『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第74弾~
2023年7月6日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第74回目の放送です。
本地洋一さん: 前回の放送は『あしの病気』とういテーマで、あしの病気は動脈と静脈いずれにも起こり、またあしの病気を持つ患者様にはほかの臓器にも病気が隠れていることがあると教えていただきました。
今回は、『あしの病気の治療』というテーマでお話を伺いたいと思います。
松尾院長: 岐阜ハートセンターでは、心臓の病気の他にあしの血管の病気の診療をしています。昨年1年間で当院のあしの外来を受診した95名の患者様の内訳は、静脈の流れが悪くなってあしのむくみや症状がでるという機能性静脈不全の方が約36%で、あしの動脈の狭窄や閉塞する末梢動脈疾患(PAD)の方が22%、その他にはあしの表面の静脈が拡張してぼこぼこに膨らむ下肢静脈瘤が19%という結果でした。
つまり、あしの血管の病気が80%弱を占めているということです。
あしの血管には皮膚、筋肉、骨などの各組織に酸素や栄養を運ぶ動脈と、各組織から老廃物や二酸化炭素を運び出す静脈があります。アニメーションや血管の図をご覧になると動脈は赤色で、静脈は青色で描かれていることをご存じでしょうか? これは酸素を多く含んだ血液は赤く見えて、組織で酸素を放出し二酸化炭素を多く含んだ血液はどす黒く見えることからこのような色使いをしています。
動脈と静脈どちらにも病気を生じますが、今回の放送ではこれらあしの血管の病気のうちあしの動脈の病気である『閉塞性動脈硬化症』その治療についてお話しします。
足には非常に多くの大きな筋肉や骨があり、これらが股関節や、膝、足首の関節を動かすことによって人は立ったり、歩いたり、走ったりできます。
この時足の筋肉は安静にしている時に比べて大量の酸素や栄養が必要となるため、動脈は安静時の10倍から20倍の血液をあしに運ぶ必要があります。
しかしながら、足の動脈が動脈硬化によって狭くなると、血液を十分に流すことが出来ないため、筋肉は必要な酸素や栄養を受け取ることが出来ません。この状態を医学的には虚血と言います。
『閉塞性動脈硬化症の症状:間欠性跛行』
じっとしているときは何ともないけれども、歩いたり走ったりするとふくらはぎや太ももなどが“重たくなる”、 “しびれる”、“痛くなる”といった症状が出て、しばらく休むと症状が取れてまた歩くことが出来る。このような状態を“間欠性跛行”と言い『閉塞性動脈硬化症』の初期症状として最初に出てくることが多い症状です。
跛行とは歩行障害の一種で、かばうように歩いたり、足を引きずったりする異常歩行のことです。
同じように間欠性跛行を呈する病気に、整形外科領域の脊柱管狭窄症という病気があります。この病気は加齢、労働、あるいは背骨の病気による影響で変形した椎間板と、背骨や椎間関節から突出した骨などにより、神経が圧迫される病気です。この病気の場合の安静にしている時にはほとんど症状はありませんが、背筋を伸ばして立っていたり歩いたりすると、ふとももや膝から下にしびれや痛みが出て歩きづらくなります。しかし、すこし前かがみになったり、腰かけたりするとしびれや痛みは軽減されるという特徴があります。
『閉塞性動脈硬化症』と脊椎管狭窄症は、いずれも間欠性跛行を呈するうえにご高齢の方に多くさらに両方を患っている方もおみえになるため、我々は慎重に鑑別する必要がある病気です。
『閉塞性動脈硬化症の診断』
病院で『閉塞性動脈硬化症』を疑った場合は、足関節上腕血流比(ABI)検査、超音波検査といった非侵襲的検査から、より詳細な血管造影CT検査といった侵襲的検査を行います。
特に血管造影CT検査はあしの血管のみならず、大動脈や冠動脈、頸動脈、頭蓋内の動脈など、全身の血管を1度の検査で診断ことが出来ます。これらを行うことにより、太ももの付け根あたりの太い血管が動脈硬化で細くなっているのか?それとも、足首やつま先・足の趾の非常に細い血管が詰まっているのか?血管の太さや、病変の長さ、動脈硬化の程度など、を正確に評価すると同時に、あし以外の血管の評価もおこなうことが可能です。
これらの検査で『閉塞性動脈硬化症』を正しく評価することにより、その患者様に合った治療選択を行います。
本地洋一さん: 『閉塞性動脈硬化症』の治療としてはどのようなものがあるのでしょうか?
『閉塞性動脈硬化症の治療』
松尾院長: 『閉塞性動脈硬化症』の治療は大きく3つあります。
1つ目は内服治療と運動療法です。2つ目はカテーテルを使った血行再建、3つ目はバイパス手術による外科的治療です。これらはいずれも足の血流をよくするために効果がある治療法です。
患者様の状態に応じて、非侵襲的な治療法を選択するか、あるいは複数の治療法をハイブリッドに選択して足の血流を改善するための治療を行うかを判断します。
本地洋一さん: あしの動脈はあしの付け根から太ももひざ下からつま先までかなり長い距離があると思うのですが、これら長い動脈のいろいろな場所にステントを入れたり、バイパス血管を繋いだりすることも可能なのですか?
松尾院長: 大変重要なポイントをとらえた質問だと思います。といいますのは、我々が造影CTや血管造影で狭窄や閉塞を判断可能な血管はカテーテル治療やバイパス手術で治療が可能なのですが、造影検査などで判別が出来ないほど細い微小動脈の動脈硬化はカーテルを挿入できませんし、バイパス血管もつなぐことは出来ません。したがってこれら微小動脈の動脈硬化に対しては、血流をよくするお薬や血液をサラサラにするお薬、血管拡張を促すお薬で治療を行います。
さらに、これら局所の血行再建と併用して全身の動脈硬化の進行を抑える治療を行います。
さらに症状が進むと、安静時でも皮膚や筋肉、骨が血流不足で虚血状態を起こすようになります。皮膚が虚血状態になると色が悪くなってきて深刻化すると潰瘍(皮膚の表面が炎症を起こして崩れ、深いところまで傷ついた状態)や壊死(足の組織が死んでしまう状態)を起こすこともあります。この状態を『重症下肢虚血』と呼び、ひどい場合はあしを切断しないと命を救えない場合もあります。
したがって、この病気も早期発見、早期治療が重要となります。
もう一つ、リスナーの皆様へ是非お伝えしたい重要なことがあります。
前回の放送でもお話ししましたが、動脈硬化はあしの動脈だけでなく全身の動脈に起こってくるということです。
足の動脈に動脈硬化がある場合、心臓や脳の血管にも動脈硬化が起きていることが多いということが分かっています。
『閉塞性動脈硬化症』の患者さんの約半数には冠動脈にも動脈硬化性病変があり、20%の人には脳を栄養する動脈にも動脈硬化があり、『閉塞性動脈硬化症』と診断された方は、5年後には約20%が心臓や脳の血管疾患を発症し、このことが原因で15%が死に至ると言われています。特に足が壊死を起こす『重症下肢虚血』に至った場合は5年の生存率が40%しかないことが疫学調査で分かっています。
つまり、『閉塞性動脈硬化症』とわかったら足の動脈だけでなく、心臓や脳の血管、全身の血管も正しく評価して、治療したり予防したりする必要があるということです。
岐阜ハートセンターでも、あしの症状で来院された患者様には、あしの血管をチェックするとともに命に関わる心臓や胸腹部の大血管、頸動脈や腎臓周囲の血管も必ず動脈硬化がないかをチェックするようにしています。
本地洋一さん: これらきめ細かい検査によって命に関わる重篤な病気が隠れていないかをチェックし、重篤な症状が出る前に適切な治療が可能となるということですね!
『閉塞性動脈硬化症の予防や再発防止』
松尾院長: リスナーの皆様にも知っていただきたい重要なポイントは、カテーテル治療やバイパスによる血行再建はゴミが詰まった水道管のつまりを治しているのであって、そこを流れる水を奇麗にしているわけではありません。流れる水つまり血液がドロドロのままであれば、動脈硬化は再発する可能性が高いと言えます。
したがって動脈硬化の原因となりうるリスク因子である糖尿病、脂質異常症、高血圧症をコントロールすることは、動脈硬化の予防や閉塞性動脈硬化症の再発予防にとって大変重要となります。
吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2023年7月27日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。