『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第93弾~

2024年4月11日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 令和6年7回目の放送です。

今回の放送のテーマは『ストレスと心臓病』です。

本地洋一さん:ストレスは心臓病に影響を及ぼすのでしょうか?

まずは、ストレスと心臓病の関係を松尾院長にお答えいただきたいと思います。

『メンタルストレスとは心にひずみがある状態です』

松尾仁司院長:もともと、ストレスは「物のひずみ」を表す物理学の用語ですが、私たちの生活の中でストレスという場合は、心や体がなんらかの原因で、ゆがんで変化している状態を表します。

精神的なストレスのことを『メンタルストレス』と言い、これは心にひずみがある状態になってしまっていると考えられます。

心は英訳するとHeart(ハート)です。また英語のHeart(ハート)は心臓と訳すこともできます。このことからも、心(精神活動)と心臓は密接な関係にあることが類推出来ます。

リスナーの皆様は自律神経という言葉を聞いたことがあると思います。これは内臓の働きや代謝、体温などを調整する働きをもち、皆さんの意思とは関係なく24時間、365日働き続けています。また、アクセルの働きをする交感神経とブレーキの働きをする副交感神の2種類があります。

人はストレスを感じると自律神経のバランスが崩れて交感神経が緊張し、優位に働きます。

つまり、ストレスが多い方は、心臓にとっては脈拍が速くなったり、血圧が高くなった状態が長く続くことになります。

一方、副交感神経が優位に働けば、血圧が下がり心拍数は減少。瞳孔が収縮し、心と体が休んでいる状態になります。

本地洋一さん:なるほど、それでは『メンタルストレス』により交感神経が優位となることと、心臓病とどのような関係にあるのでしょうか?

 

『メンタルストレスは循環器疾患の原因となります』

松尾仁司院長:『メンタルストレス』による交感神経の緊張状態が長く続くことは、心筋梗塞や脳卒中等をはじめ様々な病気とリンクすることが知られています。

交感神経の緊張状態が続くと血圧が上昇し、血管そのものに機械的なストレスがかかり続けることになり、脳や心臓、大動脈などの動脈硬化を悪化させたり、粥腫の破綻、動脈の解離や破裂を起こしやすくなります。

つまり、『メンタルストレス』は脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患を悪化させる原因となるということです。

心筋梗塞でいうと『メンタルストレス』を抱えている方は『メンタルストレス』がない人に比べて心筋梗塞の発生率が約1.55倍高いという研究結果が出ています。

また、以前にお話したことのある『たこつぼ型心筋症』という病気も『ストレス』が誘発するといわれていて、例えばご家族が亡くなったとか、阪神淡路大震災や東日本大震災に被災したとかいう場合など、外科手術がきっかけでこの病気が発症することがあるという報告もあります。

 

『自然災害と心臓病』

日本は地震大国と言われており、自然災害によるメンタルストレスと心臓病の関係も研究されています。

今年のお正月に発生した能登半島地震では、まだ多くの方が避難生活を送られています。過去の震災を振り返りますと、2004年に発生した新潟中越地震では地震発生直後1週間の心筋梗塞や不安定狭心症は地震発生前の約2倍となり、地震直前1か月のたこつぼ型心筋症の発生は1例であったのに対し、発生直後の1か月では25例のたこつぼ型心筋症が発生したと報告されています。

このように、『メンタルストレス』と心臓病には非常に強い関連があることが広く知られています。

 

『心臓病とうつ病の関係』

逆に心臓病が引き起こす心の病気についても近年は注目されています。

心臓の病気にかかった時、病そのものの苦しみや痛みに加え、家族や仕事のこと、将来のことなど、多かれ少なかれ悩んでしまうものです。多くは病気の回復につれて精神的にも立ち直ることが出来るのですが、一部の患者様は治療のめどか付いた後も「抑うつ状態」が続くことがあり、本物の「うつ病」に陥る患者様もお見えになります。

心血管疾患と抑うつの関係は数十年前から報告されています。

心筋梗塞後の患者様の45%は3~4か月後に抑うつ状態を新規に発症し、うち18%は大うつ病であり、ほとんどは数か月間社会復帰できなかったとの報告もあります。

本地洋一さん:なるほど、そうしますと、心臓病というのは体の中の異変だけで起こるのではなく、『自然災害による強いメンタルストレス』が誘因で発症することがあるということですね。

さらに、心筋梗塞の患者さまの半数近くが抑うつ状態になるというお話しにも驚きました。大きな自然災害の他にも、我々は常に何らかの『メンタルストレス』にさらされていると思いますが、ストレスの度合いがもう少し小さな場合でも心臓病の引き金となることはあるのでしょうか?また、自分たちでできるストレス対策などがあればお教えください。

『メンタルストレスを解消するのによい方法が運動です』

松尾仁司院長: たこつぼ型心筋症の場合は、大切なご家族が亡くなった場合の精神的ショックや、恋人と別れることになった場合の強い悲しみが引き金で発症することもあります。

現代社会で生活していくうえで『メンタルストレス』を完全に取り除くことは不可能です。

それよりも、『メンタルストレス』とうまく付き合っていくことが大切なのではないでしょうか?

心臓病とメンタルストレスは深くリンクしています。ストレスが心臓病の引き金になり、また心臓病がストレスとなり心の病を引き起こすこともあります。その悪循環を起こしてしまうことが病気をさらに悪化させることにつながりますので、その悪循環を断ち切る必要があるわけです。

よく、ストレス発散というワードを耳にしますが、没頭できる趣味などはその代表だと思います。また運動で身体を動かすこともストレスを発散するのに効果があることが分かっています。

岐阜ハートセンターは、循環器の専門病院ですから、心大血管リハビリテーションの一環として運動処方をしています。当院の心臓リハビリテーションに通院している患者様に対し抑うつ状態の調査を行うと、実に4人に1人が“抑うつ”ないし“抑うつ疑い”と判断されます。我々の経験では突然心筋梗塞になった、50-60歳代の男性にこの傾向が高いのではないかと感じています。比較的体力のある人でも、退院後完全に体調が戻るまでに数週間かかることがあります。周囲を見れば、会社や社会で活躍する同僚たちが沢山います。そんな中で、バリバリと働いてきた人ほど焦りを感じて、自信を無くしてしまうようです。とはいえ、適切な運動処方による心大血管リハビリテーションは、心臓の機能回復や手足の筋肉の活性化による全身状態の改善ばかりでなく、糖尿病、高血圧症、脂質異常症といった心臓病の危険因子の改善にも効果があります。

さらに、徐々に運動量や運動強度が上がってくることを患者様ご自身が自覚出来ます。これにより、病気であることが患者様に与える『メンタルストレス』を軽減させていきます。

私がリハビリ室を訪れるたびに思うことは、リハビリ中の患者様の多くが非常にリラックスしていい表情で運動されているということです。

適度な運動が肉体的精神的健康を維持するために重要であることは、リスナーの皆様もお分かりだと思いますが『メンタルストレス』を軽減し精神面の健康を維持するためにも、適度な運動を習慣づけることは非常に効果があることです。

吉田早苗さん:ありがとうございました。また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などがございましたら、番組までドシドシとお寄せください。

次回のハート相談所は2024年4月18日(木)14:30からの放送になります。