植込み型心臓モニタ(ICM:Insertable Cardiac Monitor)とは?
ふらつき、失神といった意識消失発作の一般人口における発症率は年間0.62%と報告され、救急外来を受診する患者の約1~3%と報告されています。総務省から報告されている救急車の出動件数は平成30年度の時点で約660万台とされており、正確な数字ではありませんが、概算で約12万人の方が意識消失発作のため、救急車で受診していることになります。実際は救急車を使わずに救急外来を受診されている方もみえるため、相当数の方が意識消失発作のため医療期間を受診していることが想像されます。
意識消失は発作時の状況や基礎疾患、服薬内容等の問診が診断のためには重要となりますが、その原因は多岐にわたるため、最終的に確定診断に至らないこともあります。報告によって差はあるものの、約5~41%の確率で原因不明であったとされています。その要因のひとつとして、来院時に症状が改善していることが挙げられます。確定診断に至った中での原因では神経調節性失神が最も多く、予後への影響は乏しいと報告されています。次に頻度の高い心原性失神は失神の経験がない方と比較し、その後の死亡率が2倍であることが報告されています。そのため原因不明の意識消失発作において、心原性失神の診断(もしくは否定すること)は重要になります。心原性失神の確定診断を得るためには発作時の心電図所見が必要となります。ただ発作時の心電図を得ることはこれまで非常に困難でした。ホルター心電図でも最長2週間であり、その間に発作がなければ診断できませんでしたが、近年、植込み型心臓モニタ(ICM:Insertable Cardiac Monitor, 植込み型ループレコーダー、植込み型心電図)が開発されました。植込み型心臓モニタは局所麻酔下に小切開を必要としますが、約3年間心電図を記録することが可能な植込み型心電計となります。植込み型心臓モニタによりこれまで原因不明とされていた意識消失発作の約2/3が診断に至ったとの報告があり、原因不明の繰り返す失神や外傷を伴う失神、心原性が疑われる失神の場合、考慮されるべき植込みデバイスと考えられます。また植込み型心臓モニタは原因不明の脳梗塞においても適応となります。発作性心房細動(PAF:Paroxysmal Atrial Fibrillation)という不整脈が原因で心内に血栓ができ、これが原因で脳梗塞を繰り返していることがあります。しかしその原因の発作性心房細動が同定されていない場合があります。心原性脳梗塞であった場合、その治療方針が変更となる場合があり、その診断は重要です。これまでに原因不明の脳梗塞に対して、植込み型心臓モニタはホルター心電図を含めた諸検査より有意にPAFを検出し、診断に至ったことが報告されています。
植込み型心臓モニタ植込みの実際
植込み型心臓モニタの植込みは約10分程度で終わります。胸骨左側に心臓の位置に合わせて挿入するように、約1cm程度の切開を加え、長さ45mm程度の植込み型心臓モニタを皮下に挿入。植込み型心臓モニタが十分にご自身の心拍を読み取ることができるか確認し、創部を閉鎖し、終了となります。合併症については、局所の出血・血腫や感染の可能性がわずかにあるのみで、大きなものはほとんどありません。植込み手術は日帰りでも可能です。また植込み翌日より出血等の問題なければ入浴も可能となります。植込み後は日常生活に制限はなく、MRIといった強力な磁場を発生する画像検査も撮像可能です。不整脈が起これば、植込み型心臓モニタ は自動的に心電図を記録します。また、失神した後、もしくはめまい、動悸などの症状を感じた際に、「アクティベータ」という小さなリモコンを胸にあててご自分で記録することで、不整脈が起こっていなくても心電図を記録することができます。このアクティベータを胸の上にあててボタンを押すと、植込み型心臓モニタ はボタンを押した時点より前まで時間をさかのぼって心電図を記録してくれます。これは症状が起こっている間、あるいは意識が回復してからできる限り早く行ってください。さかのぼれる時間には限りがあります。症状がある間や失神中の心電図を記録することが大切です。いつでも記録できるように、アクティベータは常に携帯しておくことが重要です。
また植込み後は遠隔モニタリング導入(詳しくはペースメーカー外来を参照ください)となります。遠隔モニタリングは植込み型心臓モニタと送信機との間で交信し、そのデータをサーバーを介して担当の医療機関へ送信されるものになります。そのため自宅にいながら、発作時の心電図は記録されているため、医療機関へデータを送信することが可能です。
植込み型心臓モニタにて診断後、もしくは3年が経過した場合、抜去が可能となります。植込み時同様に約10分程度で抜去が可能です。
植込み型心臓モニタは意識消失の原因精査として有用なツールとなります。しかし1cm程度とはいえ小切開が必要であり、侵襲的検査方法といえます。発作時の状況や基礎疾患・内服内容を十分に確認し心原性失神が疑われる場合、繰り返す場合や外傷を伴う場合は主治医と十分に相談のうえ、植込みを考えてください。