『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第83弾~

2023年11月9日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第83回目の放送です。

今回の放送のテーマも前回に引き続き『不整脈②』です。

本地洋一さん: 前回の放送では、『徐脈不整脈』について松尾院長からお話をお聞きしました。今回は不整脈の第2弾として『頻脈性不整脈』についていろいろと教えていただきたいと思います。

 

松尾仁司院長:本日は『頻脈性不整脈』についてお話ししたいと思います。

一般的な成人の心臓は、安静時は1分間に60回から80回程度の拍動数で動いています。それに対し『頻脈』とは心臓の拍動する数が多くなった状態です。定義的には脈拍数が1分間に100回以上のことを『頻脈』と呼びます。

しかしながら頻脈の方すべてが病気というわけではありません。

『正常でも起こる頻脈』

階段を駆け上がったり、ジョギングをしたりすると脈拍数が増加します。これは、運動によって手足の筋肉がよりたくさんの酸素や栄養を必要とするため、心臓が心拍数をふやして対応しているためです。またテストや面接などで緊張したり、興奮したりした場合にも脈拍数が上がります。

これらは、心臓が必要に応じて脈拍を自動的に増やして対応しているという極めて正常な反応と言えます。

『頻脈性不整脈』

松尾仁司院長: “何もしていないときに急にドキドキする”場合や、 “ちょっと動いただけで胸がアブツク”といったような症状がある場合は、その後ろに病気が隠れている場合があります。

頻脈性不整脈とは、正常心拍数以上の心拍数が持続する状態です。これには心房や心室の異所性刺激生成部位が洞結節より速い頻度で興奮する場合があります。または、リエントリーと呼ばれる、心臓内で電気興奮が上図のような閉鎖回路を形成し、この回路を電気がくるくると回って、頻脈が生ずる場合もあります。比較的頻度の高い心房細動も『頻脈性不整脈』のひとつです。電気回路が存在する部位によって上室性頻拍、心室性頻拍と呼び方が変わります。

 

本地洋一さん: 一口に『頻脈性不整脈』と言っても色々と種類があるのですね!

これらすべてが治療の対象になるのでしょうか?放置した場合のリスクも含めて教えてください。

『緊急を要する頻脈性不整脈』

松尾仁司院長: 『頻脈性不整脈』の中で、早急に処置をして不整脈を停止させないと死亡してしまうものに心室細動や心室粗動があります。

これらは心臓の筋肉が痙攣(けいれん)するように震え、収縮と拡張を正常に繰り返せなくなるため、やがて心停止状態に陥ります。心室細動になると脳への血流も不足するため、発症から6秒で意識を失い、3分で脳が重いダメージを受けます。したがってAEDなどの除細動器で一刻も早く停止させないと救命が困難となります。

心室細動を発症した際に運よく近くにAEDがあり救命できた場合でもそのような患者様は再度心室細動を起こすことが多いため、近年ではICD(植込み型除細動器)という機械を植込む手術を行います。

 

ICDは、心臓の動きを常時監視して起こった頻脈の記録や治療を行い、治療の履歴も記録します。また、ICDが心臓を監視する(頻脈を検出する)条件やどのような治療を行うか、記録された内容を取り出すなどの操作はプログラマといわれる機器で行われます。

『さほど緊急を要さない頻脈性不整脈』

房室結節回帰性頻拍症、房室回帰性頻拍症、心房頻拍、心房粗動、心房細動などは直ちに処置が必要ではありませんが、脈拍数が非常に高くなったりするので患者様は非常に不快感を感じます。なかでも比較的頻度の高い不整脈に心房細動があります。

この不整脈は加齢とともに頻度が高くなり、70歳を超えると10%を超える頻度で心房細動を発症していると言われています。

心房細動とは心房の電気刺激生成が300-600回/分と非常に速い状態です。心房が色々な所から刺激されて、秩序だった収縮が出来ず、痙攣を起こしている様な状態です。このようになると、心房波は一定の形を示さず、不規則な波となります。またすべての心房波が心室に伝導してしまうと、心室の拍数が速くなりすぎて、収縮および拡張障害が生じ、血液が有効に送り出せなくなります。

 

心房細動を放置すると心臓の中に血栓といる血の塊ができて、その血栓が脳卒中などの恐ろしい病気を引き起こす可能性があるということです。

本地洋一さん: 心房細動という病名はしばしば聞くことがあります。治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?

松尾仁司院長: 『心房細動の治療』としては、以下があげられます。

1. 薬物療法

治療の基本は薬物治療です。不整脈そのものを止めたり、症状を和らげたりする抗不整脈薬、脳梗塞を予防する抗凝固薬を使います。

2. 電気的除細動

薬による治療では止まらない不整脈に対して、電気刺激で不整脈を止める治療です。

3. 高周波カテーテルアブレーション

不整脈の原因となる場所を高周波エネルギーで焼灼する治療です。通常は足の付け根から、心臓へ電極カテーテルを挿入し、標的部位を50℃~60℃の電気エネルギーで障害することで、不整脈を抑えることができます。不整脈の種類にもよりますが、発作性上室頻拍では治療成功率が95%以上であり、根治性の高い治療法です。

4. 冷凍バルーンアブレーション

最近、心房細動の治療に冷凍バルーンアブレーションが登場しました。高周波アブレーションと同じく、足の付け根から、心臓まで冷凍バルーンを挿入し、肺静脈内でバルーンを拡張、内部を液体亜酸化窒素で-60℃程度に冷やすことで、肺静脈を左心房から電気的隔離する方法です。この治療が適応となる不整脈は、現在発作性心房細動だけですが、高周波アブレーションよりも手術時間は短く、術後の再発率も低いという利点があります。

吉田早苗さん: 先ほど心房細動は加齢とともに増加していくといわれましたが、若い人は『頻脈性不整脈』には罹りにくいのですか?

松尾仁司院長: 心房細動のみならず弁膜症、心筋梗塞、心筋症などの基礎疾患が原因で起こる不整脈は確かに高齢の方に多いですが、若年者が罹る『頻脈性不整脈』もあります。

その代表的な疾患委にWPW症候群という病気があります。

WPW症候群とは、先天的に心臓の正常な電気の伝導路以外に副伝導路(ケント束)を介する心房と心室の間の伝導が存在するものをいいます。心電図でデルタ波という波形が特徴で、不整脈がなくても診断される事があります。通常心房と心室の間は一本の回路で接続されていますが、WPW症候群の方は、それ以外にケント束という別の回路が心房と心室の間に存在し、その余分な回路がもとで不整脈が発生します。成人の健康診断では人口10万人当たり4~6人の頻度で検出されます。

本地洋一さん: 『頻脈性不整脈』は、老若男女を問わず起こりうる病気ということですね。

松尾仁司院長: その通りです。しかしながら、現代では治療により根治可能な可能性が高い不整脈が多いので、早く正しい診断をしていただくことが大切だと思います。

 

吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2023年11月30日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。