『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第99弾~
2024年7月11日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 第99回目の放送です。
本地洋一さん:前回の放送でリスナーのIWミーパーさんから心房細動のほっさで悩んでいますとの質問がありました。そこで今回の放送のテーマは『心房細動』です。
松尾先生、まず心房細動とはどんな病気なのでしょうか?
松尾仁司院長: 『心房細動』とは不整脈の一種です。
正常な心臓は、安静時には1分間に60回から80回程度の回数を規則正しく拍動しています。ところが不整脈というのはこの規則正しい心臓の拍動の乱れが生じた状態で脈がゆっくり打つ、速く打つ、または不規則に打つ状態を指し、脈が1分間に50以下の場合を徐脈、100以上の場合を頻脈といいます。
なかでも比較的頻度の高い不整脈に『心房細動』があります。
心房細動は加齢とともに頻度が高くなり、その有病率は60歳未満では約0.1~0.2%、60歳以上で約3~4%、80歳以上になると10~12%といわれています。
『心房細動』とは心房の電気刺激生成が400-600回/分と非常に速い状態です。心房が色々な所から刺激されて、秩序だった収縮が出来ず、痙攣を起こしている様な状態です。このようになると、心房波は一定の形を示さず、不規則な波となります。またすべての心房波が心室に伝導してしまうと、心室の拍数が速くなりすぎて、収縮および拡張障害が生じ、血液が有効に送り出せなくなります。
本地洋一さん: 心房細動という病名はしばしば聞くことがありますが、自覚症状としてはどのようなものがあるのでしょうか?
松尾仁司院長: 『心房細動の症状』としては、動悸、疲労感、息切れ、めまい、胸の痛みや圧迫感、不安感などがあります。しかし、症状が現れないことも多くあります。重要なのは、『心房細動』そのものは死亡の直接的な原因にはなりませんが、頻脈によりポンプ機能が低下した状態を放置すると心不全の原因となりますし、心臓の中に血栓といる血の塊ができて、その血栓が心臓を飛び出して脳の血管に詰まり、脳梗塞を引き起こす可能性があるということです。
心房細動がある人は、ない人に比べて心不全が約4倍、脳梗塞が約5倍起こりやすくなることがわかっています。
本地洋一さん: 『心房細動の治療』にはどのようなものがあるのでしょうか?
松尾仁司院長: 『心房細動の治療』としては、以下があげられます。
1. 薬物療法
治療の基本は薬物治療です。不整脈そのものを止めたり、症状を和らげたりする抗不整脈薬、脳梗塞を予防する抗凝固薬を使います。
2. 電気的除細動
電気ショックを与えて正常なリズムを回復させます。
3. カテーテルアブレーション
異常な電気信号を生成する部分を焼灼する手術です。
4. ペースメーカーの植込み
心臓のリズムを調整するための装置を埋め込みます。
5. 経カテーテル的左心耳閉鎖術
吉田早苗さん: 経カテーテル左心耳閉鎖術ですか?聞きなれないのでもう少し詳しく教えてください。
松尾仁司院長:左心耳は心臓を構成する4つの部屋の1つである左心房に付属している袋状の構造物です。1900年代前半までは注目されていなかった、この左心耳と呼ばれる構造物が広く知られるようになったのには理由があります。それは、不整脈があると脳梗塞の原因となる血の塊である「血栓」が左心耳で作られやすいことが発見されたためです。
この血栓がつくられる原因となる不整脈が『心房細動』です。『心房細動』は左心耳が付属している心臓の部屋(左心房)が小刻みに震えるため、血液の乱流ができて、血栓ができやすくなります。これが脳の血管まで飛んでゆくことで脳梗塞になります。
写真提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社
そのため、『心房細動』になると脳梗塞を予防するには「抗凝固薬」という血液をサラサラにするお薬を内服する必要がありました。
ワルファリンやリバーロキサバン(イグザレルト)、アピキサバン(エリキュース)、ダビガトラン(プラザキサ)、エドキサバン(リクシアナ)と呼ばれるものです。
しかし、これらの薬を内服する点で問題点が2つあります。
それは、
①高齢の患者様では半永久的に内服する可能性が高いこと
②血液をサラサラにするため、出血しやすくなること
の2つです。
『心房細動』に対しては脈を通常に戻す「カテーテルアブレーション」を行うことで「抗凝固薬」を中止できる可能性があります。しかし、年齢が75歳以上で高血圧、糖尿病のどちらか1つでも病気を有されている患者様は、一般的に「カテーテルアブレーション」後も脳梗塞を予防する目的で「抗凝固薬」を飲み続けることが推奨されております。
そのため常に問題点の②つ目である、出血を起こしてしまうリスクが付きまとうわけです。
特に御高齢の患者様は、皮膚や血管の構造が脆くなってくるため、命に関わる脳の出血、胃や腸からの出血が起こりやすくなります。また、ひどい皮膚の出血や鼻血が止まりにくいなどの命にかかわる可能性は高くなくても、生活の質を下げるようなことも起りやすくなります。
この問題を解決する治療が経カテーテル左心耳閉鎖術です。
足の静脈にカテーテルを入れて、専用の道具で左心耳に蓋をしてしまうという治療方法です。治療は全身麻酔で行いますが、足の付け根に管が1本入るだけの治療なので、管を抜いた後、治療後の痛みは全くと言ってよいほどありません。
写真提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社
治療時間は30分~60分で終わり、治療翌日から通常通り歩くことや、食事をとることが可能です。入院期間は3‐4泊です。
実際に治療をうけた患者様が「抗凝固薬」を中止できたことで、出血することがなくなり、貧血も改善することで、「より良い生活」が送れるようになったと喜ばれております。
本地洋一さん: 『心房細動』自体は直接死亡原因にはならないけれども、『心房細動』を治療することにより将来心不全や脳梗塞になることを予防するというわけですね!
吉田早苗さん: リスナーさんの中にも軽い脳梗塞を起こされた方がお見えになって、その方に心臓は見てもらいましたか?と聞くとやはりその方も心臓病が脳卒中の原因となり得るとは思っていないみたいで『なんで心臓?』という答えが返ってきましたよ。
松尾仁司院長: もちろん脳梗塞になった場合最初に受診するのは脳神経内科や脳神経外科なのですが、その原因がどこにあったのかを調べることも重要でして、日本の場合全脳梗塞のうち約20~30%は心原性脳梗塞であることが知られています。
今は人生100年時代と言われていますが、長く元気に怖い病気にならないようにするために心房細動をしっかりと治療することは大変重要だといえます。
吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2024年7月25日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。