『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第105弾~

2024年10月10日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 今年18回目の放送です。

本地洋一さん: 今日のテーマは『微小血管狭心症』です。

前回お話しいただいた狭心症という病名は我々もしばしば耳にすることがありますが、『微小血管狭心症』はあまり聞いたことがありません。いったいどのような病気で通常の狭心症とどこが違うのかを分かりやすく教えてください。

 

松尾仁司院長: 前回の放送のおさらいを少ししますと、典型的な狭心症の症状は、安静にしている時は無症状で、階段や坂道を上ったり、運動をした際に、胸の締め付け感や圧迫感といった不快感としてあらわれます。つまり身体が安静時よりたくさんの血液を必要とした際は、心臓は心拍数や血圧を上げてより多くの仕事をすることになりますので、心臓自体も多くの酸素が必要になります。

しかしながら、心臓を栄養している冠動脈に狭窄があると心臓に十分な酸素が行き渡らないので心臓が酸素不足になり胸部症状が出現するとお話ししました。

一般的な狭心症の場合は、冠動脈造影CT検査やカテーテルによる冠動脈造影をすることにより心臓の表在を走行する冠動脈の狭窄の有無や狭窄の程度を確認できます。

これに対して『微小血管狭心症』は、心臓の冠動脈自体には狭窄が見られないものの、より小さな血管(微小血管)が正常に機能しないことで、心臓に十分な酸素が行き渡らずに起こる病態です。

したがって冠動脈の検査(心臓カテーテルやCT検査)で異常が見つからないにもかかわらず、運動やストレスで胸痛が生じます。これは、心臓微小血管が収縮したり、微小血管自体が構造的に肥厚することにより血流が低下するためです。

 

本地洋一さん: 『微小血管狭心症』は診断が難しいということですね。

松尾仁司院長: おっしゃる通りです。通常の狭心症であれば、太い冠動脈のどこかに詰まりがあります。その部位や程度はCT検査や心臓カテーテル検査で目視され、診断につなげられていました。しかしながら、『微小血管狭心症』はその名のとおり毛細血管レベルで詰まっている狭心症のため、今までの検査法では確定診断することはできませんでした。

先日も胸痛で悩まされている50歳代の女性が来院されました。「運動するとどうも胸が苦しくなるようになって、運動ができなくなってきた。駅の階段を上るのにも苦しさを伴うようになってきて、ついにはその頻度も増して日常生活に支障をきたすようになってきた」、ということでした。

今まで、いくつかの病院を受診し冠動脈CT等の検査を受けましたが、何も異常は見つかりませんでした。最後には心臓カテーテル検査まで受けたものの、冠動脈の詰まりは見つからず「あなたの胸の症状心臓病ではない」といわれていたそうです。

症状についてのお話をうかがうと、この患者様の症状は典型的な労作性狭心症であることは間違いありません。そこで『微小血管狭心症』の可能性が考え、ご本人と相談し確定診断のための再度心臓カテーテル検査を行いました。

以前調べても異常がなかったのにまたやるのか?と思われるかもしれませんが、今回のカテーテル検査では特殊な方法を使いました。それが「微小血管狭心症」の確定診断をする微細なカテーテルを併用した診断法です。その微細なカテーテルを冠動脈に挿入して血管抵抗に関する数値を計測すると、明らかな異常値が検出され、その結果から『微小血管狭心症』の診断を得ることができました。その数値をもとに新たなお薬を開始して、あれほど悩まされていた胸の症状は現在まったくなくなり、今は適な日常生活を送られています。

今までは狭心症状があるにもかかわらず冠動脈狭窄が認められないに対しては、場合によっては、神経質で精神的な不安感からくる症状じゃないですか?などと説明されてしまう場合もありました。

しかしながら、近年では、微小循環の異常という概念が認識されてきており、心臓カテーテル検査の際に微小循環を評価することはガイドライン上も強く推奨されるようになってきました。

本地洋一さん: 『微小血管狭心症』と診断された場合はどのような治療法があるのでしょうか?

松尾仁司院長: 大変良い質問だと思います。前回の放送でもお話ししましたが、狭心症の治療としては薬物療法、カテーテル治療、冠動脈バイパス手術があります。血管径が2mm以上あるような比較的太い部分に狭窄や閉塞がある場合には、カテーテル治療や冠動脈バイパス手術が有効な場合が多いのですが、『微小血管狭心症』の場合は、血管径が非常に細いためカテーテル治療や冠動脈バイパス手術ができません。したがって薬物療法が第一選択となります。もう少し専門的なお話をしますと、微小循環障害にもいくつかの病態があります。一つは血管の攣縮(スパスム)によって血流障害が起こる場合、それとは別に微小血管自体の平滑筋の肥厚によって循環障害が起こる場合があります。前者の場合は血管を拡張させるようなお薬が有効となりますが、後者の場合はお薬では血管を拡張させることが困難であるため、心臓の筋肉の酸素需要を減らすようなお薬を使って治療します。

本地洋一さん: 『微小血管狭心症』の治療は、病態によって有効なお薬が異なるということですね!つまり病態を正しく評価することが大変重要ということでしょうか?

松尾仁司院長: おっしゃる通りです。きちんと病態を診断することにより使用するお薬が異なってきますので冠動脈の微小循環を正しく評価することは大変重要といえます。

本地洋一さん: 先生は毎日多くの患者さんの診察をされて見えますが、患者さんが訴える症状と検査の結果が一致されないこともしばしば経験されるのでしょうか?

松尾仁司院長: 患者さんは胸が苦しいといわれるけど、心電図やエコー検査、CT検査では原因が特定できないことはしばしば経験します。その場合どちらを優先するかというとやはり患者様の訴えを最優先にすべきだと考えます。

吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2024年10月24日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。