3階病棟 看護主任

 みなさんは今後の人生について考えてみたことはありますか?

誰しもが長く幸せな人生を全うしたいと願っているのではないでしょうか。幸せな人生とは何か。大切な人たちと一緒にいられること、おいしいご飯が食べられること、趣味やスポーツなど好きなことができること、仕事が続けられることなど、人それぞれ価値観や人生観は違いますが、幸せだと感じることがあり、望む人生があるのではないかと思います。

そんなあなたが望む幸せな人生を考えたとき、長寿高齢化は日本だけではなく世界全体で進み人生100年時代と呼ばれるようになりました。健康に対する価値観や社会システムも変化している中で、私たち一人一人が望む幸せな人生を考えた時、ただ生きているだけでなく人生の長い時間をいかに健やかに過ごせるか?ということが重要になってきました。

これからの社会の中では、従来の学校教育に留まらない生涯にわたる学習や、若者から高齢者まで多世代の多様な背景の人々がそれぞれ活躍できる場をもち、元気で安心して暮らせる環境を作っていくことが重要とされています。

しかし、人は加齢や生活習慣、ストレスなど様々な要因で病気になります。循環器専門病院である当院にも様々な心臓や全身の血管に様々な病気を抱えた方が来院されます。なかでも、心不全は様々な心臓の病気がたどる終末像であり、生活習慣病の増加や高齢化により心不全をきたす患者さんはどんどん増えてきています。「心不全」とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。心不全は完治するものではないので一生付き合っていかなければいけません。

心不全とうまく付き合いながら生活していくためには、自分の体調をチェックしながら、必要な薬を忘れずに飲むことや減塩を守りながら心臓に負担をかけすぎない生活を送ることが大切になります。私たち岐阜ハートセンターでは、病気の治療だけでなく、心不全の患者さんのより良い日常生活を支えるために、医師や看護師、薬剤師や理学療法士、栄養師、ケースワーカーなどによる多職種医療チームで協力し、患者さんが心臓にやさしい生活を送るための様々な支援をさせていただきます。

最近、入院された患者さんへの支援をご紹介します。もともと晩酌が好きで奥さんと毎日おつまみを食べながら晩酌をすることが楽しみだという患者さんが心不全でご入院されました。晩酌やその時に食べるおつまみが塩分摂取量を増やしている可能性がありました。しかし、晩酌やおつまみをやめましょうという指導ではなく、飲酒の量や晩酌の回数、おつまみの内容など、患者さんやご家族と看護師、栄養士ととともに検討し、楽しみを続けながら心臓にやさしい食生活を送る支援をさせていただきました。また、畑仕事や地域の友人と行うゲートボールが生きがいという患者さんがご入院された時は、心不全になったことで畑仕事やゲートボールが心臓に負担をかけてしまう可能性がありました。しかし、畑仕事やゲートボールが人生の楽しみであり生きがいでもあると伺いました。これらを長く続けていくための方法を患者さんやご家族と看護師、理学療法士とともに検討し、筋力トレーニングの継続と心臓にかかっている負担の状況を確認させていただくために退院後も当院の心臓リハビリテーションに通っていただくこととしました。また、畑仕事やゲートボールを行う日数の調整を行い、ご家族の支援を受けながら長時間継続して行わないこと、休憩を挟みながら行い、息切れが出た時はやめることなど注意する点を一緒に確認し、どうやったら楽しみを続けていけるか話し合いました。

患者さんやご家族に自宅での生活状況や生きがい、今後も続けたいことなどを入院中にお伺いして治療方針に反映していくことが大切だと考えております。患者さんやご家族が望む生活に戻れるように、入院時から理学療法士や看護師によるリハビリテーションを行いながら、専門職による薬剤や栄養指導含めた生活支援をすすめていきます。また、退院後も安心して療養し生活していただけるように、地域の支援者の皆様にも当院で行った心不全支援について情報提供し継続した支援ができるように努めています。

現代日本では、心不全パンデミックと呼ばれるほど心不全患者が増え続けており、大きな社会課題となっています。しかし、私たち岐阜ハートセンターは、一人一人の心不全患者さんの幸せな人生を諦めず、患者さんとご家族の望みを可能な限りかなえられるよう、心臓病のエキスパートたちが多職種で協力して支援を行います。

当院を受診される患者さんはもちろん、地域の皆様が健やかで幸せな人生を送れるよう、医療人として全力を尽くし続けることが、我々岐阜ハートセンターの使命だと感じています。