『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第80弾~
2023年9月26日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第80回目の放送です。
本地洋一さん: 今回の放送は岐阜ハートセンター院長の松尾仁司先生と電話がつながっています。
吉田早苗さん: 松尾先生こんにちは! 今日もよろしくお願いします。
本地洋一さん: 今日のテーマは『胸の痛み』 について松尾先生にお話しを伺いたいと思います。
『胸の痛み』と言っても色々な種類の痛みや原因があると思うのですが・・・
胸からお腹にかけては心臓だけへはなく、様々な臓器がありますよね!
また、ろっ骨などの骨や、筋肉も沢山あるので『胸の痛み』原因も様々であると思うのですが、どのようにとらえたらよいのでしょうか?
松尾仁司院長: 一般の方々にとって『胸の痛み』はというと、心臓の痛みと思われる方も多いと思います。
我々循環器の領域では、急性心筋梗塞、解離性大動脈瘤・大動脈破裂、肺塞栓症といった命に関わる重篤な状態に陥る可能性がある疾患で『胸の痛み』を主症状とする病気があります。
これらの病気は重症で、場合によってはご自身で血圧を保つことが出来なくなり、『胸の痛み』に加えて大量の冷汗やショック、意識障害を伴うこともあり、病院にたどり着く前に亡くなる方もお見えになります。
また『胸の痛み』はいろいろな種類があり、痛みの感じ方は様々です。
患者様の訴えとしては、単純に“胸が痛い、苦しい”の他にも“胸の真ん中が圧迫される”、“締め付けられる”、“胸をつかまれているような感じがする”、“重苦しい”、“胸が窮屈な感じ”などの表現をされる方がいらっしゃいます。
一方で、『胸の痛み』を訴えられる患者様がすべて恐ろしい病気ではありません。“チクチクする痛み”であるとか、“移動するような痛み”、“息を吸ったり吐いたりすることに伴う痛み”、身体の向きを変えると出現する痛み“”は心臓病が原因の痛みとは異なると思われます。
胸痛を主訴に病院を受診した方のうち約半数は、様々な検査をしても狭心症、心筋梗塞や大動脈解離、肺塞栓症などの診断がつかない方がいらっしゃるという報告もあります。
本地洋一さん: このなかで例えば狭心症の症状の特徴的痛みを教えてください。
松尾仁司院長: 狭心症の場合痛みの出現部位でいうと胸の真ん中あたり、頚から肩、顎が痛いという方もいらっしゃいます。これらの症状が運動した際、精神的ストレスによって悪化するが、休んだりリラックスすると症状が治まるといった特徴があります。さらに症状出現時にニトログリセリンを舌下することにより症状が改善することがと狭心症の典型と言えます。
本地洋一さん: ニトログリセリンというお薬は、狭くなった冠動脈を拡げることにより胸の痛みが和らぐのでしょうか?
松尾仁司院長: 狭心症による『胸の痛み』は、動脈硬化や冠動脈の攣縮により心臓を栄養する冠動脈の血流が減少することにより、運動やストレスで心臓に負担がかかると心臓が必要としている酸素や栄養が足りなくなるが原因です。
ニトログリセリンは血管を拡げて冠動脈の血流を増やすと同時に、心臓への静脈還流を減らす働きがあり、その結果心臓の負担を軽減させます。心臓の負担が減ると心臓が必要とする酸素や栄養も少なくて済むようになり『胸の痛み』が改善します。
ただし、急性心筋梗塞、解離性大動脈瘤、大動脈破裂、肺塞栓症にはニトログリセリンは効果がありません。
我々医師は『胸の痛み』を訴える患者様を診察する場合、症状の他に2つの指標をみています。
循環器疾患を疑う指標
1) 年齢:胸痛を主訴に病院を受診した方のうち45歳以下の方が狭心症である確率は極めて低いけれども45歳を超えると年齢とともに狭心症や心筋梗塞といった循環器疾患の確立が徐々に上がってくるという統計結果が知られています。
2) 動脈硬化の危険因子:高血圧、糖尿病、高脂肪血症、肥満、喫煙などの動脈硬化の危険因子を複数お持ちの方は比較的若年でも、心臓病の可能性があります。
つまり、胸の痛みが典型的でなく、年齢が45歳以下の方でも、動脈硬化の危険因子を複数お持ちの方は、心臓超音波やCTなどの詳しい検査をお勧めします。
本地洋一さん: つまり、命に関わる循環器疾患でも、症状が比較的軽い場合もあるし、強い『胸の痛み』があっても心臓病ではない場合もあるので、しっかりと診断を受けることが重要であるということですね!
あとが主訴の病気として『胸の痛み』狭心症よりも更に緊急を要する病気には急性心筋梗塞もありますが、狭心症との違いを教えてください。
松尾仁司院長: 心筋梗塞と狭心症の違いは、狭心症の場合には通常心臓の筋肉の障害がないか、あるいはあっても少ないわけですが、心筋梗塞では確実に心臓の筋肉が障害(壊死と言います)されます。急激な筋障害が起こりますと、心室細動や心室頻拍といった重篤な不整脈が高い頻度で起こってきます。そしてこの悪性の不整脈がしばしば心筋梗塞の発症早期に命を落とす原因となるのです。
先ほど本地さんが言われたように、胸、胸郭には心臓だけでなく、大動脈、肺や肋骨、大胸筋や肋間筋などの筋肉、さらに皮膚もあります。またお腹にも『胸の痛み』の原因となりうる臓器があるため、症状だけで『急性心筋梗塞』と診断するのは難しいです。
しかしながら、ほとんどの『急性心筋梗塞』は病院で心電図と採血検査を行うことによって診断がつきます。
また、冠動脈が詰まってから90分以内に再疎通出来ると、予後は良好であると言われています。一方で24時間以上詰まった状態が続くと心筋壊死が完成してしまうことが分かっています。一般的には発症から6時間以内に再疎通治療を行うことが理想的であると言えます。
急性心筋梗塞に対する緊急カテーテル治療
つまり、『胸の痛み』の原因が『急性心筋梗塞』の場合は、発症から循環器専門病院までできるだけ早く到着して、正しく診断し、一刻も早く再疎通療法を行うことが、心筋梗塞の壊死範囲を小さくし、予後の改善ばかりでなく、その後の生活の質を落とさないためにたいへん重要ということです。
岐阜ハートセンターでは循環器専門医が常に病院内に常駐する体制で、24時間体制で『心筋梗塞』をはじめとした循環器救急疾患に対応しています。少しでも早く正しい診断をするためには早期の受診をお勧めいたします。
吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2023年10月12日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。。