『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第55弾~

2022年9月22日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 今年17回目の放送です。

今回の放送のテーマは『糖尿病』についてです。

本地洋一さん:『糖尿病』はよく耳にする病気ですよね!

リスナーの皆さんやその周りにも『糖尿病』の方は何人かおられるのではないでしょうか?

吉田早苗さん:確かにラジオをお聞きの方からも“血糖値が・・・”といったお便りをいただくことがあります。

『糖尿病とは』

松尾仁司院長:まずは『糖尿病』からお話ししましょう。皆さんは、『血糖値』という言葉を聞いたことがあると思います。これは血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を表す言葉です。食事の際にご飯やパン、麺類を食べると思いますが、これら炭水化物は、体の中で消化吸収されて、ブドウ糖(グルコース)になり、血液中に入って人が生きていくためのエネルギーになっていきます。したがって人はエネルギーを消費すると、『血糖値』が下がり空腹や疲労を感じます。食事で炭水化物を摂取すると、『血糖値』は上がり再び仕事や勉強をするための活力が生まれます。

健康な人の場合はこの血糖値はホルモンによって上がりすぎたり下がりすぎたりしないようにコントロールされています。下がりすぎた『血糖値』を上げるためのホルモンはいくつかあるのですが、上がりすぎた『血糖値』を下げるためのホルモンは膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるインスリン1種類だけです。

『糖尿病』とは、このβ細胞の働きが悪くなってインスリンの分泌量が少なってしまったたり、インスリンがうまく働かなくてグルコースが脳や筋肉などの臓器にうまくとりこめなくなって『血糖値』が常に高い状態になる病気です。

特に日本人は『糖尿病』になりやすい体質であることがわかってきました。厚生労働省が2016年に実施した国民栄養調査では“『糖尿病』が強く疑われる人”は約1000万人以上になります。これは2012年より50万人、2002年より260万人増加しています。糖尿病予備群といわれる1000万人と合わせると2000万人で日本人の6人に一人は糖尿病、もしくは糖尿病予備群となっています。

本地洋一さん:歴史的に見ても人類は昔から『糖尿病』に悩まされているのでしょうか?

松尾仁司院長:歴史的に見るとなるとすごくスケールの大きな話になりますが、

人類が誕生したのは、およそ500万年前のアフリカといわれています。 その後、人類は、猿人(約500万年前に出現:アウストラロピテクス)・原人(約180万年前に出現:ホモ=エレクトゥス)・旧人(約20万年前に出現:ネアンデルタール人)・新人(約4万年前に出現:クロマニョン人など)の順に進化してきました。

人類が農耕を開始したのは1万3千年前で、それまでの約499万年間人類は米やパンなどを食べることなく、木の実を食べるか狩猟によって得た肉や魚を食べていたことになります。

つまり、人類が糖質を食事でとるようになったのは人類の歴史500万年のうち1万3千年程度といえます。

本地洋一さん:つまり、農耕によってコメやパン、パスタなどの炭水化物つまり糖質を食べられるようになる前は、人類は常に飢えていたということですね!

松尾仁司院長:農耕によって人類は飢餓を克服する一方で急速に飽食の社会を作り上げてきました。その結果、狩猟生活を送っていたころには考えられなかった『糖尿病』という病に悩まされることになりました。

『血糖を低下させるからだの仕組みは脆弱』

飢餓から守るために、血糖を上げる作用は体の中にはたくさんあります。脳下垂体からでる成長ホルモン、副腎皮質から産生される副腎皮質ホルモン(コルチゾール・アルドステロン)、副腎髄質ホルモン(カテコールアミン)、甲状腺ホルモン、すい臓や腸管から分泌されるグルカゴン、ソマトスタチンなどがあります。 これらのホルモンが必要以上にたくさん分泌されると血糖値が上昇します。一方、高血糖の際に血糖を低下させるホルモンはインスリンしかありません。

つまり人類の身体は飢餓による低血糖に対応する仕組みに比べると、糖質の過剰摂取による高血糖に対応する仕組みが脆弱と言えます。

本地洋一さん:インスリン以外にも血糖を下げる仕組みがあれば、ご飯やパンを食べすぎてもすい臓から分泌されるインスリンが枯渇することはないということですね。

ところで、『糖尿病』の診断基準も教えてください。

『糖尿病の診断基準』

松尾仁司院長:高い血糖値が続いていれば、糖尿病と診断します。

具体的には、血液検査でわかる血糖値とHbA1c(ヘモグロビン・エーワンジー)が基準値より高いかどうかで判断します。

・血糖値:検査したその時の、血糖の濃度

⇨空腹時血糖値(10時間以上絶食後の、早朝空腹時の血糖値)が126mg/dl以上

・HbA1c:過去1-2か月分の血糖値のあらましを反映

⇨6.5%以上

上に示したうち、どれか1つでも満たした方は、糖尿病の疑い(糖尿病型)があります。

ただし、空腹時血糖が正常でも、食後血統が高い隠れた糖尿病もあります。隠れた糖尿病を発見するためには75g経口ブドウ糖負荷試験という詳しい検査を行います。

吉田早苗さん:リスナーさんからも、“私は血糖値が・・・”とか、“HbA1cが6.0mg/dlを超えた・・・”とかいうお話を聞くことがありますが、血糖値よりもどちらかといえばHbA1cの値に注意したほうが良いのでしょうか?

松尾仁司院長:血糖値というのは常に変動しています。それに対してHbA1cの値は過去1-2か月の血糖のあらましを反映した数値です。つまりHbA1cの値が6.7 mg/dlとか6.8mg/dlであったということは、この1-2か月の間高血糖の状態が続いていたと判断できるわけです。

一方、食事で炭水化物を取りますと『血糖値』は一時的に急上昇します。これをグルコーススパイクというのですが、健常な人の場合このグルコーススパイクによる『血糖値』の急上昇をインスリンが抑え込む働きをしているのですが、『糖尿病』の患者さんはグルコーススパイクによる『血糖値』の急上昇を抑えることが出来ないため、内皮細胞の障害が起きやすくなってしまうのです。

本地洋一さん:『糖尿病』とは血糖値が常に高い状態ということですが、この状態が続くといろいろな病気を引き起こすと言われていますが、我々にとってどのような悪いことが起こるのでしょうか?  

松尾仁司院長:細胞に入るとエネルギー源として役に立つブドウ糖ですが、血液の中では、血管を破壊して動脈硬化を起こすようになります。特に脳や心臓の血管が被害を受けやすく、脳卒中や心筋梗塞の原因となります。

『糖尿病の合併症』

『糖尿病』は恐ろしい合併症を起こしてきます。最小血管合併症として腎症、網膜症、神経障害、が3大合併症としてしられています。糖尿病性網膜症は成人後の失明原因の20%をしめており、トップです。また腎不全で透析される患者様の40%が糖尿病であることがしられています。

その他にも動脈硬化の最も重要な危険因子のひとつの糖尿病は、狭心症、心筋梗塞などの心臓病、脳梗塞や脳出血などの脳卒中が起こりやすいことが知られています。

さきほど、グルコーススパイクが血管内皮細胞に障害を起こすと言いましたが、この状態が何年も続くと内皮細胞機能がどんどん低下してしまい、それに伴って動脈硬化がどんどん進行してしまいます。

また下肢閉塞性動脈硬化症といわれる足の動脈硬化から歩行困難になったり、下肢壊疽になるなど、重症化することが知られています。また高血糖は免疫機能の低下を起こすため、感染症にかかりやすくなります。また神経障害が合併するため、痛みが感じにくく、症状の出現が重症化してはじめて発見されることが少なくなりません。

本地洋一さん:『糖尿病』とは脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる危険な病気にかかりやすいうえに、失明や腎不全になるおそれもあり、さらに神経障害によって自覚症状が少ないために、病気の進行に気が付かない場合が多いということですね!

松尾仁司院長:リスナーの皆様の中にも自分は病気とは無縁だとお考えの方もおられるかもしれませんが、『糖尿病』とは特に症状もなく徐々に全身をむしばんでいくシロアリのような病気です。

早期発見、早期治療が大変大切ですので健康診断はきちんと受けることを強くお勧めいたします。

本地洋一さん:私もHbA1cの値が6.0mg/dl台に入っているので、気を付けなければと思っています。『糖尿病』の予防と治療については、次回の放送で詳しくお聞きしたいと思います。

吉田早苗さん:ありがとうございました。また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などがございましたら、番組までドシドシとお寄せください。