『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第78弾~

2023年9月7日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第78回目の放送です。

本地洋一さん: さて、今回の放送は『第12回ハートの日 in GIFU』のふりかえり第2弾。ハート講演会で岐阜ハートセンター副院長の中川正康先生が講演された

『心不全を正しく知ろう』です。

 

・心不全とは

心不全とは、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されています。ただ心不全とは病名ではなく、病的状態の総称(いわゆる症候群)です。心不全は本邦の高齢化に伴い急激に増加しており、感染症の大流行(感染爆発)になぞらえて「心不全パンデミック」と呼ばれています。私が生まれた1960年には心不全患者は5万人弱でしたが、60年後の2020年には約35万人と7倍に増加しています。もはや心不全は国民病の一つと考えられ、医療機関のみならず行政とも協力してその対策に取り組んで行かなければなりません。

・心不全の原因

 心不全は様々な原因があって発症します。心臓の病気としては心筋梗塞、弁膜症、

不整脈、心筋症などがあり、心臓以外の病気としては高血圧、腎臓病、貧血、甲状腺の病気、肺の病気、薬剤の影響などがあります。

・心不全のステージ分類

 心不全の病期は4つのステージに分けられます。

①ステージA:

高血圧や糖尿病などの心血管病の危険因子となる生活習慣病はあるものの、まだ心臓病や心不全を発症していない段階です。

②ステージB

冠動脈疾患や弁膜症などの心臓病はあるものの、まだ心不全にはなっていない段階です。

③ステージC

心不全が発症した段階です。この時点で十分な治療がなされなかったり、心不全の悪化を繰り返すと次のステージDへ移行します。

④ステージD

治療を行っても心不全の悪化を繰り返したり症状が改善しない、いわゆる難治性の心不全となった状態です。この段階に入ると心不全の治療とともに、終末期医療、緩和医療といったことも併せて行っていくことになります。

・心不全の症状

 心不全の代表的な症状としては息切れやむくみ、横になると息苦しい、急激な体重増加、疲れやすい、だるい、食欲がない、などが挙げられます。これらは他の病気でも生じることがあり、症状だけで心不全と判断するのは容易ではありませんが、「今まで普通にできていたことができなくなった」とか「これまではなかった症状」などは要注意です。むくみは下肢で見つけやすく、脛を指で強く押して指の跡が残るようであればむくみ(浮腫)と判断します。朝起きた時からむくみがあれば要注意です。

・心不全の検査

①胸部レントゲン:

心不全では心拡大や肺うっ血、胸水貯留などを認めます。

②心電図:

心不全に特異的な所見はありませんが、心拍数や不整脈の有無、様々な心臓病に伴う心電図変化(虚血性変化、心肥大、脚ブロックなど)の有無が判定できます。

③心エコー:

超音波を用いて心臓の大きさや形、働きを観察することが可能で、心不全の原因や重症度、治療効果の判定などに有用です。

④血液検査:

血液検査では様々な情報が得られますが、心不全では特にBNPやNT-proBNPは 心不全の診断や重症度判定、治療効果判定などに有用です。

また血清クレアチニンとeGFRは腎臓の働きを、Hb(ヘモグロビン)は貧血の有無、HbA1cは糖尿病の診断と管理の良否の判定に有用です。

その他にはCTやMRI、心筋シンチグラフィ、心肺運動負荷試験、心臓カテーテル検査などが必要なことがあります。

・心不全の治療

①正しい生活習慣

・食事:塩分制限、水分制限、適切なカロリー、バランスの取れた食事

・嗜好:禁煙、節酒

・適切な運動

②原因疾患の治療

心不全の原因となっている心臓病の治療が可能な場合には、その病気に対する治療が重要です。

・心筋梗塞などの冠動脈疾患に対しては冠動脈カテーテル治療や冠動脈バイパス術が行われます。

・弁膜症に対しては外科的に弁置換術や弁形成術が行われますが、手術の危険性が高い患者さんにはカテーテル治療が行われることもあります(大動脈弁疾患に対してはTAVI、僧帽弁閉鎖不全に対してはmitral clipなど)。

・不整脈の患者さんにはカテーテルアブレーションやペースメーカー(脈の遅い患者さんに適応)、植え込み型除細動器(命に関わる危険な不整脈例が対象)などが行われます。また左脚ブロックなど心臓の収縮のタイミングのずれを生じている患者さんには心臓再同期療法が行われることもあります。

③薬物療法

心不全に対する治療薬はここ数年で新たに登場した薬剤もあり、多くの薬剤が用いられますし、合併する病気に対する薬剤も必要となります。重要なことは医師の指示通りに正しく内服することです。自己判断による中止や調節は非常に危険です。

④その他

重症の心不全例に対しては植え込み型人工心臓に使用や心臓移植などが行われることもあります。

・大切なこと

心不全を「正しく知って、正しく恐れること」です。

まずは健康診断などの現在の自身の健康状態を知ることが重要で、その上でそれぞれの健康状態に合わせた対策が必要です。

生活習慣病や心臓病を指摘されていない方は、正しい生活習慣を身につけて生活習慣病を予防しましょう。

生活習慣病を有するステージAの方は高血圧や糖尿病、脂質異常症などを良好にコントロールして、心臓病の発症を予防しましょう。

心臓病を有するステージBの方は心臓病の治療をしっかりと行って、心臓病の進行と心不全を予防しましょう。

心不全を発症したステージC、Dの方は、症状の軽減と心不全の悪化を防ぐための心不全治療を行いましょう。

心不全が疑われる症状のある方は「大したことはないだろう」と軽視せず、医療機関を受診するようにして下さい。

吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2023年9月14日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。