4階病棟看護師長 加藤 小代子

定期外来受診のため当院を来院したAさんは、下肢の浮腫や動く際の呼吸困難があり精密検査の結果、心不全の増悪と診断されそのまま入院加療することになりました。入院時より酸素投与と持続点滴が開始されました。持続点滴は1週間程度を予定し症状の経過をみながら内服へ変更していく予定を伝えると、Aさんから「点滴がはずれたら、ネコの餌をあげるために1時間くらい外出がしたい」と相談がありました。Aさんは10年前にネコを飼い始め、ネコとの2人暮らしをしていました。しかしAさんが突然入院してしまったので、誰もネコの餌やりをすることができていない状態だったのです。「過去にも同じようなことがあったため、1週間程度は大丈夫なように常に餌や水を用意してあるから大丈夫と思うけど…」とAさんは心配そうに話していました。

Aさんが入院されたのは、新型コロナウィルス感染拡大対策として、当院の入院患者様への面会や、入院中の患者様に対して入院中の外出を禁止させていただいていた頃でした。そのため私たち看護師は、今の状況で外出をすることは難しいかもしれないと思いながらも、退院する頃までネコが元気でいるのだろか、ネコに何かあればAさんは治療して元気に退院しても、生きがいはなくなってしまうのではないかと悩みました。

何とか餌をあげるための方法はないかと考え、当院の公用車を使用し看護師付添いでの外出計画を立てました。Aさんに餌やり外出の計画を伝えると、とてもうれしそうな表情がみられ、酸素投与や持続点滴を終了後はリハビリにも積極的に取り組まれました。少しの動作では呼吸困難がみられないことを確認できた入院8日目、無事にネコの餌やり外出に行くことができました。自宅に戻ったAさんは、満面の笑みをうかべながらネコを腕に抱いていたのがとても印象的でした。帰り道の車中でAさんは奥様ととても仲が良かったこと、その奥様が亡くなったあと、たまたま出かけたショッピングモールでネコを見て一緒に住むことにしたこと、ネコには奥様の名前をつけていることを話してくれました。

Aさんのお話を聞いて、外出は絶対に無理だと決めずに何かできることはないかとあきらめずに方法を探して本当に良かったと感じました。Aさんは入院15日目に元気に退院されました。