睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群とは睡眠中に無呼吸(呼吸が止まる)や低呼吸(呼吸が弱くなる)を繰り返し、低酸素状態をきたす病気です。医学的には10秒以上の無呼吸や低呼吸が1時間に5回以上繰り返す状態と定義されます。Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、「SAS(サス)」とも呼ばれます。

約20年前頃から睡眠時無呼吸症候群が原因の居眠り運転によるバス、トラック、船舶などの事故が相次ぎで注目されるようになりました。また高血圧、狭心症・心筋梗塞などの冠動脈疾患、心房細動などの不整脈、脳卒中、糖尿病など様々な病気の背景には、睡眠時無呼吸症候群が関連していることが明らかになっており、治療介入が疾患管理や再発予防において重要であることがわかっております。

 

 日本人の50歳以上の男性では5~10人に1人、女性でも10人に1人は睡眠時無呼吸症候群で、国内には940万人以上の患者さんがいると推定されておりますが、実際に診断され治療を受けられている方はその1割にも満たないのが現状です2)。

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睡眠時無呼吸症候群のタイプ

睡眠時無呼吸症候群には閉塞性と中枢性の2つのタイプがあります。

閉塞性は睡眠中に気道(呼吸する際の空気の通り道)が狭くなってしまうために起こるもので、睡眠時無呼吸症候群の9割以上が閉塞性と考えられています。

その要因としては、肥満は睡眠時無呼吸症候群の患者さんの過半数に認めますが、肥満がなくとも下あごが小さい、首が短い、扁桃腺が大きいなども原因となりますし、加齢も大きな要因の一つです。

一方、脳からの呼吸指令が出なくなるために無呼吸となるのが中枢性です。心不全や脳卒中患者さんにみられるものです。

睡眠時無呼吸症候群の症状

無呼吸は睡眠中に出現しますので、患者さん御自身で気づかれることはきわめて難しいです。いびきの有無などとともに御家族から御指摘頂くことが重要です。その他の症状しては以下のようなものが挙げられます。

・日中の眠気 ・熟睡感がない ・夜間何度も目が覚める ・集中力がない

・体がだるい ・起床時の頭痛 ・疲れる ・治療抵抗性の高血圧 など

睡眠時無呼吸症候群の検査

1)問診・身体診察

診察を受けて頂き、睡眠時無呼吸症候群が疑われる症状の有無を問診し、また身体所見について診察をいたします。

2)簡易検査

睡眠時無呼吸症候群が疑われた際には、まずは簡易検査を受けて頂きます。これは就寝時に指先に動脈血酸素飽和度を測定する機器と鼻に気流センサーを装着して頂くもので、自宅で行って頂きます。その測定結果を解析して、精密検査の要否を決定します。

 

3)終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)

簡易検査よりもさらに詳しく、睡眠と呼吸の「質」の状態を調べる検査で、1泊の入院が必要です。脳波や筋電図、眼球運動、睡眠中の姿勢なども記録可能で、睡眠時無呼吸症候群の重症度やタイプの診断が可能です。PSGの結果で治療方針が決定されます。

当院では通常検査当日15時に入院して頂き、翌日朝食後に退院というスケジュールになっています。土曜日、日曜日、祝日のPSG入院は行っておりません。

(PSG入院スケジュール)

睡眠時無呼吸症候群の治療

1)生活習慣の改善

肥満がある方は減量が必須です。また就寝時に仰向けで寝るよりも、横向きで寝ると無呼吸が改善する患者さんも少なくないです。寝酒は避けることが望ましく、禁煙も重要です。鼻づまりをきたす耳鼻科的な病気がある場合は、その治療も併せて行うことが必要です。

2)持続性陽圧呼吸療法(CPAP:シーパップ)

中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸に対する第一選択となる治療法で、最も広く普及しているものです。これは就寝時に鼻マスクを装着、CPAP装置から一定の圧をかけた空気を送ることで軟部組織を押し上げ、気道の閉塞を改善させます。CPAPにより閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者さんの心血管病発症率や死亡率を低下されることが報告されています。

CPAPによる期待される効果3)

〇「日中の眠気」の改善

1日平均3.3時間のCPAP使用で日中の眠気と生活の質(QOL:quality of life)の改善が認められます。

〇「脳心血管疾患」の予防

無治療の重症の閉塞性睡眠時無呼吸患者さんは、健康男性と比較した場合の心血管イベント発生率が高値であるが、4時間以上のCPAP治療群において脳心疾患系疾患への予防効果を認められます。

〇「高血圧を含む生活習慣病」の改善

CPAPの降圧効果は5mmHgと限定的ではあるが、冠動脈心疾患を4~5%、脳卒中を6~8%減少させます。

〇「不整脈」の予防

睡眠時無呼吸症候群は心房細動の危険因子です。この病気を持っていると、持っていない人に比較し、心房細動の罹患率が3〜5倍高くなります。また、逆に心房細動患者の30〜80%にこの睡眠時無呼吸症候群を合併しています。

睡眠時無呼吸症候群があると、心房細動アブレーション後の再発率を25%高めてしまい、そのような患者さんにCPAP治療を行うと、再発率を下げることが可能と報告されています。

 

3)口腔内装置

就寝時にマウスピースを装着し、舌や下顎を前方に固定することで気道の閉塞を防ぐものです。軽症の閉塞性患者さんやCPAPがどうしても装着できない患者さんが対象となります。マウスピースの作成は専門の歯科・口腔外科施設に御紹介いたします。

4)外科的治療

腫大した扁桃腺の切除や、気道の狭い部分を外科的に広げる手術が行われることもあります。専門の施設に御紹介いたします。

当院は、睡眠時無呼吸症候群に対する外来も行っております。気になる方は、遠慮なくご相談ください。

*SAS外来)担当:中川正康

診察時間:毎週月曜日8:30~12:00(受付8:00~11:30)

毎週金曜日8:30~12:00(同上) 14:00~17:00(受付14:00~16:30)

引用文献

1) 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン

「図2 各心血管疾患における睡眠時無呼吸合併頻度」より

2)第6回NDBオープンデータ(2019年4月~2020年3月診療分)

(厚生労働省、https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunisuite/bunya/0000177221_00010.htl

在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料算定件数より作図

3) 日本医師会雑誌2020第149巻,日本内科学会雑誌2020第109巻