1.ペースメーカとは

人間の心臓は一日に約10万回拍動するといわれています。寿命を80年と仮定すると約30億回休むことなく拍動し続ける大変な働きものの臓器です。この心臓という臓器は心筋という特殊な筋肉でできており、左右にそれぞれ心房と心室と呼ばれる部屋に分かれています。心房と心室は電気的な刺激により興奮し、一定の間隔をおいて順番に規則正しく収縮と拡張を繰り返すことで全身に血液を送り出すポンプとしての役割を担っています。

この心房と心室の電気的な興奮は、体の外から心電図というかたちで観察することができます。心臓に病気がある場合、心電図は正常とは異なる波形を認めることがあります。また、心臓の病気にはさまざまなものがあり、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、弁膜症、不整脈や心筋症などがあり、それぞれの病気に対して異なった治療方法が行われます。

ペースメーカは主に徐脈性不整脈の治療に使用されます。徐脈とは脈が遅くなることにより、意識を失ったり、日常生活に支障をきたしたりするほどのめまいや、疲れやすくなるなどの症状を引き起こす病態です。病名として、洞不全症候群や房室ブロックといわれる徐脈性不整脈に対してペースメーカの植え込みを行います。

2. ペースメーカ手術とその後の生活について

最も一般的な方法として、左右どちらかの鎖骨の下3cm程の位置に局所麻酔を行い、皮膚切開した後、鎖骨下静脈という血管からリードと呼ばれる電線を心臓の中を通し植え込む方法があります。局所麻酔下で行うため、全身麻酔とは異なり患者様は意識のある状態で手術を行います。当院では入院期間を約1週間が目安となります。

その後の生活に関しては、不安なことが多々あると思います。当院では私たち臨床工学技士が、患者様やご家族の方に対し日常生活で気を付けていただくことを説明いたします。具体的には以下の4つが挙げられます。

a. 体に電気を流さない(電気風呂や低周波治療器など)

ペースメーカは心臓の電気的な活動を24時間365日観察し補助を行っていいます。体に心臓以外から電気が流れてしまうとペースメーカが勘違いし、誤作動を起こしてしまう可能性があります。ご家庭にある多くの器機は影響が少なく、IH調理器具、炊飯器や電子レンジ等は約22cm離れれば使用することができます。マッサージチェア、体脂肪計や電気自動車の急速充電器等は影響を受ける可能性が高いため、ご使用を控えていただく必要があります。詳しいことは医師もしくは臨床工学技士にご相談ください。

b. 磁石を体に近付けない(磁気ネックレス、磁気ベルト、ピップエレキバンなど)

体内に植え込まれたペースメーカの上に磁石を乗せるとペースメーカの安全機構により脈が突然速くなり、補助する力が最大となりその結果、電池を消耗し寿命が短くなります。磁石を離していただければもとに戻りますが、普段から磁石をペースメーカへ近付けないように心掛けて下さい。従来は撮影不可能であったMRI撮影も条件を満たせば撮影が可能なペースメーカも近年増えてきています。

c. 手術後、半年間は肘を肩の位置以上に上げない

手術を行った直後のリード線(電線)はまだ心臓にしっかりと固定されていません。イメージとしては、こんにゃくに細い電線がねじ込んである状態と似ていてとても不安定です。個人差はありますが、半年程経過するとリード線の先に自身の組織がまとわりつき抜けなくなります。リード線がしっかりと固定されるまでの半年間は、急に腕を上げる、ぐるぐる回す、後ろに引っ張るなどの動作を控えてください。しかし、ずっと動かさないでいると半年後、肩が動かなくなることがあるので、ゆっくり無理のない範囲で動かすことを心掛けて下さい。

d. ペースメーカ手帳は必ず携帯行動する。病院、歯科医院、接骨院を受診される際には必ずペースメーカ手帳を提示して下さい。

ペースメーカ手帳には、本体、リード線の名前や設定、作動状況など非常に大切な情報が記載されています。必ず持ち歩くようにしましょう。また、病院にある医療機器の多くはペースメーカの作動に影響を与える可能性が高いため、必ずペースメーカ手帳を提示しペースメーカが植え込まれている旨をお伝えください。

3. 遠隔モニタリングシステムをご存じですか?

近年、医療技術の進歩によりペースメーカ各社が遠隔モニタリングシステムを導入しています。当院においても2009年2月より採用しています。

遠隔モニタリングシステムとは、ペースメーカの植え込み機器情報(データ)等を、携帯電話回線を通じて自宅など離れたところから医療施設へ送ることができる、新しい医療サービスです。ペースメーカは、24時間365日機器本体や心臓に関する情報を記録してます。具体的には、ペースメーカの電池状態、リード線(電線)の状態、不整脈の有無などの情報を送信することができます。この情報は医師が診断や治療をする際に役立ちます。遠隔モニタリングシステムのサービスを受ける為には、専用のモニタ(データ送信器)をお使いいただきます。モニタ(データ送信器)をご自宅の寝室などお休みになる場所から3m以内の所に設置していただき、電源を入れていただくだけでデータを送信することができます。このシステムにより電池残量、ペースメーカの不適切な作動、リード線(電線)の異常、ノイズ(電磁干渉)の発見、不整脈による心不全、心筋梗塞など様々な異常を早期に発見することができます。また、遠隔モニタリングシステムを導入することにより、定期的なペースメーカチェックのための来院回数を少なくすることが可能となりました。

各社の遠隔モニタリング送信器

送信器の設置方法