皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?

2021年5月13日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第22回目の放送です。

今回の放送のテーマは『メンタルストレスと心臓病』です。

本地洋一さん:ストレスと心臓の働きはどのような関係があるのでしょうか?

松尾仁司院長: 今、世の中には「ストレス」がたくさんあると言われています。

しかし、「ストレス」とは、そもそもどういうことを意味するのでしょうか?

もともと、ストレスは「物のひずみ」を表す物理学の用語ですが、私たちの生活の中でストレスという場合は、心や体がなんらかの原因で、ゆがんで変化している状態を表します。

精神的なストレスのことを『メンタルストレス』と言い、これは心がゆがんだ状態になってしまっていると考えられます。

心は英訳するとHeart(ハート)です。また英語のHeart(ハート)は心臓と訳すこともできます。このことからも、心(精神活動)と心臓は密接な関係にあることが類推出来ます。

リスナーの皆様は自律神経という言葉を聞いたことがあると思います。これは内臓の働きや代謝、体温などを調整する働きをもち、皆さんの意思とは関係なく24時間、365日働き続けています。また、アクセルの働きをする交感神経とブレーキの働きをする副交感神経の2種類があります。

人はストレスを感じると交感神経が緊張し、優位に働きます。

つまり、ストレスが多い方は、心臓にとっては脈拍が速くなったり、血圧が高くなった状態が長く続くことになります。

一方、副交感神経が優位に働けば、血圧が下がり心拍数は減少。瞳孔が収縮し、心と体が休んでいる状態になります。

本地洋一さん:なるほど、それでは『メンタルストレス』により交感神経が優位となることと、心臓病とどのような関係にあるのでしょうか?

松尾仁司院長:『メンタルストレス』による交感神経の緊張状態が長く続くことは、心筋梗塞や脳卒中等をはじめ様々な病気とリンクすることが知られています。

交感神経の緊張状態が続くと血圧が上昇し、血管そのものに機械的なストレスがかかり続けることになり、脳や心臓、大動脈などの動脈硬化を悪化させたり、粥腫の破綻、動脈の解離や破裂を起こしやすくなります。

つまり、『メンタルストレス』は脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を悪化させる原因となるということです。

心筋梗塞でいうと『メンタルストレス』を抱えている方は『メンタルストレス』がない人に比べて心筋梗塞の発生率が約1.55倍高いという研究結果が出ています。

さらに災害によるストレスと心臓病の関係も研究されています。1995年の阪神淡路大震災の後、心筋梗塞の死亡者数が急に増えたことが分かっています。

このように、『メンタルストレス』と心臓病には非常に強い関連があることが広く知られています。

本地洋一さん:なるほど、そうしますと、心臓病というのは体の中の異変だけで起こるのではなく、『メンタルストレス』などの精神的負荷でも引き起こされることが、疫学的調査でも知られているということですね。

とはいえ、『メンタルストレス』はその人の性格によっても様々な受け取り方があるかと思います。そのあたりと心臓病との関係を説明していただけないでしょうか?

松尾仁司院長:世の中にはたくさんの人がいます。それぞれ性格が違いますが、アメリカの医師フリートマンとローゼンマンは、人の性格をその人の行動パターンからタイプA、タイプB、タイプCに分類し、病気との因果関係があることを発見しました。

タイプAの人は、性格面では、競争的、野心的、精力的、何事に対しても挑戦的で出世欲が強い、常に時間に追われている、攻撃的で敵意を抱きやすい、行動面では機敏、せっかち、多くの仕事に巻き込まれていると分類されています。このタイプA性格の方は、自らストレスの多い生活を選び、ストレスに対しての自覚があまりないままに生活する傾向があるそうです。

タイプBは、タイプAとは反対の性格傾向を持つ人で、あくせくせずにマイペースに行動し、リラックスしており、人は人、自分は自分という感じで非攻撃的な性格傾向を持つ人です。

タイプCは、いわゆる「いい子」で自己犠牲的であり、周囲に気を遣い譲歩的、我慢強くて怒りなどの否定的な感情を表現せずに押し殺す、真面目で几帳面といった特徴を持っています。つまり周りから見ればいい人ですが、その一方でストレスを自分の内面にため込みやすい性格とも言えます。

これら3つのタイプの性格のうち、タイプAの方は心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患にかかりやすいと言われていますし、タイプCの方は癌にかかりやすいということが疫学調査で分かっています。

こうして病気の観点からすると、攻撃的で短気だけれども仕事をバリバリやるタイプAの方や、周りに気を使いすぎるタイプCの方よりも、のんびりマイペースのタイプBの方のほうが理想的な性格に見えますよね。実は私もタイプAの性格だと思っています。

しかしながら、病気にかからないようにするために、性格を変えようとするのはあまり賢明ではありませんし、おそらく上手くいきません。

それよりも、タイプAの方は少し落ち着いて立ち止まったり、リラックスする習慣をあえて作るように心掛けてみることをお勧めしますし、タイプCの性格の方は何もかも一人で抱え込まないで、ストレスを発散するような趣味や心を許すことのできる仲間を持つことをお勧めします。

本地洋一さん:話が『メンタルストレス』から性格のタイプに逸れてしまいました。

要するに自律神経のバランス、つまりアクセルである交感神経とブレーキである副交感神経がバランスよく働くことが、心臓病の予防にもつながるということですね!

具体的にはどのようなことを心掛けるのが良いのでしょうか?

松尾仁司院長:アクセルである交感神経を緩めるということは別の言い方をするとリラックスするということです。

リラックスするために効果的なことの一つに適度な運動があります。

岐阜ハートセンターは循環器の専門病院ですから、心大血管リハビリテーションの一環として運動処方をしています。これはその患者さんの年齢や体力、病気の重症度をしっかりと評価し、患者さん一人一人に合った運動の種類や強度、運動時間を設定して行います。

これをすることによって心臓の機能回復や手足の筋肉の活性化による全身状態の改善ばかりでなく、糖尿病、高血圧、脂質異常といった危険因子の改善にも効果があります。

さらに、徐々に運動量や運動強度が上がってくることを患者さん御自身が自覚出来ます。これにより、病気であることが患者さんに与える『メンタルストレス』を軽減させていきます。

私がリハビリ室を訪れるたびに思うことは、リハビリ中の患者様の多くが非常にリラックスしていい表情で運動されているということです。

適度な運動が肉体的健康を維持するために重要であることは、リスナーの皆様もお分かりだと思いますが、『メンタルストレス』を軽減し精神面の健康を維持するためにも、適度な運動を習慣づけることは非常に効果があることです。

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年5月27日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。