大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療(TAVI; Transcatheter Aortic Valve implantation)

大動脈弁狭窄症は心臓弁膜症の中でも非常に頻度の高いもののひとつであります。
この病気は、心臓の出口である大動脈弁が経年劣化により、動脈硬化性変化を受けて石灰化の進行や劣化により、開きが悪くなるものです。水道のホースで考えるとホースの先をつぶさない状態ではホースは柔らかい状態ですが、先端をつぶす即ち、出口を狭くするとホースはパンパンで固くなることは皆さんご存じと思いますが、このように心臓に高い負荷がかかる状態です。

この状態でいると、心拍出量の低下により、心不全、失神、狭心痛(胸の苦しさ)が出てきます。心不全で1-2年、失神で2-3年の予測余命とされています。
従来、大動脈弁狭窄症に対する治療は、全身麻酔下での人工心肺を使った弁置換術が第一選択とされてきました。日本での平均手術死亡率は2%程度であります。また、健康長寿社会となった現代においては、高齢者の治療が増加傾向にあります。結果として、全身麻酔下での胸骨切開での弁置換術による侵襲により体力を落として寝たきりになってしまうと判断される方や、手術死亡ハイリスクと判断され、手術を受けることができないと判断される方が増加するということになります。

このような、開胸での手術がハイリスクと思われる患者様に対して、より低侵襲かつ低リスクで治療をすることを可能としたのがTAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)であります。
手術方法としては、足の付け根や、鎖骨の下、心尖部等からカテーテル(治療の管)を用いて小さな穴より劣化した弁の代わりに新しい人工弁(生体弁)を留置してくるという治療であります。

世界で初めて行われたのは2002年4月フランスでありますが、日本では2014年10月より実施可能となりまして、当院では2016年4月より実施施設として治療を行っており、順調に経験数を増加させています。

もともと手術ハイリスクの患者様に対して始まったTAVI治療でありますが、2019年7月の段階で日本での手術死亡率(30日死亡率)は1.3%と従来の外科手術と比較しても優位性がある成績となっております。

全て、TAVIが良いことばかりではありません。特有の合併症としては、心臓の電気の流れに影響することでペースメーカー植え込み術を要することが約10%程度の可能性があります。しかしながら、最短で術後3-4日での退院も可能であり、非常に体の負担の少ない治療となります。
岐阜ハートセンターでは2020年3月現在、TAVI手術死亡率 0%、ペースメーカー植え込み率4.9%と全国平均と比較しても非常に良好な治療成績であります。2019年には、従来の生体弁の劣化による大動脈弁狭窄や逆流に対してもTAVI治療が実施できるようになりより体に負担のない治療を選択可能となりました。

外科的大動脈弁置換術後の人工弁不全に対するTAVI(TAV in SAV)

一人でも多くの方に、すべての治療の選択肢をもとに最良の選択肢をお示しするとともに体に負担の少ないより安心安全な治療を提供することでより社会貢献ができればと考えております。

透析患者様に対するTAVI 岐阜県下 唯一の認可施設

2021年1月より日本において、重症大動脈弁狭窄症を有する透析患者様に対してもカテーテル治療が可能となりました。
一方でこの治療が可能な施設は、全国に約40施設と十分な数ではありません。

岐阜県内では岐阜ハートセンターが唯一の認可施設となります。
この理由としては動脈硬化の強い透析患者様に安全に治療を行うにはTAVI治療の経験が豊富な施設であることが必要と考えられているからです。岐阜ハートセンターは2021年のTAVI治療実績が81件と岐阜県内で最も多くの患者様を治療させていただきました。

透析患者様に対する外科的な大動脈弁置換術は周術期のリスクが高いですが、実際は治療効果は高く、治療を行った患者様と行わなかった患者様では治療を行った患者様の方が治療を行わなかった患者様と比較して、長生きであると報告されております。

そのため外科治療が困難な大動脈弁狭窄症を有する透析患者様にもカテーテル治療が可能となるように、国内でも臨床試験が行われました。その結果、従来の外科的大動脈弁置換術が行うことができない治療リスクの高い患者様に対しても良好な成績を得ることができました。

当院でも重症大動脈弁狭窄症を有する透析患者にTAVIを施行させて頂いておりますが、これまでは治療をあきらめるしかなかった患者様方が、治療を受けて、笑顔で自宅へ退院する姿を目の当たりにするにつれ、この治療の有効性を確信しております。

透析患者様で、大動脈弁狭窄症が心配な方、話を聞きたい方は当院外来へお気軽に受診ください。

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大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療(TAVI)

大動脈弁狭窄症に対する治療方法は、人工心肺使用下に心臓を停止して行う大動脈弁置換術が第一選択となります。手術技術の向上、人工心肺や心停止液の改良に伴い、心臓手術の安全性は劇的に向上していますが、年齢、合併疾患などにより、従来の心臓手術が困難ないしは不可能と判断される場合があります。平成25年10月より、手術不可能と判断された大動脈弁狭窄症患者様に対する新しい治療法が日本でも導入されました。経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI; Transcatheter aortic valve implantation)と呼ばれる新しい治療法は、従来の弁置換術と比較し、“大開胸を要さない。人工心肺を使用しない。心停止を要さない。”などの特徴があり、そのため、従来の治療法より低侵襲(身体へのダメージが少ない)と考えられています。

TAVI治療には経大腿動脈アプローチと経心尖アプローチの二通りの方法があります。経大腿動脈アプローチでは大腿部(股の付け根)に小切開を行い、動脈を露出します。動脈からカテーテルを挿入し、カテーテルに沿って人工弁を大動脈弁まで誘導、留置します。経心尖アプローチでは左前胸部に小切開を行い、心臓の左心室の先端からカテーテルを挿入します。

TAVI治療は、従来より循環器内科医によって行われていた心臓カテーテル治療の技術と、心臓外科医によって行われていた心臓手術の匠の技の両方を駆使して行われます。

TAVI治療の良い適応は、

重症大動脈弁狭窄症を有し、かつ、

  1. 高齢や、基礎疾患などの要因で心臓手術のリスクが極めて高いと考えられる患者様
  2. 過去に冠動脈バイパス術など、心臓手術を受けておられる患者様

当院におきましても平成28年1月にTAVI実施施設としての認定を受け、同年4月よりTAVI治療を開始し、順調に治療経験を重ねていっております。

この新しい治療法を地域の患者様にとって治療の選択肢の一つにさせていただきたいと考えております。また、TAVI外来において大動脈弁狭窄症の患者様を総合的に診療させていただき、個々の患者様にとって最もふさわしいと考えられる治療方法を提案させて頂いております。

大動脈弁狭窄症を指摘された患者さま、大動脈弁狭窄症の患者さまをお持ちの先生方におかれましては、是非お気軽に岐阜ハートセンターTAVI外来にご相談いただければ幸いです。