皮下植込み型除細動器(S-ICD)とは

心室頻拍・心室細動といった致死的不整脈の危険性が高い場合もしくは、すでに確認されている場合、その治療法は植込み型除細動器(ICD: implantable cardioverter defibrillator)が第一選択となります。1980年に世界初で植込み後、本邦では1996年より保険償還され、現在、突然死予防治療の第一選択として用いられています。従来のICDは前胸部皮下に植込みされた電池と経静脈的に心室へ挿入・植込みされたショックリードから成り立っています。ただ経静脈的に挿入されるリードのため血管損傷・気胸・心穿孔といった合併症が少なからずあります。この問題点を回避すべく開発されたものが皮下植込み型除細動器(S-ICD: sub-cutaneous ICD)です。これは血管内よりリードを挿入せず、リードは左側胸部~胸骨左側の皮下に植込みされ、電池は左側胸部へ留置されます(図 1)。これにより血管損傷・気胸・心穿孔といった合併症が経静脈的なICD(TV-ICD: transvenous ICD)と比較し有意に少ないことが報告されています。

図1 S-ICDの植込み

S-ICDの利点

・従来のICDと比較し、血管損傷・気胸・心穿孔といった合併症が少ない。
・左側胸部への植込みのため、前胸部へ植込みとなるICDと比較し、目立ちにくい。
・抜去がしやすい。
ICDを含めたペースメーカーは約0.5~2%の確率で感染のリスクがあります。その場合、基本的にはリード・電池を含めたシステムの全抜去が必要となります。この場合、心筋や血管に固着しているリードを抜去しなければならないのですが、抜去の際、心穿孔や血管損傷といった合併症があります。S-ICDはリード・電池が皮下のみのため、抜去は従来と比較し、このような合併症なく、容易となります。

S-ICDの欠点

S-ICDはICDの合併症を減らすために開発が進んだため、血管損傷・気胸・心穿孔といった合併症が少ないのですが、皮下のみでの植込みという特異点より、これまでとは異なった欠点もあります。そのため、植込みに際しては術前の評価を元に十分に主治医と相談し決定してください。
・自己心拍を確実に確認する心電図(誘導)が得られない場合、植え込みができない。
・ペーシング機能がない。
・電池のサイズが若干、大きい。
従来のICDは心臓内へ留置されたリード先端もしくは電池を含めて患者さんの日常時の心電図を得ていました。これを元に心室頻拍・心室細動といった致死的不整脈の発症を正確に同定し、治療開始となります。S-ICDは心内にリードはないため、TV-ICDと異なり、皮下のリードと電池の間での心電図をもとに判断することになります。これまでの報告では適切作動や誤作動に関してその識別能力は従来のICDと遜色がないことが報告されています。ただS-ICDは3つの異なったベクトルの心電図を得ることができるのですが、全ての誘導で日常時の心電図を識別することが困難な場合は植込みの適応外となります。
ICDは致死的不整脈発症時の治療方法として電気的除細動(CV: cardioversion)と抗頻拍ペーシング(ATP: antitachycardia pacing)があります。CVは俗称としては”電気ショック”に当たり、作動時には多少痛みを伴います。できれば苦痛を伴うことなく不整脈を停止させたいため、リードよりその不整脈の頻拍レート(速さ)より速いペーシングレートで短時間、連続的に刺激をすることで停止することが可能です。これをATPといいます。全ての頻拍が停止できるわけではありませんが、苦痛がなく停止させることができるため、CVよりできる限り優先される治療方法となります。S-ICDはリードは心内に無いため、ペーシング機能はなく、ATPが現段階では使えません。ATPにて停止が可能な不整脈の場合や、ペーシングが必要な病態(完全房室ブロックや心室内伝導障害を伴う心不全)ではS-ICDを用いることができません。そのため、S-ICDは遺伝性不整脈疾患(ブルガダ症候群、QT延長症候群、特発性心室細動など)が良い適応疾患と思われます。
現行のS-ICDは従来のICDと比較し若干大きく、切開線は大きくなります。またその大きさ故か、ポケット関連合併症(血腫、感染)がICDより多いことが報告されています。