、動脈硬化を促進する因子(高血圧、糖尿病、高脂血症、禁煙、肥満など)をコントロールすることが重要です。
- 静脈グラフト
10年間開通している確率は、 およそ50~60%です。
ほとんどのグラフトが10年間で動脈硬化の変化をきたします。 - 内胸動脈グラフト
静脈グラフトに比し、動脈硬化を起こしにくいグラフトです。
10年間開通している確率は、 およそ90%です。 - 橈(とう)骨動脈グラフト
内胸動脈グラフトと静脈グラフトの中間的な存在ですが、まだ、長期成績を待たなければなりません。手掌の循環が不完全な場合、使用することができないことがあります。
右胃大網動脈などの長期成績の結論は、まだ出ておりません。
術後心臓カテーテル検査を行い、新たに作成したバイパスの状態・心機能等を評価いたします。問題がなければ、退院となります。退院に際して、医師、看護師、理学療法士(リハビリテーション)、薬剤師から、それぞれ退院指導を行います。
近隣の方の場合、数回、当院心臓外科外来に来ていただきます。退院後の様子、安静度の相談をいたします。その後は、ご紹介いただいた病院での外来通院となります。退院の際、こちらから、報告書、心臓カテーテル検査結果コピー、CDをお渡しします。また、身体障害者申請書類を準備させていただきます。役所へ提出して申請を行ってください。個人の保険書類も必要であれば、退院前に主治医までお知らせください。
その後は、当院でも、6カ月後、年1回の経過観察を行います。身体的・精神的に、健康感を感じるには個人差がありますが、3カ月~6カ月かかります。
心筋梗塞の冠動脈バイパス手術
心電図で明らかに心筋梗塞が診断される場合、より早く、血行再建するという観点から、原則として内科的治療が優先されます。しかし、その内科的治療が不成功に終わった場合や高度な左主幹部病変などの場合は、手術を行うことがありえます。
外科手術に踏み切った場合、心筋梗塞3日以内の手術成績はよくないといわれています。3日以内に行うのは、心臓補助(IABP、経皮的人工心肺)などを必要とした、大変危険性の高い場合に限られます。
手術の内容
新しい道(バイパス)をつけるために使う材料として下図右のような血管を用います。
図1
手術の危険性
日本胸部外科学会による全国手術統計(2004年)では、冠動脈バイパスの病院死亡率は1.7%と示されています(緊急手術の場合10.8%)。
図1
心筋梗塞後合併症に対する手術
心筋梗塞後、数日以内に起こりうる重篤な病気があります。
心室中隔穿孔
左右の心臓の部屋の間の筋肉が心筋梗塞で崩れ落ち、穴が開いてしまう病気です。
診断が時には難しく、ひとたび診断がつけば、すみやかな手術治療が必要です。
僧帽弁閉鎖不全(乳頭筋断裂)
急激な心不全、肺水腫が特徴的です。すみやかな手術治療が必要です。
自由壁破裂
急激なショックが特徴的です。すみやかな手術治療が必要です。