『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第116弾~
2025年3月27日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 令和7年6回目の放送です。
本地洋一さん: 3月も残すところあと4日となりました。
今週はずいぶん暖かくなって、桜の開花もはじまったみたいですね。
この季節は、寒暖差も大きいとともに卒業や転勤などで生活環境が大きく変わる方もたくさんお見えになるのではないでしょうか。
何となくですが、別れや出会い、新しい環境での新生活など、環境に大きな変化があることによる精神的なストレスで体調を崩すという話をわりと聞くような気がします。

そこで、今回の放送のテーマは『メンタルストレスと心臓病』ということで、松尾院長にお話をお聞きしたいと思います。
松尾仁司院長:住み慣れた環境から新しい場所に移って学生生活を始めたり、慣れない新しい職場でお仕事をはじめたりするといった急激な環境の変化は『メンタルストレス』がかかりやすいといえます。
ところで本地さん、ストレスってどのような状態でしょうか?
本地洋一さん:何となくですが、負荷がかかった状態のことを我々はストレスといっているような気がします。
『メンタルストレスとは心にひずみがある状態です』
松尾仁司院長:もともと、ストレスは「物のひずみ」を表す物理学の用語ですが、私たちの生活の中でストレスという場合は、心や体がなんらかの原因で、ゆがんで変化している状態を表します。
精神的なストレスのことを『メンタルストレス』と言い、これは心にひずみがある状態になってしまっていると考えられます。
心は英訳するとHeart(ハート)です。また英語のHeart(ハート)は心臓と訳すこともできます。このことからも、心(精神活動)と心臓は密接な関係にあることが類推出来ます。
リスナーの皆様は自律神経という言葉を聞いたことがあると思います。これは内臓の働きや代謝、体温などを調整する働きをもち、皆さんの意思とは関係なく24時間、365日働き続けています。また、アクセルの働きをする交感神経とブレーキの働きをする副交感神経の2種類があります。
人はストレスを感じると自律神経のバランスが崩れて交感神経が緊張し、優位に働きます。
つまり、ストレスが多い方は、心臓にとっては脈拍が速くなったり、血圧が高くなった状態が長く続くことになります。
一方、副交感神経が優位に働けば、血圧が下がり心拍数は減少。瞳孔が収縮し、心と体が休んでいる状態になります。

『メンタルストレスは循環器疾患の原因となります』
松尾仁司院長:『メンタルストレス』による交感神経の緊張状態が長く続くことは、心筋梗塞や脳卒中等をはじめ様々な病気とリンクすることが知られています。
交感神経の緊張状態が続くと血圧が上昇し、血管そのものに機械的なストレスがかかり続けることになり、脳や心臓、大動脈などの動脈硬化を悪化させたり、粥腫の破綻、動脈の解離や破裂を起こしやすくなります。
つまり、『メンタルストレス』は脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を悪化させる原因となるということです。
心筋梗塞でいうと『メンタルストレス』を抱えている方は『メンタルストレス』がない人に比べて心筋梗塞の発生率が約1.55倍高いという研究結果が出ています。
また、以前にお話したことのある『たこつぼ型心筋症』という病気も『ストレス』が誘発するといわれています。
『たこつぼ心筋症』の典型的な臨床症状は、ストレスが誘発する二次性の心筋症と言われていて、強い精神的や肉体的ストレスの後に胸痛や動悸、呼吸困難、吐き気といった心筋梗塞とよく似た症状で発症します。『たこつぼ心筋症』になると左心室の先のほう(心尖部)を中心とした領域の収縮異常をきたし動かなくなり、左室の出口近く(基部)のみが収縮するのが特徴で、左心室の収縮末期像が『たこつぼ』に似ていることから『たこつぼ心筋症』と命名されました。
強い精神的ストレスとは、例えばご家族が亡くなったとか、阪神淡路大震災や東日本大震災に被災したとかいう場合などです。また肉体的ストレスとは、外科手術がきっかけでこの病気が発症することがあるという報告もあります。
『自然災害と心臓病』
日本は地震大国と言われており、自然災害によるメンタルストレスと心臓病の関係も研究されています。
今年のお正月に発生した能登半島地震では、まだ多くの方が避難生活を送られています。過去の震災を振り返りますと、2004年に発生した新潟中越地震では地震発生直後1週間の心筋梗塞や不安定狭心症は地震発生前の約2倍となり、地震直前1か月の『たこつぼ心筋症』の発生は1例であったのに対し、発生直後の1か月では25例のたこつぼ型心筋症が発生したと報告されています。
このように、『メンタルストレス』と心臓病には非常に強い関連があることが広く知られています。

『心臓病とうつ病の関係』
逆に心臓病が引き起こす心の病気についても近年は注目されています。
心臓の病気にかかった時、病そのものの苦しみや痛みに加え、家族や仕事のこと、将来のことなど、多かれ少なかれ悩んでしまうものです。多くは病気の回復につれて精神的にも立ち直ることが出来るのですが、一部の患者様は治療のめどか付いた後も「抑うつ状態」が続くことがあり、本物の「うつ病」に陥る患者様もお見えになります。
心血管疾患と抑うつの関係は数十年前から報告されています。
心筋梗塞後の患者様の45%は3~4か月後に抑うつ状態を新規に発症し、うち18%は大うつ病であり、ほとんどは数か月間社会復帰できなかったとの報告もあります。
本地洋一さん: なるほど、そうしますと、心臓病というのは体の中の異変だけで起こるのではなく、『自然災害による強いメンタルストレス』が誘因で発症することがあるということですね。
さらに、心筋梗塞の患者さまの半数近くが抑うつ状態になるというお話しにも驚きました。大きな自然災害の他にも、我々は常に何らかの『メンタルストレス』にさらされていると思いますが、ストレスの度合いがもう少し小さな場合でも心臓病の引き金となることはあるのでしょうか?
『メンタルストレスをが原因で心臓病のような症状訴える患者様』
松尾仁司院長: 岐阜ハートセンターには、毎日たくさんの患者様が様々な胸の症状を訴えて来院されます。もちろん多くの患者様の症状は心筋梗塞や狭心症、不整脈、心臓弁膜症といった心臓自体の病気による症状であることが多いのですが、中には『メンタルストレス』に対する対応が上手くいかなくて胸の痛みや動悸、息切れといった症状を感じて来院される方も少なからずお見えになります。
本地洋一さん: 純粋な心臓病はないにもかかわらず心臓病のような症状を訴える患者様が一定数おられるということですか?
松尾仁司院長: 先ほど『メンタルストレス』を抱えている方は『メンタルストレス』がない人に比べて心臓病を発症しやすいといいましたが、心臓病のような症状を訴える患者様の中には様々な検査をしても症状の原因となりうる病気がなく、よくよくお話を聞いてみるとそれらの症状は『メンタルストレス』に対する対応が上手くいかなくて感じておられる場合があります。
本地洋一さん: そのような患者様に対して松尾院長はどのような対応をされるのでしょうか?
松尾仁司院長: 患者様自体は、実際に胸の症状で苦しんでおられるので、ご自分が悪い心臓病ではないかと不安を感じて来院されています。いろいろ検査をしてその結果心臓病ではないと判明した場合、恐ろしい心臓病でなかったことを丁寧に説明すると多くの患者は安心され、胸の症状を感じなくなります。しかしながら『メンタルストレス』に対する対応が上手くいかなくて胸の症状を感じていると判断した場合は、その『メンタルストレス』に対する対応を患者様と一緒に考えていくことも外来診察での大切な仕事だと思っています。
吉田早苗さん: 『メンタルストレス』による体調の悪化に季節的な関係はあるのですか?
松尾仁司院長: 冒頭で、春は生活環境が大きく変わるため、『メンタルストレス』による体調の悪化を訴える方が多いとのことでした。確かに春は別れと出会い、進学や就職などで生活環境が大きく変化します。しかしながら現代では、体調不良の引き金となるような『メンタルストレス』は1年を通じてそこいら中にあると思いますよ。
本地洋一さん: 最後に胸の症状の中で特に気を付けるべき症状とそうでない症状の見分け方があればアドバイスしてください。
松尾仁司院長: 胸の痛みに対して我々医師がどのように考えているかといいますと、一口に胸の痛みと言っても、“ズキンとする”、“グーッと締め付けられる”、“胸がモヤモヤする”、“なんとなく変な感じがする”など患者様によってその表現の仕方は様々です。
極めて緊急性が高い症状がある反面、さほど重症ではないと考える症状もあります。
たとえば、症状の持続時間が極めて短い“ズキンとした痛み”、あるいは痛みの部位が1本の指で指させるような極めて痛む範囲が狭く限局している場合や、押さえると痛いという場合は心臓をはじめとした内臓由来の痛みというよりも、筋骨格系の痛み可能性が高いと思います。
一方で、胸の症状が、運動時に感じるけれどしばらく休むと良くなる方、精神的緊張すると感じるけれど、リラックスすると症状が改善する方、また、高齢、肥満、喫煙、糖尿病、高血圧症、高コレステロール血症などの循環器疾患にかかりやすいリスクをお持ちの方は、胸の症状を感じられたら病院で一度相談していただくことをお勧めいたします。
今まで経験したことがないほどの強い痛み、冷や汗を伴い長時間持続する痛み、時間とともに胸から背中、腰へと移動するような痛みは要注意ですので直ちに救急車を呼んでください。

吉田早苗さん:この4月から本地洋一のハート相談所の放送日が少し変更されます。今までは毎月第2と第4の木曜日に生放送していましたが、次回からは第3と第4木曜日の変更となります。
本地洋一さん:月2回の放送は変わりませんが、第4木曜日が第3木曜日に変更されるということですね!
吉田早苗さん: そのとおりです。したがいまして2025年4月17日(木)のこの時間にお送りいたします。よろしくお願いします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。