『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第71弾~
2023年5月11日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第71回目の放送です。
吉田早苗さん:本日はリスナーさんからのメールを紹介させていただきます。
“いつも優しくお話ししていただける松尾院長先生のお話を聞きながら、60歳を超えた夫婦の健康についてふと振り返る時間にしています。
昨日、息切れのお話の中にも出てきましたが、最近よくテレビのCMでも見かけるようになりました『心臓弁膜症』について詳しく知りたいです。どんな症状が出て、どんな治療をするのかなど教えてほしいです・・・松尾先生優しく教えてください。”
ということで今回の放送のテーマは『心臓弁膜症』です。
松尾院長: 前回の放送で、『息切れ』の話をさせていただいた際に、息切れの原因はいろいろありますが、心臓病もその一つですと言いました。さらに息切れの原因となりうる心臓病の一つに『心臓弁膜症』があります。
『心臓弁膜症』とは心臓の弁の病気です。この病気について説明するには、まず心臓弁についてお話ししましょう。
心臓という臓器はよくポンプに例えられますよね!
全身から静脈を通って心臓に戻ってきた血液(静脈血)は右心房から右心室を経て肺へ送り出されます。肺で血液は二酸化炭素を放出し、酸素を取り込み再び心臓に戻ります。肺から心臓に戻った血液(動脈血)は左心房から左心室を経て大動脈に拍出され全身に動脈血が届けられます。
この心臓のポンプ機能が効率よく、適切に働くために右心室と左心室の入り口と出口に合計4つの心臓弁(右心室の入口に三尖弁、出口に肺動脈弁があり、左心室には入口に僧帽弁、出口に大動脈弁)があります。
心臓は1日に約10万回収縮と拡張を繰り返しますので心臓弁も10万回開閉を繰り返しているわけです。つまり1年で3,600万回以上も働いているわけですから年齢を重ねると徐々に劣化してくるわけです。
これらの弁が、加齢や何らかの感染などでうまく働かなくなる病気が『心臓弁膜症』です。
統計的には65歳~75歳の方の20人に1人が、75歳以上の方の10人に1人が『心臓弁膜症』と言われています。
『心臓弁膜症』は大きく2種類に分けることができます。
弁が動脈硬化や石灰化で硬くなり十分に開かず血液が弁をスムーズに通過できなくなる状態を「狭窄症」といいます。この場合、心臓はより強い力で収縮しないと血液を押し出せないため、負担がかかります。
もう一つは弁が完全に閉まらないために血液の逆流や漏れが生じているもので「閉鎖不全症」といいます。こちらは一度弁を通過した血液が逆流してしまうことにより、必要な血液を送り出すためにより多くの仕事をする必要があり、やはり心臓の筋肉に負担がかかります。
「狭窄症」と「閉鎖不全症」はいずれも心臓に負担がかかった状態ですのでこの状態が長く続くと心臓はだんだんバテしまいます。心臓がバテてしまい、ポンプ機能が低下した状態を心不全といいます。
吉田早苗さん: 『心臓弁膜症』とはお年寄りに多い病気なのでしょうか?
松尾院長: 『心臓弁膜症』にかかるる要因はいくつかあります。加齢に伴う心臓弁の劣化もそうですが、リウマチ熱などの感染症や胸のケガ、心筋梗塞などによって弁の組織に変性が生じると、弁が十分に開かなくなったり、逆に弁が閉じなくなったりすることがあります。
吉田早苗さん: 今感染症もの要因の一つと言われましたが、COVID-19感染症も『心臓弁膜症』の要因なのですか?
松尾院長: COVID-19感染症は稀に心筋炎を起こすことはありますが、このウィルスは『心臓弁膜症』の要因とはならないと考えられています。
本地洋一さん: なるほど、では『心臓弁膜症』によって心臓のポンプ機能が低下するとどのような症状が出るのでしょうか?
『心臓弁膜症』によって心臓のポンプ機能が低下すると安静時でも心臓は頑張って仕事をしないと全身に血液を送り出せない、つまり予備能力が低下した状態になっています。したがって自覚症状としては少しの運動でもすぐに息切れが起こったり、重症の場合には意識を失ったりする場合もあります。『心臓弁膜症』のなかで最も頻度の高い大動脈弁の『心臓弁膜症』の場合は労作時の息切れ、胸痛、意識消失発作が代表的な症状です。
他覚的には足のむくみや健康診断の聴診の際に心雑音によって『心臓弁膜症』を指摘される場合もあります。これらは『心臓弁膜症』からくる心不全の症状です。
ただし、心不全というのは『心臓弁膜症』のみならず、心筋梗塞や心筋症、不整脈、重度の貧血などでも起こるため、「いままでは、楽に登れた階段や上り坂が最近は息が苦しくて途中で休まないと登れなくなってしまった」などの症状が出た場合には一度専門医を受診して検査をすることをお勧めします。
吉田早苗さん: 今リスナーさんから質問のメールが届きました。
“私も実は、健康診断で心臓弁膜症と診断されました、しかし全く自覚症状がありません。念のために血圧の薬を処方され、毎年定期検診を受けてくださいと言われています”
『心臓弁膜症』と診断されても、このリスナーさんように症状がない方もお見えになるのでしょうか?
松尾院長: 大変良い質問です。人は激しい運動をした場合など安静時に比べて手足の筋肉に多くの血液が必要となるため、心臓という臓器は安静時の何倍もの血液を全身に送り出す必要があります。つまり心臓はもともとかなりの予備能力を持っていということになります。『心臓弁膜症』も初期のうちはこの予備能力の範疇であるため自覚症状が現れないことがあります。また、普段の活動性が低い方は、『心臓弁膜症』がかなり進行しないと息切れなどの自覚症状を感じない場合もあります。
自覚症状がないというのは患者様にとって良いことですが、症状はあくまでも主観的なものであるため、『心臓弁膜症』と診断された場合はこのリスナーさんのように定期的に心臓超音波検査などで客観的にフォローすることは大切です。
本地洋一さん: 『心臓弁膜症』の治療にはどのようなものがあるのでしょうか?
松尾院長: 20年ほど前までは、『心臓弁膜症』の治療と言えば、外科的に胸を開いて人工心肺につなぎ、心臓を一時的に停止した状態で劣化した弁を人工弁に取り換えるという大きな手術が主流でしたが、近年は、内科と外科の垣根を取り払ったハートチームと呼ばれる専門集団によってより低侵襲な治療が盛んにおこなわれるようになってきています。
代表的なものに大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)があります。
TAVIは、重症の大動脈弁狭窄症に対し、カテーテルを使って人工弁を患者様の心臓に留置する治療法で、2002年にヨーロッパで始まり、日本では2013年に保険適用の対象になりました。
https://gifu-heart-center.jp/outpatient_tavi/
この治療法の出現により、今までは外科手術が困難であった超高齢で、フレイル(虚弱)の患者様に対しても開心しての外科手術のリスクを凌駕するような効果を得ることが出来るようになってきています。
本地洋一さん: 20年前は、胸を開き心臓を一時的に停止させて、人工心肺につないでの大掛かりな手術で歯科治療できなかったが、今では局所麻酔で、カテーテルを使っての患者様にとって負担の少ない治療が出来るようになってきたということですね!
松尾院長: もちろん大動脈弁狭窄症患者様のすべてにTAVI治療が出来るわけではありません。外科的な開心術のほうがメリットが大きい患者様もお見えになります。ハートチームでは各分野の専門家が、その患者様に最も適した治療法が何かを十分に検討して治療選択をしています。
吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2023年6月8日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。