『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第48弾~

2022年6月9日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 今年11回目の放送です。

本地洋一さん:本日のテーマは『胸の痛み』を主症状とする循環器疾患の第2弾として『大動脈解離』について松尾先生にお話を伺います。

松尾仁司院長:前回の放送では、『胸の痛み』を主症状とする循環器疾患の一つとして、『急性心筋梗塞』があるというお話しをしました。

『大動脈解離』という病気も我々循環器救急の現場では、見逃してはいけない病気の一つです。

大動脈は、構造的には大動脈は3層になっていて、いちばん外側を外膜、真ん中を中膜、いちばん内側を内膜と言います。本来ゴムチューブのように柔らかくて弾力がある血管なのですが、年を取るにつれて徐々に硬くなってきます。この場合の硬いとは決して強い硬さではなく、血管の老化にとともに、弾力を失い脆くなった状態とイメージしてください。

『大動脈解離』とは、大動脈内膜に生じた小さな亀裂から血液が血管壁内(中膜)に流入し、外層と内層に壁が剥離した状態が生じた状態です。つまり、大動脈の中膜に裂けめが出来てそこから末梢に向けてメリメリと血管が裂けてしまう病気です。

本地洋一さん:血管が裂けるとは、一般の方にはなかなかわかりにくい表現なのですが、もう少しわかりやすくお話し願えますでしょうか?

松尾仁司院長:さきほど、内膜に裂け目ができると言いましたが、血流が本来の血管内ではなく、外膜と内膜の間の中膜を中枢から末梢に向かって血流が入り込んで偽腔を形成します。偽腔の外側は薄い外膜一枚となりますので、高い血圧で力がかかると、血管が破れて血液が体内にあふれ出すことがあります。これが急性の大動脈破裂といい、さらに救命が困難な状態に陥ってしまいます。

また、裂け目がどんどん末梢に広がると本来血液が流れる血管の内腔である『真腔』が解離によってできた『偽腔』の拡大によって圧排されてしまいますので、『真腔』を流れる血流が悪くなり、腹部の臓器や下肢、時には脳が血行障害による虚血に陥ることもあります。

『大動脈解離』は非常に致命的な病気で、発症から2日以内に50%以上の方がお亡くなりになると言われているため、一刻も早く病院を受診する必要がある疾患です。

本地洋一さん:症状としてはやはり、『胸の痛み』を主症状とするのでしょうか?

松尾仁司院長:症状としては、経験したことのないような激烈な胸の痛み、背部痛から腰痛で、『大動脈解離』の痛み方の特徴は、大動脈が上から下つまり、胸から背中、お腹に向かって裂けていくにつれて、大動脈に沿って痛みが抹消に向かって移動していきます。

本地洋一さん:リスナーの方がご自分で出来る痛みの見分け方なんかあれば、お教えください。

 

 

松尾仁司院長:痛みの感じ方は人それぞれで、症状だけで正しく診断することは出来ません。

あくまでも一般論ですが、『大動脈解離』『急性心筋梗塞』のような命に関わるような恐ろしい病気に特徴的な痛みには特徴があることが知られています。

例えば胸全体が締め付けられるような痛み、やけ火箸で胸を刺されたような痛み、冷や汗を伴うような激烈な痛みなどは、危険な病気であることが多いです。

一方で痛む場所が指で示すことが出来るほど限局されている場合や、チクチクするような痛みや一瞬のズキンとした痛みの場合は、どちらかというとさほど緊急性を要しない痛みであることのほうが多いと思います。

本地洋一さん:先ほど、『大動脈解離』は血管が老化して硬く、脆くなると起こると言われましたが、そこのところをもう少し詳しく教えてください。

松尾仁司院長:血管が硬くなることを動脈硬化と言います。また、血管に強い力が加わる原因は、高血圧にあります。つまり、大動脈に動脈硬化があり、高血圧症もある方は、『大動脈解離』のリスクが高いということになります。

一方で、マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群といった血管を構成する結合組織に遺伝的な異常がある場合は、比較的若く、動脈硬化や高血圧がない場合でも、大動脈瘤や大動脈解離を起こしやすいことが知られています。

本地洋一さん:『大動脈解離』の予防は、やはり血圧のコントロールということになるのでしょうか?

松尾仁司院長:おっしゃる通りです。『大動脈解離』の発症のピークは70~80歳代の男性に多く、また70%以上で高血圧を有していると言われています。

子供の大動脈は、脳や腕に行く血管を分岐した後は比較的直線的にお腹まで走行していますが、年をとると老化と動脈硬化により、徐々に蛇行することがあります。高血圧の方は、この蛇行が顕著になることが多いです。大動脈が蛇行すると、曲がり角により強い力がかかるので、『大動脈解離』が起こりやすくなります。

我々医師が、高血圧症の方に血圧コントロールをお勧めする理由は、『大動脈解離』のような恐ろしい循環器疾患の発症と高血圧が極めて高い因果関係を持つことが分かっているからなのです。

本地洋一さん:大雨の際に川も曲がりが強いところの堤防が、決壊しやすいというのと同じですね。

さて、『大動脈解離』の治療法はやはり、外科手術ということになるのでしょうか?

松尾仁司院長:『急性大動脈解離』は解離した部位によりStanford A型と Stanford B型に分類されます。大動脈の根元から脳への血管が分岐するまでの「上行大動脈」に解離が及んでいるものがA型、及んでいないものがB型となります。上行大動脈は破裂しやすくまた、心臓周囲の出血や心筋梗塞の危険性がありますので、基本的にA型は緊急手術の対象となります。手術は大動脈瘤と同様に人工血管置換術を行います。救命のための手術であり、解離した大動脈全部を取り替えるわけではありません。

 

特に、非常にリスクの高い患者様には、当院では開胸しての人工血管置換とステントグラフトを併用することにより、何とか救命につなげるハイブリッド手術も行っております。

B型においては血流障害や破裂がない限り、血圧管理および安静確保による経過観察(降圧保存療法)を行います。

本地洋一さん:外科的治療にしても、お薬による降圧治療にしても、一刻も早く開始することが、救命につながるということですね。

松尾仁司院長:命に関わる循環器疾患の代表的な病気ですし、激烈な背部痛や胸部痛を主症状としています。したがって、お話ししたような症状がある場合は一刻も早く救急車で外科手術ができる病院に搬送していただくことが大切です。

最近はドクターヘリや防災ヘリでの患者搬送が可能となったため、かなり遠くから来院され、緊急手術によって一命をとりとめる症例もあります。

『急性大動脈解離』などの、緊急を要する循環器疾患の救命においては、時間というのは大変重要な因子です。

本地洋一さん:急性の循環器疾患においては『患者さんの意識』、『搬送時間』、『受け入れた施設の体制』のすべてがそろって救命につながるということですね。

松尾仁司院長:救急隊の方々と我々のような救急医療に携わる施設のスタッフ皆が力を合わせてはじめて一人の患者さんを救うことが出来るのだと思います。

吉田早苗さん:ありがとうございました。また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などがございましたら、番組までドシドシとお寄せください。

次回のハート相談所は2022年6月23(木) 14:30からの放送になります。