様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?

2021年5月27日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第23回目の放送です。

新型コロナウイルス感染症の第4波の影響で、5月24日より岐阜市にも独自の緊急事態宣言が発令されました。

これに伴い、今回の放送は、松尾院長は岐阜ハートセンター内から携帯電話でのリモート出演となりました。

本地洋一さん:今日のテーマは『運動と健康』ということで、お話を伺っていきたいと思います。

今は自動車や交通機関の発達もあって,私を含め運動不足の方も多いかと思います。

吉田早苗さん:コロナ禍で移動制限や外出自粛もあり、運動不足にますます拍車がかかっているのではないでしょうか?

本地洋一さん:松尾院長、運動不足が続くと健康にとってどのような影響があるのか?からまず教えていただけないでしょうか?

松尾仁司院長:そうですね、まず一つ目、運動不足は肥満の原因なり得ると言うことです。リスナーの皆様もご存じだと思いますが、運動というのはカロリーを消費することにより、体脂肪の燃焼に有効です。人は安静の状態、つまり動かないでじっとしていても心臓は動いていますし,呼吸をしています。また、考え事をしたり,胃や腸といった内臓は活動していますから、カロリーを消費しています。これを基礎代謝といいます。

若い頃はこの基礎代謝が活発なのですが、年を重ねて高齢となるにしたがって基礎代謝量は徐々に低下してきます。同じ量の食事をした場合、若い人に比べ高齢の方は脂肪が燃えにくい体質になっているということです。

つまり、運動をしないで若い頃と同じ量の食事をし続けると太ってくるということです。若い頃はやせていたのに、年をとったら太ってしまいぽっこりお腹になってしまったというのは、基礎代謝が低下してきているのに運動量が減っているために食事で摂取したカロリーを消費しきれずに,皮下脂肪として蓄えてしまったと言うことです。

運動不足が、健康に及ぼす悪影響の2つ目は、生活習慣病にかかりやすくなるということです。生活習慣病とは今までこの放送でも取り上げてきた高血圧、糖尿病、脂質異常症といった動脈硬化を起こしやすくするような病気のことです。運動不足はこれら生活習慣病に強く関係していることが知られています。

3つ目の悪影響は、自律神経系に対するものです。運動不足は自律神経系の働きを抑えてしまうことが知られています。自律神経系の働きが落ちてしまうと、内臓の働きが悪くなったり,ホルモンバランスが崩れたりすることがあります。

4つ目は精神に与える悪影響です。運動は精神状態を安定させる効果があることが知られています。逆に言うと運動不足は、精神を不安定にして精神的ストレスが蓄積して抑うつ状態,うつ病などの精神疾患の引き金にもなり得ると言えます。

このように運動不足は身体的な悪影響ばかりでなく、精神的にも悪影響を与えるということが広く知られています。

本地洋一さん:今のお話しで、運動が身体的ばかりでなく、精神にも多大な影響を与えていることがよくわかりました。ただ、一口に運動と言っても様々なものがありますよね!

ウォーキング、ジョギング、ラジオ体操などからもっと強度の高いスポーツまで人によってさまざまなとらえ方があると思います。

いったいどれくらいの運動をどのくらいの時間、どれくらいの頻度で行えばよいのかを教えてください。

松尾仁司院長:おっしゃる通りで、いわゆるアスリートの方や運動が好きで好きでたまらない方にはこのようなお話は当てはまらないかもしれませんね!

今日は、運動習慣のない人や、体を動かすことがあまり好きではないリスナーの方に向けて、健康に長生きをするために運動の重要性や、運動をしないことの弊害を知っていただくことを目的にお話ししています。

いわゆる医学雑誌というものの中では、ちょっとだけ頑張るような運動、強度的には少し汗ばむ程度でしょうか、例えば少し速足でのウォーキングなどを一週間に2.5時間程度することが推奨されています。これは週3回運動する人の場合、1回の運動時間は30分~1時間ということになります。別の言い方をすると1日に7000歩から8000歩の歩行を1週間に3回程度行うことが、健康維持のために効果的な運動ということになります。

2000年にアメリカ内科学会で報告されたデータでは、死亡確率は1日に8000歩歩く人のグループ、4000歩しか歩かない人のグループを比較した場合、1日8000歩のグループの死亡率は4000歩のグループの半分程度であったとのことです。

ただ、全く運動習慣のない方にいきなり1日8000歩歩けというのは少し無理があります。このような方(患者さん)に私が診察室でお勧めしているのは、運動習慣の大切さをお話しした後に、まずは普段より1日に10分だけ多く歩くようにしてくださいと言っています。10分間の歩行は約1000歩歩くことと言われています。これが無理なくできるようになったら、次はもう10分余分に歩けるように頑張りましょうというように、徐々に1回に歩く量を増やしていって、最終的に1日に8000歩を1週間に3回歩けるようになっていただけたらと思います。運動は習慣として長く続けることが、効果的です。このためには無理せず、徐々にが重要だと考えています。

長く元気に生活していただく健康長寿のためには、健康な状態を長く維持してしていただくことが重要です。このために患者さんをはじめリスナーの皆さんがご自分で出来ることは運動習慣の獲得をはじめとした生活習慣の改善です。

それでも、普段運動習慣のない方には1日8000歩の運動習慣はなかなかハードルが高いかもしれません。しかしながら、見方を変えると近場への買い物は自動車ではなく、自転車で行くようにしたり、エレベーターやエスカレーターは使わずに階段を利用することを習慣づけるだけでも、体を動かす量は増えますよ。

本地洋一さん:先生は循環器を専門とされている訳ですが、普段先生が診ておられる心臓の病気をお持ちの患者さんに対しても運動を勧めておられるのですか?患者さんにしてみるとご自分が心臓病を患っているだけに運動に対しての恐怖感もあるのではないでしょうか?

松尾仁司院長:確かに病気の種類や重症度によっては、運動することによって危険性が増える患者さんもお見えになります。そのような患者さんに対しては、安全に効果的な運動強度や頻度をしっかりと設定する必要があります。患者さんにお薬をお出しする際にはお一人ずつ処方箋というもので薬の種類や内服の頻度などを決めていることはリスナーの皆さんもご存じだと思います。心疾患を有する患者さんに運動をしていただく際には心大血管リハビリテーション、いわゆる心臓リハビリという形で行います。この際には運動負荷心電図検査や呼気ガス分析などで、科学的に運動対応能を評価して安全に効果的な運動するための運動処方をいたします。

本地洋一さん:心大血管リハビリテーションとは聞きなれない言葉ですが、これは心臓病治療で運動は心臓病の治療としても有効であるということですか?

松尾仁司院長:そうです。運動というのは筋肉(骨格筋)を活動させるということです。この時、骨格筋からはいろいろなホルモンが分泌され、その総称をマイオカインいいます。マイオカインの中には体内の脂肪細胞と連携して、糖尿病、がんや骨粗しょう症など、様々な病気、循環器疾患で言いますと、冠動脈疾患を予防することが最近わかってきました。このため、循環器疾患をお持ちの方には心臓リハビリという形で治療の一環として運動をしていただいています。一方で、過度な運動することによって不整脈が出やすくなるという危険性もあります。このため、治療効果のある運動を安全に行うために運動強度をはじめとした運動処方は重要となります。

≪心臓リハビリテーションの有効性≫

  1. 体力(運動耐容能)の向上
  2. 筋肉量及び筋力の改善
  3. 動脈硬化の進行予防
  4. 高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常などの改善
  5. 虚血の改善
  6. 精神状態の改善
  7. 自律神経バランスの改善

本地洋一さん:世間では運動することが健康に繋がるので、運動をしましょうとよく言われていますが、今日のお話で運動がなぜ健康につながるかまた、運動は心臓病の方の治療としても効果があることがよくわかりました。

松尾仁司院長:たしかに心臓病の治療として、お薬を処方する、カテーテル治療や開胸手術といった侵襲的治療は病気を治すうえで大変重要な治療法です。加えて近年になり心臓病治療を行う上で大変重要視され、大きなウエイトを占めてきたのが、心臓リハビリによる運動療法です。

心臓病を罹患してから家庭復帰、社会復帰するまでの期間に適切に処方された運動を行うことにより、心機能を改善、維持、再発予防をおこなうことは、患者さんが元気に社会生活を行うために大変重要です。このため現在の循環器病治療において心臓リハビリは、お薬や、侵襲的治療とともに中心的な役割を果たす治療法のひとつとして広く行われています。

吉田早苗さん:これらの運動は毎日コツコツと行うことが重要なのですね!

松尾仁司院長:筋トレのように筋肉を肥大させたり、物理的パワーを向上させるようなトレーニングは筋肉に対する負担が大きいため、ある程度の回復期間を置いたトレーニングが効果的と言われていますが、ウォーキングなどの負荷のあまり強くない運動はコツコツと行うほうが効果が大きいといわれています。

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年6月10日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。