「まな板の上の鯉だから…。」「手術は先生にお任せします。」
術前訪問に行くと手術を待つ患者様からはそのような言葉をよく耳にする。
数ある病院施設の中から当院を選択された患者様は、外来に足を運び検査を受けそのまま帰宅の途につけると思って見える方が大半である。「手術しなければよくなりません」と言われた患者様は自身の心境の整理がつかないままに入院・手術のオリエンテーションへと時間が経過していく。
近年、日本は世界第2位の長寿国となり4人に1人が高齢者となっている。合わせて複数疾患を持った患者様が多く、周術期のリスクは増大している。
患者様にとって「手術」というワードはどうとらえるのだろう。
医療従事者としての立場とは異なった状況にあると思う。医療者の立場でとらえると患者様自身の思いや考えを尊重した関わりをもって対応しているが、受ける側の本当の心境が果たして十分に理解できているのだろうか…。
手術は人生のイベントに大きな影響を与える出来事の一つであるが通過点に過ぎない。しかしその通過点がその人の転機となることになる。その転機に手術室看護師がどのように関わるか、そして術後~退院までの入院期間の中でどう自身の身体・病気と向き合うか。患者様だけでなくその人を取り巻く環境へも影響し、周囲の転機となってくることを含めた周術期看護を行っていかなくてはいけないと考える。
手術を受けられる患者様は、時間の経過とともに言葉数は少なくなり表情にも余裕がなくなっていく。病棟からの出棟時は家族や私たち医療者に再度全力で笑顔を見せて「行ってきます」と手術室に向かわれる。
手術が決定してから入院するまでの期間、患者様とその家族は様々な思いがある中で入院準備を進め入院される。「なぜ、手術しなくてはならなくなってしまったのか?」そんな思いの中、手術を受ける患者様は過去を振りかえり自身を見直す転機を迎えると思う。
術前訪問は、患者様と手術室看護師がお互いの顔を知る機会として関わりを持っている。この訪問が患者様と私たち医療者は転機を迎えていると思う。患者様の転機に関わり術後の生活が術前期以上によくなるよう、そして安心して手術が受けられるよう、お互いにあきらめないでこれから来る退院後の生活が活きていけるような看護を提供していけたらと思っている。
社会を経験してから私は看護の道を選んだ。患者様と関わってケアするのが看護師と思っていた。しかし総合病院で手術室看護師となり、閉鎖された空間の中で看護とは何か?を常に考え続けた。全身麻酔がかかると患者様は言葉を発することが出来なくなる。そのような状況で看護はできるのか。新人の頃は手術器械や手順を覚えることに必死で看護とかけ離れた環境に終始疑問を抱いていた。第2子が1歳半の頃に心臓血管外科手術に関わりたくて岐阜ハートセンターに入職した。器械出し看護師から、今では麻酔側に立ち看護をする場面が増え、全身麻酔を受けている患者様への看護の深さを日々感じている。手術中、患者様からは言葉の訴えがない変わりに、モニター・検査データからたくさんの訴えを数値化して投げかけてくる。日々の手術看護は私を大きく成長させてくれている。もがいて悩んでいたあの時、あきらめていたら手術室看護師の楽しさを深く知らないままだったかもしれない。