6月を迎え、梅雨の季節となりました。雨の日が増えて、外出が減ると、体の力が抜けたような感じがしませんか?実は、心臓の患者さんにとって「筋力を維持する」ことは、元気で自立した生活を送るために、とても大切です。「筋力トレーニング」と聞くと、ジムでの激しい運動を思い浮かべるかもしれませんが、実はご自宅でも、無理なく安全に行える筋力トレーニングがあります。今月は、心臓に優しい筋力運動の方法についてお伝えします。
今月のテーマ:なぜ筋力が大切なの?
心臓リハビリテーションでは、「有酸素運動」(散歩など)と同じくらい、「筋力トレーニング」を重視しています。それはなぜでしょう?筋力が低下するとどうなるのでしょうか?
心臓の病気で入院したり、安静にしていると、筋肉は驚くほど急速に減少します。このプロセスは「廃用性萎縮」と呼ばれます。
筋力低下による影響として以下のようなことがあります。
• 歩く速度が遅くなる
• 階段の上り下りが辛くなる
• 買い物袋が持てなくなる
• 転倒のリスクが増える
• 日常生活の自由度が低下する
• 生活の質(QOL)が大幅に低下する
2024年に発表された研究では、心不全患者における抵抗運動(筋力トレーニング)の重要性が詳しく分析されました。この研究が示す筋力トレーニングの効果として以下のようなことが挙げられます。
1. 心臓機能の改善
• 心臓への負荷が軽減される
• 効率よく血液を全身に送り出せるようになる
2. 全身の体力向上
• 有酸素運動の効果が高まる
• 日常生活動作が容易になる
3. 生活の質の向上
• 自分でできることが増える
• 自信と活力が戻る
• 転倒による寝たきりリスク低下
4. 長期的な予後改善
• 入院リスク低下
• 生存率向上
(参考文献:Fisher S, et al. Resistance Training in Heart Failure Patients: Systematic Review and Meta-analysis. Heart Failure Reviews. 2024)
安全で効果的な筋力トレーニングを行う上で重要なのが基本原則
心臓患者の筋力トレーニングは「軽め」がポイント:
• 無理のない負荷(軽く疲れる程度)
• ゆっくりとした動き
• 呼吸を止めない
• 軽く汗をかく程度
トレーニング前の確認事項
以下の場合は、運動を避けて主治医に相談してください:
胸痛や圧迫感がある
強い息切れがある
めまいやふらつきがある
最近心不全が悪化している
不安定な不整脈がある
自宅で安全にできる筋力トレーニング
1. スクワット(下肢筋力)
目的: 太ももの筋肉を鍛え、歩く力・立ち上がる力を強化
やり方:
1. 足を肩幅に広げて立つ
2. 膝をゆっくり曲げる(イスに座るイメージ)
3. 膝の角度が90度になったら、ゆっくり立ち上がる
4. 呼吸:下ろす時に吸って、上がる時に吐く
回数: 10-12回 × 2-3セット
頻度: 週2-3回
強度: 最後の2-3回が「きつい」と感じる程度
初心者向け:
• 椅子の背を持ってバランスをとる
• 浅めのスクワット(膝を少し曲げるだけ)から始める
• 初めは週1-2回から
2. ウォール・プッシュアップ(胸・腕の筋肉)
目的: 胸部、腕、肩の筋肉を鍛える
やり方:
1. 壁に向かって立つ(壁から腕1本分の距離)
2. 両手を肩幅に広げて壁に置く
3. 肘を曲げて、ゆっくり壁に近づく
4. 元の位置にゆっくり戻る
5. 呼吸:近づく時に吸って、戻る時に吐く
回数: 8-10回 × 2セット
頻度: 週2-3回
強度: 「やや辛い」と感じる程度
3. レッグレイズ(下肢・腹部の筋肉)
目的: 太もも前面と腹部の筋肉を鍛える
やり方:
1. 椅子に座る
2. 片方の足を、膝を伸ばしたままゆっくり上げる
3. 足が地面に着かない高さまで上げたら、ゆっくり下ろす
4. 反対の足も同じように行う
5. 呼吸:上げる時に吐いて、下ろす時に吸う
回数: 片足10回 × 2セット(両足で20回)
頻度: 週2-3回
4. ダンベル・カール(腕の筋肉)
目的: 腕の力を鍛え、日常生活(持ち物を持つなど)をサポート
やり方:
1. 軽いダンベル(500ml-1Lペットボトルで可)を両手に持つ
2. 腕をまっすぐ下ろした状態から、ゆっくり肘を曲げる
3. ダンベルが肩の高さまで上がったら、ゆっくり下ろす
4. 呼吸:上げる時に吐いて、下ろす時に吸う
回数: 12-15回 × 2セット
頻度: 週2-3回
重さ: 最後の数回が「きつい」と感じる軽さ
今月のアクション:筋力トレーニングを開始しよう
1. スタッフに相談して、自分に合ったプログラムを作成
• 現在の筋力レベルの確認
• 医学的に安全かの確認
• 個別の推奨種目の決定
2. 1つまたは2つのトレーニングから開始
• 最初から全部やらない
• スクワット + ダンベル・カール など
• 無理のない負荷で
3. 運動記録をつける
• 実施日時
• 実施内容(種目、回数、セット数)
• 体の感覚(疲れた、楽だった、きつかった など)
• 気づいたこと
4. 4週間後に自分の変化を確認
• 階段が楽になったか
• 疲れやすさは改善したか
• できることが増えたか
最後に筋力は、単なる「筋肉の大きさ」ではなく、「自分の人生を自分で切り拓く力」です。
買い物に行く、孫と遊ぶ、趣味を楽しむ。こうした日常のすべての活動は、筋力があってこそ、成り立ちます。
心臓リハビリの経験から言えることは、多くの患者さんが「できないと思っていたこと」が、実は筋力トレーニングで「できるようになる」ということです。
6月は「筋力を育てる」月。梅雨の雨も味方にして、室内での運動を習慣化し、元気な体を作っていきましょう。
次の3ヶ月で、きっと体の変化を実感できます。一緒に頑張りましょう!

次回予告:
7月は「暑い夏を乗り切る工夫」をテーマに、夏場の安全な運動方法と体調管理についてお伝えします。お楽しみに!
理学療法士はあなたにとってベストな運動管理を提供します。ご興味のある方は心臓リハビリテーション室(058-213-0488)までご連絡ください。
また、ご質問がある方は是非ご連絡頂ければ幸いです。