『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第97弾~
2024年6月14日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第97回目の放送です。
今回の放送のテーマは『心臓弁膜症』です。
本地洋一さん: 『心臓弁膜症』とはいったいどのような病気なのでしょうか?
松尾院長: 『心臓弁膜症』は、最近テレビでタレントさんが少し動くと息切れしてしまう症状は『心臓弁膜症』かも?というCMが流れているので、聞かれたことがある方も多いと思います。
心臓には4つの部屋と4つの弁があります
みなさん心臓は全身に血液を送り出すポンプの働きをしていることはご存じだと思います。
全身から静脈を通って心臓に戻ってきた血液(静脈血)は右心房から右心室を経て肺へ送り出されます。肺で血液は二酸化炭素を放出し、酸素を取り込み再び心臓に戻ります。肺から心臓に戻った血液(動脈血)は左心房から左心室を経て大動脈に拍出され全身に動脈血が届けられます。
つまり、血液は一方通行で流れているということです。
この心臓のポンプ機能が効率よく、適切に働くために右心室と左心室の入り口と出口に合計4つの心臓弁(右心室の入口に三尖弁、出口に肺動脈弁があり、左心室には入口に僧帽弁、出口に大動脈弁)があります。
心臓は1日に約10万回収縮と拡張を繰り返しますので心臓弁も10万回開閉を繰り返しているわけです。つまり1年で3,600万回以上も働いているわけですから年齢を重ねると徐々に劣化してくるわけです。
これらの弁が、加齢や何らかの感染などでうまく働かなくなる病気が『心臓弁膜症』です。
統計的には65歳~75歳の方の20人に1人が、75歳以上の方の10人に1人が『心臓弁膜症』と言われています。
中でも左心室の入り口にある僧帽弁と左心室の出口にある大動脈弁に高頻度で障害が起こりやすいことが知られています。
本地洋一さん: 1年で3,600万回も開閉を繰り返している心臓弁は非常に過酷な状況で働く必要があると思うのですが、いったいどのような組織で構成されているのでしょうか?
松尾院長: 大変良い質問ですね!正常な状態の心臓弁は非常に薄く、コラーゲン繊維、エラスチン繊維、心内膜、結合組織で構成され、これらの成分が組み合わされることで、心臓弁は高い耐久性と柔軟性を持ち、心臓のポンプ機能をサポートすることが出来るわけです。
本地洋一さん: 『心臓弁膜症』の原因にはどのようなことがあげられるのでしょうか?
松尾院長: 大きく分けると先天性の原因の後天性の原因があります。
先天性の場合は、生まれつきの弁の構造異常で代表的なものに二尖大動脈弁があります。
後天性の原因としては、加齢、リウマチ熱、感染性心内膜炎、心筋梗塞による乳頭筋や腱索断裂、自己免疫疾患などがあります。
本地洋一さん: 『心臓弁膜症』によって心臓のポンプ機能が低下するとどのような症状が出るのでしょうか?
心臓弁膜症の症状は、動悸・息切れ・胸痛・意識消失などがあります
松尾院長:心臓という臓器はもともと予備力を持った臓器です。そのため『心臓弁膜症』も初期のうちはこの予備能力の範疇であり、自覚症状が現れないことがあります。また、普段の活動性が低い方は、『心臓弁膜症』がかなり進行しないと息切れなどの自覚症状を感じない場合もあります。ただ、いくら予備力の範疇とはいえ弁の機能は低下していますから、安静時でも心臓は頑張って仕事をしないと全身に血液を送り出せない、つまり予備能力が低下した状態になっています。したがって自覚症状としては少しの運動でもすぐに息切れが起こったり、重症の場合には意識を失ったりする場合もあります。
本地洋一さん: なるほど、『心臓弁膜症』によって引き起こされる動悸や息切れなどの症状は、病気がかなり悪化してから出てくる症状だということですね。
松尾院長: 健康診断をしている場合は、聴診などで『心臓弁膜症』が重症化する前に病気を見つけることが出来るため、やはり定期的な検診を受けることをお勧めします。
本地洋一さん: 『心臓弁膜症』の治療にはどのようなものがあるのでしょうか?
松尾院長: 『心臓弁膜症』心臓弁そのものが障害されてしまった場合、お薬では弁自体を治すことが出来ません。
したがって、『心臓弁膜症』の治療は従来外科的に開胸し、壊れた心臓弁を人工弁に取り換える手術が主流でしたが、近年はカテーテルを使用した低侵襲な『心臓弁膜症』治療が可能になってきています。
近年低侵襲な弁膜症治療が発達してきています
松尾院長: 20年ほど前までは、『心臓弁膜症』の治療と言えば、外科的に胸を開いて人工心肺につなぎ、心臓を一時的に停止した状態で劣化した弁を人工弁に取り換えるという大きな手術が主流でしたが、近年は、内科と外科の垣根を取り払ったハートチームと呼ばれる専門集団によってより低侵襲な治療が盛んにおこなわれるようになってきています。
代表的なものに大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)と僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的僧房弁クリップ術(MitraClip)があります。
大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁治療(TAVI)
TAVIは、重症の大動脈弁狭窄症に対し、カテーテルを使って人工弁を患者様の心臓に留置する治療法で、2002年にヨーロッパで始まり、日本では2013年に保険適用の対象になりました。
https://gifu-heart-center.jp/outpatient_tavi/
僧帽弁閉鎖不全症に対する経皮的僧房弁クリップ術(MitraClip)
マイトラクリップは2つのアームと呼ばれるもので弁の先端を洗濯バサミで挟むようにして摘まみます。これにより逆流量の減量を図る治療です。外科手術と異なり手術後の痛みや出血が少なく、体への負担を少なくすることが可能となりました。
https://gifu-heart-center.jp/medical_shd_team/mitraclip/
これらの治療法の出現により、今までは外科手術が困難であった超高齢で、フレイル(虚弱)の患者様に対しても開心しての外科手術のリスクを凌駕するような効果を得ることが出来るようになってきています。
本地洋一さん: 20年前は、胸を開き心臓を一時的に停止させて、人工心肺につないでの大掛かりな手術で歯科治療できなかったが、今では局所麻酔で、カテーテルを使っての患者様にとって負担の少ない治療が出来るようになってきたということですね!
松尾院長: もちろんん弁膜症の患者様のすべてにTAVI治療やMitraClip治療が出来るわけではありません。お薬によるコントロールのみの場合が良い患者様や外科的な開心術のほうがメリットが大きい患者様もお見えになります。ハートチームでは各分野の専門家が、その患者様に最も適した治療法が何かを十分に検討して治療選択をしています。
吉田早苗さん:ありがとうございました。次回のハート相談所は2024年6月27日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。