皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?

2021年6月10日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第24回目の放送です。

新型コロナウイルス感染症の第4波の影響で、5月24日より岐阜市にも独自の緊急事態宣言が発令されました。6月に入って新規感染者数は徐々に減少傾向にありますが、まだ病床稼働率は高止まりしています。

これに伴い、松尾院長は岐阜ハートセンター内から携帯電話でのリモート出演となりました。

本地洋一さん:今日のテーマ『血管のアンチエイジング』ということで、お話を伺っていきたいと思います。

松尾先生、老化というのはどうしても避けられないものと思うのですが、『血管のアンチエイジング』というのは、血管をどのようにして老化から守っていくか?と考えてよいのでしょうか?

松尾仁司院長:人は歳を取ると味が出てくるとも言いますから、老化というのは必ずしも悪いことばかりではないと思います。しかしながら、歳を取ると背中が曲がってきたり、筋肉が衰えて力が弱くなったり、しわが増えたりしますよね!

アンチエイジングとは、日本語では“抗加齢”を意味します。つまり加齢による体の変化をケアして、いつまでも若々しく長生きすることを目指す言葉です。

19世紀にウイリアム・オスカーという医師が見えました。この先生の有名な言葉に『人は血管とともに老いる』というものがあります。この言葉は体全体の老化には、血管の老化が大きく関与しているという意味です。

血管は心臓をスタート地点として、大動脈に始まった後、枝分かれして徐々に細くなっていき、最終的には直径0.01mm未満の毛細血管となります。毛細血管というのは全身の血管の99%を占めていて、筋肉や脳、内臓などの臓器に必要な酸素や栄養はその毛細血管から滲み出るように各細胞に届けられます。毛細血管から酸素や栄養を受け取った細胞が生命活動において放出する老廃物などは、今度は静脈を介して回収され、腎臓や肝臓で処理されるなどして再び心臓に戻ります。

言い換えると血管というのは体の中の上下水道と言えます。動脈が上水道で静脈は下水道、中を流れる水が血液です。上下水道がないと我々の日常生活が維持できないのと同じで、血管は体中の細胞が問題なく生命活動を続けるために、なくてはならない存在なのです。

上下水道の中を流れる水がドロドロだと、水の流れが悪くなったり、水道管が詰まったりするのと同じで、血管の中を流れる血液がきれいでないと血の流れが悪くなります。その結果酸素や栄養、老廃物の運搬に支障をきたすことになり、細胞の働きが悪くなったり、臓器の障害を起こしたりします。

人が長く健康的な生活を送るためには、脳、心臓、骨、筋肉や皮膚などが十分に機能する必要があります。このためにはそれらの臓器や器官に十分な酸素や栄養が運ばれ、老廃物は速やかに運び出されなければなりません。つまり、体の中の上下水道である血管が、細くなったり詰まったりしないで、きれいな血液が血管の中を流れ続けることが老化を防ぐために大変重要であるということです。

岐阜ハートセンターでも、狭くなったり詰まったりした血管に対して風船で広げたり、ステントを植え込んだり、あるいはバイパス手術をしたりしています。これは詰まった水道管の掃除をして水の流れを良くしているということですが、本来水道管の中を流れている水がヘドロのようにドロドロしていなければ、そもそも水道管が詰まることはないわけで、同じようなことが人の血管にも言えると思います。

本地洋一さん:血管の老化が身体全体の老化につながり、血液をきれいに保つことが、血管の老化を防ぐということですね。

それでは血管の老化を防ぐために、我々は具体的にどのようなことに注意すれば良いのでしょうか?

松尾仁司院長:以前の放送で、狭心症や心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などは動脈硬化によって血管が細くなったり詰まったりして心臓や足への血流が悪くなることが原因とお話ししました。これらは臓器の上流にある動脈の血流が悪くなるために下流の臓器が機能不全を起こしたり、壊死を起こす病気です。

【今日もラジオは2時6時⁉】~第13弾~  テーマ「心筋梗塞」

ちなみに、リスナーの皆様は動脈の老化現象である動脈硬化は何歳くらいから始まっているかご存じでしょうか?

動脈硬化の原因となる血管内への脂肪分のしみ込みは、実は小学生くらいからすでに始まっていることが知られています。これが加齢とともに徐々に進行していき、人によっては40歳を過ぎたくらいから症状を伴う病気として現われてくるということなのです。

心筋梗塞や、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など動脈硬化によって起こる恐ろしい病気は、高齢になって突然発症することが多いですが、これらの予防のためには実は子供の頃からの生活習慣が非常に大切であることが分かっています。

本地洋一さん:血管の老化である動脈硬化を予防するためには子供の頃からの生活習慣、つまり正しい食習慣を身につけることと運動習慣が大切だということですね!

松尾仁司院長:食生活について細かい注文を付けるときりがないのですが、サルを使った研究では、高カロリーの食事を長期間取り続けた群と、低カロリーの食事を取り続けた群で比較した場合、低カロリーの食事を続けた群のほうが寿命は圧倒的に長かったそうです。

また、アラスカの先住民族の調査では、以前は魚を多く食べる食生活であったのが、近年ファストフードをはじめとした高脂肪、高カロリーの食事を多く取り入れるようになってからは、以前より動脈硬化性の病気の発症頻度が増加しているとの報告もあります。

老化が血管に及ぼす悪影響は毛細血管にも起こります。最近の研究では毛細血管は加齢とともに減っていくということが分かってきています。皮膚の毛細血管を調査した研究では、60-70歳代の人は20歳代に比べて、毛細血管が4割も減少していたとのことでした。

このことによって皮膚に酸素や栄養が届きにくくなるとシミ・シワなどお肌のトラブルの一因となりますし、心臓などの臓器の毛細血管が減少すれば様々な臓器の機能低下や病気が起こる可能性が出てくるということです。

加齢に伴う毛細血管の減少に対抗するためには、どうすればよいか?

その答えは、組織の血流アップを図ること、つまり『運動』です。

運動時には筋肉に多くの酸素や栄養が必要となるため、心臓は心拍数を増やすことなどにより、安静時の約5倍の血液を送り出します(安静時は約5リットルの血液を1分間に拍出しますが、運動時には1分間に25リットルも血液を拍出することができます。)心臓から多くの血液が送り出されると筋肉のみならず、全身の組織にも安静時よりも多くの血液が届けられることになります。つまり、運動することによって、全身の細胞への血流をアップさせることが出来るということです。

若く、生き生きと健康な生活を送るためには、血管を老けさせないようにするいくつかのポイントを上げてみます。

1. 塩分摂取を控える→高血圧を予防し、血管へのストレスを減らすことができます。

2. 睡眠時間を確保する→精神的ストレス緊張を減らします。

3. 禁煙する→血管内皮の障害を予防します。質のよくないコレステロールも減らします。

4. ストレスを溜めない→血圧の安定をもたらし、血管へのストレスを減らします。

5. 食べ過ぎて肥満にならない→メタボリック症候群にならない。

6. 水分を十分に摂取する→血管の凝固亢進を防ぎます。

7. ウォーキングや深呼吸などの適度な運動を維持する→静脈うっ滞を防ぎ、循環が良くなり、ストレス解消にもつながります。

これらは今までにこのコーナーでお話してきた内容の総括です。

本地洋一さん:つまり松尾院長が普段診察室で診ておられる循環器疾患は元を正せば血管の老化が原因であるため、これらの恐ろしい病気を予防するためには血管のアンチエイジングが必要で、そのためにはこれらのポイントを守った生活習慣を心掛けることが大切であるということですね!

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年6月24日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。