皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?
2021年6月24日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第25回目の放送です。
今週になり、岐阜市独自の緊急事態宣言が解除となりました。
これに伴い、今回はぎふチャンの入り口で検温をして、3密と飛沫対策されたスタジオでの放送です。
本地洋一さん:今日はこの放送をお聞きのリスナーの方から頂いた質問に対し、松尾院長がお答えする形をとりたいと思います。
吉田早苗さん:リスナー様からのお便りをお読みします。
『私の父親は若い頃にたばこを吸っていましたが、そのせいか70代で心筋梗塞になり
ステントを血管内に入れました、その後脳梗塞になり血栓を溶かす点滴治療と飲み薬を
飲んでいましたが最後は、胃の1/3と十二指腸全体の癌で他界しました。
これらの病気は、遺伝すると聞いたのですが本当に遺伝するのでしょうか?
母親も急性心不全で他界しています・・・・』
松尾仁司院長: ご質問どうもありがとうございます。
今回はこのご質問に対しお答えするという意味で、『心臓病は遺伝するの?』というタイトルでお話ししたいと思います。
このテーマは私も多くの患者様から聞かれることがあります。私たち医師が患者様を診る際に、ご両親やご兄弟がどのような病気をされているか等の『家族歴』をしっかりと確認いたします。
遺伝とは『形質』(形や性質、特徴のこと)が親から子へ引き継がれることです。親と子供、兄弟、姉妹が似ているというのも親から子へ『形質』が引き継がれているためです。
遺伝子とは『形質』が引き継がれるもととなる因子といえます。遺伝子が生物の体にあることによって『形質』が引き継がれます。遺伝子はDNA上に存在します。DNAすべてが遺伝子ではなく、このうちのタンパク質合成の設計図になるところが遺伝子と呼ばれます。
私たちの遺伝子は父親由来と母親由来の2つが一組になってできています。
染色体はDNAが織り込まれた状態になったもので、普段はみられず、細胞分裂の時にみられ、生物の核の中の染色体数は動物によって違うことが知られています。人では46本、犬は78本、猫は38本もっています。
タンパク質の設計図である遺伝子に異常があると細胞で合成されるタンパク質に異常が生じたり、合成されるべきタンパク質が合成されなかったりして病気が引き起こされます。また、異常な遺伝子が親から子供に引き継がれることにより、病気も引き継がれることがあります。一部の癌では発癌遺伝子や逆に発癌を抑制する遺伝子が存在することも明らかになっています。
それでは、心臓の病気ではどのような病気が遺伝と関係あるのでしょうか?
遺伝と関係のある比較的多い疾患に肥大型心筋症があります。この病気は明らかな原因がないにも関わらず心筋が肥大してくる疾患です。日本人に多く500人に1人くらいいるとも言われています。10年生存率は95%以上で予後は必ずしも悪くないことがわかってきましたが、一部の患者様では急激に心不全が進行したり、不整脈により突然死される方もいることが知られています。遺伝的関与が30~40%に認められることが知られています。
また命に関わる不整脈と遺伝的背景との関連もわかってきました。心室細動といって心臓が突然ぶるぶる震えて心臓が止まってしまう不整脈を起こす患者様の家系があることが知られています。心室細動は心室が痙攣(けいれん)してしまう状態で、この状態が5秒以上続くと意識がなくなり失神、それが数十分続くと死亡に至る怖い不整脈です。遺伝的不整脈には“先天性QT延長症候群”や“ブルガダ症候群”、“カテコラミン誘発多型性心室頻拍”などの名前がつけられています。これらは心筋細胞のイオンの流れに関与する遺伝子の変異により発症するといわれています。
一方で、先天性心疾患といわれる病気があります。
この病気には心臓の発生過程で心臓の4つの部屋を隔てる壁の一部が欠損している心室中隔欠損症や心房中隔欠損症などがあります。生まれた時から存在する病気のため、遺伝的背景が強い病気と捉えられがちですが、遺伝的背景がない場合が多いといわれています。一般に先天性心疾患の発生率は0.7%ですが、両親のうちのいずれかが先天性心疾患の場合の発生率は2.28%で3倍程度です。つまり97%は正常なお子さんが生まれます。あまり心配しすぎる必要はないといわれています。
本地洋一さん:今お話を伺っていますと、遺伝的な要素が強い病気というのはある程度分かってきているということですね。
ということは、あらかじめ、それらの発症予防も可能と考えられるのでしょうか?
松尾仁司院長:先ほどのリスナーの方からのご質問にもありました『心筋梗塞』とか『脳梗塞』といった循環器病に関しては生活習慣や高血圧、動脈硬化など“危険因子”として深く関与しています。最近の研究ではこうした生活習慣などの危険因子と循環器病に関連する遺伝子の双方がいわば重なり合うような形で循環器病の下地になっていると考えられるようになりました。
高血圧や脂質異常症、糖尿病など、心筋梗塞の危険因子といわれる状態も遺伝が関与するといわれています。たとえば家族性高コレステロール血症という病気があります。この病気は血液の中の悪玉コレステロールが異常に増加する病気であり、通常心筋梗塞の発症は40歳を超えてから発症しますが、この病気では若くして動脈硬化が急速に進行して20代、30代で心筋梗塞を発症します。高血圧や糖尿病も遺伝子が強く関与した病態が存在します。
2002年に発表された日本人5万人が参加した冠動脈疾患の疫学調査(JLIT)の結果では、冠動脈危険因子として1.高コレステロール血症、2.高血圧症、3.喫煙習慣、4.糖尿病、5.低HDL血症、6.冠動脈疾患家族歴が挙げられています。実際、心筋梗塞や脳卒中の家族歴が親や兄弟にある場合には本人が脳疾患や心疾患を起こす確率は家族歴のない人の2~4倍に上昇、近親者が45歳以下の若さで脳・心疾患を発症していると本人が55歳までに心疾患を発症する確率は6.7~11.4倍に増えるとの報告があります。
本地洋一さん:遺伝的リスクの高い人は『心筋梗塞』とか『脳梗塞』に係る運命にあると言っていいのでしょうか?
松尾仁司院長:必ずしもそうではありません。たとえ家族歴をお持ちの方も冠危険因子をコントロールしたり、運動習慣をつけることにより発症するリスクを軽減することができます。
日本において、この50年を振り返りますと心臓死が倍増した背景には生活習慣の変化があるといわれています。生活習慣を見直せば心臓死を半減できることを示しているわけです。またお薬の治療やカテーテル、手術の治療も格段の進歩がみられます。適切な治療や生活習慣をつけることにより、冠動脈疾患による突然死や心臓死を予防することが可能な時代になっています。つまり家族歴をもっている場合には動脈硬化になりやすい体質をもっている可能性があるため、より運動習慣、食生活などの生活習慣の改善に取り組むことが必要と考えてください。
本地洋一さん:親御さんやご兄弟が循環器疾患を患っておられたとしても、後天的要因である生活習慣病が循環器疾患を引き起こす比重が高いため、ご自分の生活習慣を改善することによって、病気の発症リスクを下げることは可能であるということでしょうか?
松尾仁司院長:遺伝情報というのはご両親から受け継いだものですから、それは受け入れるしかありません。また、『心筋梗塞』は遺伝的な関与は少しありますが、決して遺伝病ではありません。
一方で現在の医学では後天的な要因である生活習慣病(糖尿病、高血圧症、脂質異常症)をコントロールするための治療法はかなり進歩しています。
それに加えて、病気にかかる前から普段の生活に気配りをすることにより、循環器疾患にかかりにくい体質を維持することが、健康年齢を延ばすためには重要なことです。
吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年7月15日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。