皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?
2021年7月15日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第26回目の放送です。
本地洋一さん:早いもので、このコーナーが始まって1年になります。
この1年 松尾院長には、心臓の病気について、またその予防や治療法についていろいろなお話をしていただきました。
そこで今回の放送はこの1年間に話していただいた内容をおさらいの意味も込めて『心臓病を予防するための心掛けについて』というタイトルで総括的なお話ししていただきたいと思います。
松尾仁司院長: 一口に心臓病と言いましても実にいろいろな病気があります。
前回の放送でも、病気を起こす原因として遺伝的素因が強いものと、食生活をはじめとした生活習慣が大きく影響している病気があるというお話をしました。
そこでもお話しした通り、病気の原因は100%遺伝的因子か生活習慣にきっちり分けられるものではありませんが、本日は心臓病の中でもその発症の原因が生活習慣に大きく依存されると考えられている心臓病についてその予防法を、この1年でお話ししたことから振り返りたいと思います。
心筋梗塞、狭心症といった虚血性心臓病は心臓に酸素や栄養を運んでいる冠状動脈の動脈硬化が原因で起こります。その動脈硬化には進行させる危険因子がいくつかあります。
それは、今までにこのコーナーでも話題に挙げたことがある『肥満』、『高血圧』、『高血糖』、『脂質異常』に加え、『喫煙』や『高尿酸血症』も動脈硬化の進行を加速する危険因子と言われています。
これらの動脈硬化の危険因子は生活習慣が深く関係しています。
つまり、『肥満』、『高血圧』、『高血糖』、『脂質異常』、『喫煙』などを改善するための生活習慣を身に付けることは、心筋梗塞や狭心症を予防につながるということです。
1. 禁煙
タバコを吸われる方には『禁煙』を強くお勧めします。
タバコは百害あって一利なしです。絶対にやめるべきですが、当院の患者さんの中にも何度も禁煙に挑戦しては挫折している方もお見えになります。
近年、岐阜ハートセンターのみならず、多くの病院で『禁煙外来』を設けています。
そこでは様々なタイプのお薬を使って体の中のニコチン濃度を調整しながら徐々に減らしていって、最終的に体の中にニコチンを取り込まないでも平気でいられるようにしていく治療などを行い、禁煙のお手伝いをしています。
ここで行われる禁煙治療は保険診療の範疇で受けることが出来ますので、ご自分だけでは禁煙が難しいと思っている方は一度受診してみてください。
2. 塩分の取りすぎに注意
高血圧は動脈硬化の進行に大きく関与していますし、血圧が高くない人に比べて心臓そのものに負担がかかり続けることによって、心不全を惹起することも知られています。
高血圧症には日常食生活における塩分の過剰摂取が、大きく影響すると言われています。一般的には塩分摂取を1日7グラム以下に抑えることが推奨されていますし、お子さんのうちから塩分を取りすぎないような生活習慣を学校や家庭で教育することにより、将来の『高血圧症』予防につながります。
本地洋一さん:1日7グラム以下はかなりキツいですよね!
3. 脂質、コレステロールのとりすぎに注意する
これも、動脈硬化の進行に大きく影響することが知られていますし、健康診断などの採血検査で、以下の3つのうち1つでも当てはまると、脂質異常症と診断されます。
・LDLコレステロール(悪玉コレステロール):140mg/dL以上
・トリグリセライド(中性脂肪):150mg/dL以上
・HDLコレステロール(善玉コレステロール):40mg/dL未満
職場の健康診断などで『脂質異常症』を指摘されていても、自覚症状がないため放置されている方もお見えになりますが、これは動脈硬化の進行を放置することにつながりますので、将来的に恐ろしい病気につながる可能性が高いことを知っていただきまずは受診していただくことをお勧めします。
4. 肥満に注意する
『肥満』とは一般的には、正常な状態に比べて体重が多い状況や体脂肪が過剰に蓄積したことを言いますが、脂肪がつく場所によって2つのタイプがあります。
それは『皮下脂肪型肥満』と『内臓脂肪型肥満』です。
この2つの脂肪はその合成と分解の性質にも違いがあります。
皮下脂肪は脂肪の合成と分解に時間がかかるため内臓脂肪に比べ、つきにくく、取れにくい脂肪と言えます。預金にたとえると定期預金ですね!
一方で内臓脂肪はその合成と分解が皮下脂肪に比べてさかんに行われるため、摂取した栄養に余分があれば溜まりやすい脂肪と言えます。
お金にたとえると、お財布の中のお金で出し入れが容易であると言えるかもしれません。
このため、内臓脂肪は血液中の脂質と密接に関係してきます。つまり、内臓脂肪が増えると血液中の中性脂肪や悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が増え、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が減るということになります。
つまり、内臓脂肪が多い方は脂質異常をきたしやすいため、動脈硬化を起こしやすく、狭心症や心筋梗塞、急性大動脈解離といった心血管疾患や脳卒中等の命に関わる恐ろしい病気になりやすいと言えます。
糖尿病、高血圧症、高脂血症に加えて『肥満』がある方は、これらのリスクを全く持っていない方に比べ心血管疾患や脳卒中と言った恐ろしい病気にかかる確率が35倍高いと言われています(死の4重奏)。
『肥満』は生活習慣を改善することが非常に重要です。主に食習慣の改善と運動習慣の継続です。無理なダイエットは長続きしません。食習慣の改善で言うとよくかんでゆっくり食べる、夕食は眠りにつく3時間前までに済ませるなどから改善してはいかがでしょうか! あと、運動も重要です。これも自分一人でストイックにトレーニングをするよりも、夫婦一緒にとか仲間と一緒におおらかな気持ちで、無理せずに楽しんで運動することが、長続きのコツだと思います。
5. お酒は適量
今まで、飲酒についてお話したことはありませんでした。多量の飲酒は肝臓にとって悪影響を与えることは広く知られていて、よく「週に1~2日は休肝日を作りましょう」と言われたりしますよね!
これは、心臓病や肝臓病だけではなく、多くの病気にとってお酒を過剰摂取しないことは重要なポイントになることが知られています。
一方で、適量のアルコール摂取は精神的にもよい影響を与えると言われており、ストレスコントロールには良いため、上手な飲酒は健康のために良いことです。
6. 定期的な動脈硬化の進行度チェック
最近では、痛みを伴うような侵襲的検査をしなくても超音波で動脈硬化の有無やその進行度をチェックすることが可能です。また、両手首、足首に機械を装着して脈波速度や血圧の比から足の動脈の狭窄や閉塞の有無をはかることが容易に出来るようになりました。
7. ウォーキングなどの有酸素運動
医学雑誌というものの中では、ちょっとだけ頑張るような運動、強度的には少し汗ばむ程度でしょうか、例えば少し速足でのウォーキングなどを一週間に2.5時間程度することが推奨されています。これは週3回運動する人の場合、1回の運動時間は30分~1時間ということになります。別の言い方をすると1日に7000歩から8000歩の歩行を1週間に3回程度行うことが、健康維持のために効果的な運動ということになります。
2000年にアメリカ内科学会で報告されたデータでは、死亡確率は1日に8000歩歩く人のグループ、4000歩しか歩かない人のグループを比較した場合、1日8000歩のグループの死亡率は4000歩のグループの半分程度であったとのことです。
ただ、全く運動習慣のない方にいきなり1日8000歩歩けというのは少し無理があります。このような方(患者さん)に私が診察室でお勧めしているのは、運動習慣の大切さをお話しした後に、まずは普段より1日に10分だけ多く歩くようにしてくださいと言っています。10分間の歩行は約1000歩歩くことと言われています。これが無理なくできるようになったら、次はもう10分余分に歩けるように頑張りましょう、というように、徐々に1回に歩く量を増やしていって、最終的に1日に8000歩を1週間に3回歩けるようになっていただけたらと思います。運動は習慣として長く続けることが効果的です。
8. 短気な性格を改める
アメリカの医師フリートマンとローゼンマンは、人の性格をその人の行動パターンからタイプA、タイプB、タイプCに分類し、病気との因果関係があることを発見しました。
タイプAの人は、性格面では、競争的、野心的、精力的、何事に対しても挑戦的で出世欲が強い、常に時間に追われている、攻撃的で敵意を抱きやすい、行動面では機敏、せっかち、多くの仕事に巻き込まれていると分類されています。このタイプA性格の方は、自らストレスの多い生活を選び、ストレスに対しての自覚があまりないままに生活する傾向があるそうです。
タイプBは、タイプAとは反対の性格傾向を持つ人で、あくせくせずにマイペースに行動し、リラックスしており、人は人、自分は自分という感じで非攻撃的な性格傾向を持つ人です。
タイプCは、いわゆる「いい子」で自己犠牲的であり、周囲に気を遣い譲歩的、我慢強くて怒りなどの否定的な感情を表現せずに押し殺す、真面目で几帳面といった特徴を持っています。
これら3つのタイプの性格のうち、タイプAの方は心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患にかかりやすいと言われています。
しかしながら、病気にかからないようにするために、性格を変えようとするのはあまり賢明ではありませんし、おそらく上手くいきません。
それよりも、タイプAの方は少し落ち着いて立ち止まったり、リラックスする習慣をあえて作るように心掛けてみることをお勧めします。
9. ストレスを溜め込まない
『メンタルストレス』による交感神経の緊張状態が長く続くことは、心筋梗塞や脳卒中等をはじめ様々な病気とリンクすることが知られています。
交感神経の緊張状態が続くと血圧が上昇し、血管そのものに機械的なストレスがかかり続けることになり、脳や心臓、大動脈などの動脈硬化を悪化させたり、粥腫の破綻、動脈の解離や破裂を起こしやすくなります。
つまり、『メンタルストレス』は脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を悪化させる原因となるということです。
適度な運動が肉体的健康を維持するために重要であることは、リスナーの皆様もお分かりだと思いますが、『メンタルストレス』を軽減し精神面の健康を維持するためにも、適度な運動を習慣づけることは非常に効果があることです。
10. 夫婦円満
イギリスの統計データによると、夫婦ともに健在な方の心筋梗塞の発症リスクを1とした場合、奥様と死別された男性の心筋梗塞の発症リスクは約2倍になる一方で、旦那様と死別された女性の心筋梗塞の発症リスクは0.82と減少するという結果が出たそうです。
本地洋一さん:女性のほうが元気!ということですかね?
吉田早苗さん:次回のハート相談所は2021年7月22日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。