皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?
2021年1月14日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第14回目の放送です。
関東4都府県に引き続き、岐阜県もCOVID-19感染対策として、緊急事態宣言が発令されました。これに伴い2021年新年の第1回目の放送は、スタジオではなく、携帯電話での出演になりました。
前回に引き続き今回の放送のテーマは『心筋梗塞の治療』についてです。
本地洋一さん:心筋梗塞の治療ですが、予後が悪くならないような治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?
松尾仁司院長:まず最初に、正しく診断する必要があります。『心筋梗塞』の場合、一般的には患者様の症状、心電図、血液検査によって『心筋梗塞』と診断されることがほとんどです。
前回の放送で、『心筋梗塞』は心臓の筋肉に栄養と酸素を運んでいる冠状動脈の動脈硬化の起こっている部位に血栓が出来て急激に閉塞し血流が途絶するために、心臓の筋肉に栄養が行かなくなって心筋壊死を起こす病気であるとお話ししました。
また、冠状動脈が詰まってから時間がたつほどに心臓の壊死範囲が広がってしまいますし、心臓の筋肉は骨や皮膚、手足の筋肉と違い、一度壊死を起こすと再生できません。したがって壊死範囲が広範になるほどポンプとしての働きが悪くなってしまいます。
つまり『心筋梗塞』の治療をするうえで、詰まった冠状動脈を一刻も早く再開通させ血液を再灌流させることが、心臓のダメージを最小限に抑えるうえで、非常に重要なポイントとなります。
『心筋梗塞』という診断がつきますと、我々はできるだけ早く詰まった血管を再灌流させるため、緊急冠動脈造影検査を行います。この検査はカテーテルを手首もしくは肘・そけい部の動脈から冠動脈に挿入し、造影剤を使用して冠動脈の狭窄や閉塞が血管のどの部分にあるかをみる検査です。
冠動脈造影検査で心筋梗塞の原因となる冠動脈の閉塞部を特定したのち、引き続き『カテーテル治療』で閉塞した部位の再灌流を行います。『カテーテル治療』は経皮的冠動脈形成術といって、急性心筋梗塞に対するものとしては、風船により狭窄部を拡げる方法・網目状の金属(ステント)を狭窄部に留置する方法などがあります。
患者様が、病院に到着してから『心筋梗塞』の診断をして、カテーテル治療によって、冠動脈が再灌流するまでの時間をDoor to balloon timeといって我々医療従事者はこの時間を短くする医療体制を24時間365日とっています。
患者様をはじめとした一般の方々の中には、“今は夜中だし、救急車を呼ぶといろいろな人に迷惑をかけることになるから、朝まで我慢しよう”という考えの方もお見えになります。日本人の美徳とも言えますが『心筋梗塞』や『急性大動脈解離』といった心血管系の救急疾患にとってはまさに命取りになりかねません。15分以上持続する胸の痛みや、短くても何度も繰り返す胸の症状がある場合はできるだけ早く専門病院を受診してください。
本地洋一さん:胸の症状が必ずしも『心筋梗塞』ではないかもしれませんが、一番致命的な病気をまず疑って、受診をして医師の判断を仰ぐ。結果として『心筋梗塞』でなかっとしてもそれはそれでよいのでしょうか?
松尾仁司院長:受診して『心筋梗塞』でなかった場合は、グッドニュースと思ってください。『心筋梗塞』はご自分では診断できません。全く自覚症状がないけれども、健康診断で心電図異常があると言われたくらいのことであれば慌てて受診する必要はありませんが、病気の中には『心筋梗塞』、『急性大動脈解離』や『脳卒中』のように一刻も早い受診が予後に大きく関係する病気も多くあります。これら救急疾患は時間との闘いです。このような病気にかかる可能性は全ての人が持っているわけです。
前回にもお話ししましたが、『心筋梗塞』の場合は発症したら、できるだけ早く循環器専門病院を受診することが、心筋の壊死範囲を小さくし、予後の改善ばかりでなく、その後の生活の質を落とさないためにたいへん重要です。
本地洋一さん:今予後の話が出ましたが、もう少し詳しくお願いします。
松尾仁司院長:『心筋梗塞』の予後は発症から早い段階で病院を受診してカテーテル治療を行い血行再建に成功した場合、90%~95%の方は元気になり歩いて退院できるというデータがあります。
この理由は早い段階で再灌流に成功すると、心筋の壊死が少なく済むためポンプ機能をあまり損なわないこと。また『心筋梗塞』に合併しやすい心室細動などの致死的不整脈が起こった場合でも病院の集中治療室であれば、迅速に対処できるからです。
一方で心臓の筋肉はいったん壊死を起こすと再生できないため、発症から時間がたってしまうと壊死範囲が広くなり、心破裂を合併する可能性が高くなったり、たとえ急性期を乗り切ったとしても心臓のポンプ機能が著しく低下した心不全という状態から抜け出しにくくなったりするため予後は不良となります。また、致死的不整脈が出た場合にはAEDや抗不整脈薬が近くにない場合まさに致命的です。
本地洋一さん:IPS細胞の研究なんかも盛んにされているみたいですが、心筋細胞に関してはいかがですか?
松尾仁司院長:心筋細胞というのは成熟した細胞であり、再生能力が乏しいと言われています。現時点では再生医療でうまく再生できたという報告はありません。
本地洋一さん:だからこそ一刻も早い受診が大切だということですね!
松尾仁司院長:最後に、いま心血管カテーテル治療学会という循環器領域の学会が“Stent Save a Life”というスローガンを掲げて活動をしています。これは『心筋梗塞』は発症から一刻も早く病院に搬送し、ステント治療を行うことによって患者様の命を救うというキャンペーンで病院内でDoor to balloon timeを短縮する努力はもちろんですが、発症から来院までの時間を短縮するためには、一般の方々に『心筋梗塞』に対する知識の啓蒙活動、救急隊の方々の協力、岐阜県では岐阜大学を中心としたドクターヘリや防災ヘリの機動力を駆使しての迅速な遠隔搬送のシステム構築と運用といった医師と患者様だけでなく、様々の分野の方々が手を取り合って『心筋梗塞』患者様の救命率の向上と予後の改善を目指しています。
吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年1月28日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。