認知症看護認定看護師 加藤小代子

国の推計によると、2025年には認知症の人の数は700万人に達し、65歳以上高齢者の約5人に1人が認知症になると見込まれているます。認知症は特別な病気ではなく、自分や身近な人がなる可能性があると言われています。当院では、認知症のある患者さまも適切な身体疾患の治療が受けられるよう、看護師の対応力向上を目指して認知症ケアチームが2019年に発足しました。

認知症のある方が入院されると、慣れない環境や侵襲を伴う治療などの影響により、認知症の行動・心理症状(以下、BPSDと記載)やせん妄を発症することが予測されます。そのため、直接の入院原因となった身体疾患だけではなく、BPSDへの対応も大切と考え、認知症のある方が、入院による環境の変化に順応することが難しい理由や、興奮や混乱を起こしてしまう課程についての学習会や認知症の方の視点について、院内スタッフに定期的な情報発信をしています。

当院では、循環器疾患の急性期治療を優先しなければならない期間において、治療の要となるカテーテル類を患者さまが無意識に自分で身体から外してしまう行為を防ぐために、手や足を自由に動かせないようにする行為(以下、身体拘束と記載)をしなければならない場面があります。身体拘束をすることは、その人の意思で自由に動くことができなくなる行為のため、軽々に行ってはいけないことだと十分に認識をしていますが、「患者さまの生命と安全を守るため」「緊急やむを得ない状況だ」という場面においては、「避けたいことだけれど、必要なことだ」と葛藤を感じています。

そこで、安全を守るという看護師の立場ではなく、自由が制限されるという患者の立場を経験することで、身体拘束を回避または最小限にする気づきにつながるのではないかと考え、病棟看護師全員を対象として身体拘束による行動制限体験研修を実施しました。

この体験により、

「いつまで拘束が続くのか分からなくて不安」

「なかなか看護師が来なくて、身体の痛みや痒みを伝えられない」などの気づきがありました。

認知症のある方に対してベッドからの転倒予防やルート類の自己抜去予防のために身体拘束を実施したり、夜間の鎮静目的でお薬を投与することが対応の第一選択とされていましたが、少しずつ、認知症のある方の言動の理由に目を向けた関わりや想いに耳を傾ける行動ができるように変化してきたと感じています。

急性期医療の現場では、入院の契機となった疾患の治療が優先されがち(救命のため)ですが、認知症の症状に対する適切なケアを実践することで、身体疾患の早期回復や早期退院につながると言われています。認知症のある方の言動の意味や気持ちをすべて理解することはできないかもしれません。だからこそ、チーム活動を通して、認知症のある方が体験していること、何に困っているのか、残された力は何かに着目して、その人らしさを維持できる関わりをする風土づくりをこれからも進めていきたいと考えています。