皆様、ぎふチャンのラジオ番組で『きょうもラジオは!? 2時6時 』ってご存じでしょうか?

12月24日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』第13回目の放送です。

心臓や血管の病気は急激に症状が悪化したり、重症化したりするケースが少なくありません。「どんな治療法があるのか?」、「急に悪化した場合どうすれば良いのか?」

「予防策として、普段の生活でできることは何か?」など、岐阜ハートセンターの松尾仁司院長とパーソナリティの本地洋一さん、吉田早苗さんが対談の中で、地域の皆様の命を守るのに役立つ情報を発信していきます。

今回はクリスマスイブで、クリスマスツリーが鎮座しつつも、3密と飛沫対策されたスタジオからの放送でした。

今回のテーマは『心筋梗塞』についてです。

本地洋一さん:本格的な冬に入りより寒くなってくるわけですが、これからの季節『心筋梗塞』にかかる患者様が増えてくるのではないでしょうか?

松尾仁司院長:まず最初に、心臓という臓器は人が母親のお腹にいる時からその方がお亡くなりなるまで、起きているときはもちろん寝ている時も、ズーっと動き続けなければならない臓器で、心筋という筋肉で出来ています。動き続けるためには、冠状動脈により酸素と栄養が供給され続けなければなりません。

心臓に酸素や栄養を運ぶ血管を『冠状動脈』といい、心臓の表面を冠(かんむり)が覆いかぶさるようにして心臓全体に血液を運んでいます。

年齢を重ねてきますと、冠状動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることがあります。

動脈硬化自体には自覚症状はないのですが、ある時動脈硬化の起こっている部位に血栓という血の塊ができて急激に詰まることにより、一気に血流が途絶することがあります。そのなると心臓の筋肉に栄養が行かなくなって心筋は壊死を起こしてしまいます。これが『心筋梗塞』という病気です。

『心筋梗塞』とよく似た病気に『狭心症』があります。どちらも虚血性の心臓病ですが、心筋梗塞は心臓の筋肉が壊死を起こしているのに対し、狭心症はその一歩手前で、心筋の壊死は起こしていないけれども、動脈硬化による冠動脈の狭窄によって血流が悪くなり、運動した時などに心筋の酸素不足が起こり、そのため胸が苦しくなったり、押さえつけられるような症状が出たりする病気です。

本地洋一さん:『心筋梗塞』にはいろいろな症状があると聞いていますが、具体的にはどのような症状で発症するのでしょうか?

松尾仁司院長:人によっていろいろな表現をされますが、典型的な症状としては“激しい胸の痛み”、“前胸部の絞扼感”、つまり胸の前側が締め付けられるように痛みを訴えられる方が多いです。これらが15分以上続くようなら『心筋梗塞』が強く疑われます。

しかしながら、患者様によっては“みぞおちが痛い”、“喉元が痛い”、中には“歯が痛い”という方もお見えになりますし、激烈な胸の痛みはなく“なんとなく胸がモヤモヤする”といった程度の症状の方も拝見したことがあります。

また、『心筋梗塞』を発症した約半数の方は心筋梗塞を起こす前は全く無症状で、ある時突然の胸の痛みを感じるといった発症の仕方をします。残りの半数の方は発症の2~3日前からなんとなく胸の圧迫感を感じたり、比較的短時間で治まるような胸の痛みといったいわゆる、『心筋梗塞』の前駆症状を感じることが知られています。

本地洋一さん:つまり『心筋梗塞』は、ご自分は健康と思っていても、ある日突然発症することがある病気で、その半数は何の前触れもなく起こるということ。もう一つの虚血性心臓病である狭心症は運動したり興奮したりした場合に一過性の胸部症状が起こるけれども、安静にすることにより症状が回復するということですね!

ということは、皆さんご自分が健康だと思っていてもある程度の年齢になると、『心筋梗塞』や狭心症という病気にかかる可能性があると思っていたほうが良いということでしょうか?

松尾仁司院長:『心筋梗塞』や狭心症という病気は基本的には加齢と動脈硬化の進行によって発症する場合が多いことがわかっています。血圧値、血糖値、コレステロール値のコントロール、禁煙の4つは動脈硬化の進行を防ぐために、重要であり、これが結果として『心筋梗塞』や狭心症の発症リスクだけでなく、多くの循環器疾患の予防につながると考えられます。

健康診断などで高血圧や糖尿病、高コレステロール血症を指摘されてお薬が処方されている方は、これらの病気を持っていない方に比べ、虚血性心臓病や、前回お話しした解離性大動脈瘤といった、命に関わる重大な病気にかかる可能性が高いことが分かっています。これらを予防するためにもお薬で血圧や血糖値、コレステロール値をコントロールする必要があるわけです。何故お薬でこれらをコントロールする必要があるかを正しく知っていただけると、お薬を飲み続けるモティベーションにつながると思います。

本地洋一さん:これまでのお話で『心筋梗塞』とは心臓に酸素や栄養を運んでいる冠状動脈が突然詰まることにより心筋壊死を起こす病気で前胸部の激しい胸痛が特徴ということですが、心筋の壊死に至るまでに何とか詰まった血管を治療するためには時間との勝負といってよいものでしょうか?

松尾仁司院長:まさにその通りです!冠状動脈が詰まってから時間がたつほどに心臓の壊死範囲が広がってしまいますし、心臓の筋肉は骨や皮膚、手足の筋肉と違い、一度壊死を起こすと再生できません。したがって壊死範囲が広範になるほどポンプとしての働きが悪くなってしまいます。本地さんのおっしゃる通り『心筋梗塞』の治療とは詰まった血管を一刻も早く再開通させることが、我々循環器救急医が行っていることなのです。

このため、岐阜ハートセンターでは24時間、365日 循環器専門医と看護師や技師(士)のチームが救急の患者様の検査や治療を行う体制をとっています。

本地洋一さん:一刻も早く詰まった血管の治療をし、再開通させるためには『心筋梗塞』の患者さんも一刻も早く専門の病院を受診しないといけないということですね!

松尾仁司院長:『心筋梗塞』発症から血流再開までの時間が患者様の予後を決める重要な因子であることが分かっています。つまり、患者様の予後を改善させるためには発症から病院に到着するまでの時間と病院に到着してから治療により詰まった冠動脈を再開通させるまでの時間の両方を短くする必要があるということです。

われわれ、病院のスタッフは患者様の到着から血流再開までの時間を短縮させる努力をすることはできますが、発症から病院到着するまでの時間を短縮することには介入しづらいということがあります。

患者様をはじめとした一般の方々の中には、“今は夜中だし、いろいろな人に迷惑をかけることになるから、朝まで我慢しよう”という考えの方もお見えになります。日本人の美徳とも言えますが『心筋梗塞』や『急性大動脈解離』といった心血管系の救急疾患にとってはまさに命取りになりかねません。本日の放送をお聞きのリスナーの方への私からのTake home messageは『心筋梗塞』の場合は発症から循環器専門病院までできるだけ早く到着することが、心筋梗塞の壊死範囲を小さくし、予後の改善ばかりでなく、その後の生活の質を落とさないためにたいへん重要であるです。

吉田早苗さん:この続き『心筋梗塞』の治療は2021年1月14日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。