皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?

2021年3月18日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第18回目の放送です。

岐阜県に発令された緊急事態宣言は2月末に解除、1都3県では解除延期となっていましたが、来週から宣言解除とのこと。しかしながら、一般へのワクチン接種は始まっておらず、まだまだ予断を許さない感じです。

2021年第6回目の放送は、ぎふチャンの入り口で検温をして、3密と飛沫対策されたスタジオでの放送です。

今回の放送のテーマは循環器系のあしの病気の第1弾として『閉塞性動脈硬化症』についてです。

本地洋一さん:あしの循環器系の病気、中でも動脈の病気には どのようなものがあるのでしょうか?

松尾仁司院長: 年齢を重ねてくると様々な足の症状を訴える方が増えてきます。私が診察室でよく聞く症状は“あしがしびれる”、“あしがだるくなる”、 “あしが痛い”などがあります。もちろんこれらすべてが循環器系の病気ではありませんが、これらの中にはあしの血管が原因で起こる症状であることも多くあります。

あしの血管には皮膚、筋肉、骨などの各組織に酸素や栄養を運ぶ動脈と、各組織から老廃物や二酸化炭素を運び出す静脈があります。アニメーションや血管の図をご覧になると動脈は赤色で、静脈は青色で描かれていることをご存じでしょうか? これは酸素を多く含んだ血液は赤く見えて、組織で酸素を放出し二酸化炭素を多く含んだ血液はどす黒く見えることからこのような色使いをしています。

動脈と静脈どちらにも病気を生じますが、今回はあしの動脈が動脈硬化によって狭くなったり、詰まったりして起こるあしの病気、『閉塞性動脈硬化症』についてお話しします。

足には非常に多くの大きな筋肉や骨があり、これらが股関節や、膝、足首の関節を動かすことによって人は立ったり、歩いたり、走ったりできます。

この時足の筋肉は安静にしている時に比べて大量の酸素や栄養が必要となるため、動脈は安静時の10倍から20倍の血液をあしに運ぶ必要があります。

しかしながら、足の動脈が動脈硬化によって狭くなると、血液を十分に流すことが出来ないため、筋肉は必要な酸素や栄養を受け取ることが出来ません。この状態を医学的には虚血と言います。

じっとしているときは何ともないけれども、歩いたり走ったりするとふくらはぎや太ももなどが“重たくなる”、 “しびれる”、“痛くなる”といった症状が出て、しばらく休むと症状が取れてまた歩くことが出来る。このような状態を“間欠性跛行と言い『閉塞性動脈硬化症』の初期症状として最初に出てくることが多い症状です。

跛行とは歩行障害の一種で、かばうように歩いたり、足を引きずったりする異常歩行のことです。

さらに症状が進むと、安静時でも皮膚や筋肉、骨が血流不足で虚血状態を起こすようになります。皮膚が虚血状態になると色が悪くなってきて深刻化すると潰瘍(皮膚の表面が炎症を起こして崩れ、深いところまで傷ついた状態)や壊死(足の組織が死んでしまう状態)を起こすこともあります。この状態を『重症下肢虚血』と呼び、ひどい場合はあしを切断しないと命を救えない場合もあります。

したがって、この病気も早期発見、早期治療が重要となります。

もう一つ、リスナーの皆様へ是非お伝えしたい重要なことがあります。

これは、動脈硬化はあしの動脈だけでなく全身の動脈に起こってくるということです。

足の動脈に動脈硬化がある場合、心臓や脳の血管にも動脈硬化が起きていることが多いということが分かっています。

『閉塞性動脈硬化症』の患者さんの約半数には冠動脈にも動脈硬化性病変があり、20%の人には脳を栄養する動脈にも動脈硬化があり、『閉塞性動脈硬化症』と診断された方は、5年後には約20%が心臓や脳の血管疾患を発症し、このことが原因で15%が死に至ると言われています。特に足が壊死を起こす『重症下肢虚血』に至った場合は5年の生存率が40%しかないことが疫学調査で分かっています。

つまり、『閉塞性動脈硬化症』とわかったら足の動脈だけでなく、心臓や脳の血管、全身の血管も正しく評価して、治療したり予防したりする必要があるということです。

本地洋一さん:早期診断、早期治療が足を救い、ひいては命を救うことはよくわかりましたが、 我々素人は歩くとあしがしびれるとか痛いという症状があると、シップでも貼って様子を見ようという人がほとんどで、脳卒中や心臓の病気に思いが至りません。

『閉塞性動脈硬化症』の診断と治療はどのようなものがあるのでしょうか?

松尾仁司院長:『閉塞性動脈硬化症』を適切に治療するためには、まずは正しく診断することが、非常に大切になります。

病院で『閉塞性動脈硬化症』を疑った場合は、足関節上腕血流比(ABI)検査、超音波検査といった非侵襲的検査から、より詳細な血管造影CT検査といった侵襲的検査を行います。

特に血管造影CT検査はあしの血管のみならず、大動脈や冠動脈、頸動脈、頭蓋内の動脈など、全身の血管を1度の検査で診断ことが出来ます。これらを行うことにより、太ももの付け根あたりの太い血管が動脈硬化で細くなっているのか?それとも、足首やつま先・足の趾の非常に細い血管が詰まっているのか?血管の太さや、病変の長さ、動脈硬化の程度など、を正確に評価すると同時に、あし以外の血管の評価もおこなうことが可能です。

これらの検査で『閉塞性動脈硬化症』を正しく評価することにより、その患者様に合った治療選択を行います。

『閉塞性動脈硬化症』の治療は大きく3つあります。

1つ目は内服治療と運動療法です。2つ目はカテーテルを使った血行再建、3つ目はバイパス手術による外科的治療です。これらはいずれも足の血流をよくするために効果がある治療法です。

患者様の状態に応じて、非侵襲的な治療法を選択するか、あるいは複数の治療法をハイブリッドに選択して足の血流を改善するための治療を行うかを判断します。

さらに、これら局所の血行再建と併用して全身の動脈硬化の進行を抑える治療を行います。

ハート相談所では今まで、高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙は動脈硬化を進行させるため、これらをコントロールすることが重要であるとお話してきました。

『閉塞性動脈硬化症』もあしの血管の動脈硬化によって起こる病気ですので、カテーテル治療や外科的バイパス術によって局所の血流を改善すると同時に、血圧、コレステロール、血糖をコントロールし、禁煙を行うことにより、全身の動脈硬化を安定化させて進行を抑えることが、健康年齢を向上させるためにたいへん重要となってきます。

本地洋一さん:本日はあしの動脈硬化が原因の『閉塞性動脈硬化症』のお話をしていただきましたが、次回は静脈が原因のあしの病気についてお話ししていただく予定です。

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年4月8日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。