2025年11月27日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 の放送です。

今回の放送のテーマは『インフルエンザと心臓病』です。

本地洋一さん:インフルエンザ大流行中ということで、今日は「インフルエンザと心臓病」について伺っていきたいと思います。特にこれだけ流行っている中で、皆さんに気をつけていただきたいことやなぜ気をつけなければいけないのか、そのあたりのお話をしていただこうと思います。

松尾仁司院長:はい。多くの方がインフルエンザにかかったことある人が多いと思いますが、どんな症状が出るか知ってますか?

本地洋一さん:基本的には熱が出る、それから人によっては喉が痛いなど、いわゆる風邪と同じような症状が出ると思います。

松尾仁司院長:そうですね。症状だけで風邪とインフルエンザは、なかなか鑑別できないこともありますが、特徴としては38度以上の高熱が出ます。場合によっては40度を超えるような熱が出ます。あとは強い全身倦怠感ですね。それ以外にも筋肉痛や関節痛、頭痛などが特徴的と言えます。なぜこのような症状が起こるのかということなのですが、インフルエンザウィルスはどこから体の中に入るかご存じですか?

本地洋一さん:気道を鼻から喉に入って呼吸器に感染をしていくということでしょうか。

松尾仁司院長:はい。基本的には3つの経路しかありません。鼻と口と目になります。粘膜からインフルエンザウィルスが入ると言われていて、まず粘膜にウィルスがくっつくと、その粘膜からウィルスが細胞の中に入ります。なので、入り込んだところの症状というのが花であれば鼻水が出るとか、喉であれば喉が痛いなどの症状が出ます。その後どうなるかというと、ウイルスに対して体の中で防御反応が起こります。そうすると炎症性物質というのを人間の体は出します。それがぐるぐる全身を回って、そのために全身の倦怠感という症状が出ます。また、筋肉痛が何で起こるかというと、全身への炎症が波及していくことでウィルスそのものが悪さをしているというよりは、体の炎症反応が嵐みたいな状況になるので筋肉痛や関節痛などの症状が出るということが知られています。

 

本地洋一さん:ウィルスが粘膜から入ることによって、そのウィルスがいろんな作用をして、その中でも炎症の反応が体のだるさとか辛さを呼び起こしているということですね。

松尾仁司院長:そうですね。だから目や鼻や口のウィルスの侵入経路をブロックするということは重要になります。だから手洗いとかマスクというのは非常に重要だということが言われているわけです。皆さんご存じのようにコロナ感染というのがありましたね。コロナウィルスが流行した時は、「皆さん手を洗いましょう」とか「マスクをしましょう」ということが一時期は本当に徹底されてましたよね。あの時期というのはインフルエンザがほとんど流行しませんでした。今は少しコロナが落ち着いて、マスクなどの感染防御に関して意識が少し薄くなってきているので、そのためにまたインフルエンザも流行しているというような考え方もできるわけです。だからそういったことを考えると、基本的な感染防御のためのマスクや手洗い・うがいというのは、特に冬の間は意識して、皆さん気をつけていただければと思います。

 

今日のテーマはインフルエンザと心臓病というテーマですが、インフルエンザに感染すると肺炎になるということは皆さん知っておられると思います。しかし、心筋梗塞になるということはあまり聞いたことないかと思います。実はインフルエンザに感染する心筋梗塞とか心不全とかそういう病気も増えると言われているんです。

吉田早苗さん:ほう。

松尾仁司院長:ほうでしょ!?笑

吉田早苗さん:それってあんまりそういう注意喚起されないじゃないですか?

松尾仁司院長:もちろん、インフルエンザにかかった人がみんな心筋梗塞や心不全になるというわけではないですが、例えばインフルエンザ感染した後1週間ぐらいの間に心筋梗塞になるの危険性というのは約6倍から10倍増えるという疫学データもあります。これはなぜそのようなことが起こるかというと、先ほど言ったように全身に炎症反応が波及します。そうすると動脈硬化のプラーク(血管の中についているゴミ)が不安定になる、あるいは血液の固まりやすさ(凝固能)が亢進して血栓ができたりするということが知られていています。このメカニズムというのは、心筋梗塞発症のメカニズムとほぼ同一なんですね。また、血栓が全身の色んなところにできやすくなるので、例えば脳梗塞も増えるということになります。あと心臓というのは予備能力というものがあって、安静時の心臓機能を超えて運動などのストレスに対してどれくらい働くことができるかという能力です。ウィルス感染をして高い熱が出ることは、全身にとって心臓にとって大きなストレスになります。それに心臓が対応しないといけないのですが、もともと心臓の予備能力が落ちている人の場合は、心不全を発症しやすくなるということがあります。

私たちは心臓病の患者さんをたくさん診させていただいていますが、やはりインフルエンザをはじめ、色々なウィルスや細菌感染を契機に心不全が悪くなるという人がすごく多いんです。最も多いきっかけの一つが感染症とも言われています。

本地洋一さん:先生、炎症という言葉が出ましたけれど、血管なんかも炎症を起こすというふうに考えるんですか?

松尾仁司院長:そうですね。血管とかあるいは心臓の筋肉に直接炎症が波及することもあったりします。心筋炎という病気ですけど、これもインフルエンザウィルスは心筋炎の原因として5本の指に入るぐらいの頻度で心筋炎を起こすということが知られています。

本地洋一さん:これまさにインフルエンザに感染することによって、心筋を含めて直接作用することもあり、全身への炎症反応から心不全は悪化するということを考えると、やっぱりインフルエンザと心臓病というのは大きくつながりますね!?

松尾仁司院長:すごくリンクしていますよね。私たちはインフルエンザが流行する時期になるとワクチン接種をすると思いますが、このワクチン接種が心筋梗塞の発生を低下させることができるというようなデータもあります。色んなワクチンがありますが、心血管病の頻度が減りますというようなデータがあるのは、このインフルエンザワクチンだけだと言われています。

本地洋一さん:インフルエンザのワクチンが心臓病に対して非常に有効であると言っていいんですか?

松尾仁司院長:有効というか心臓の病気を治すというわけではなくて、インフルエンザに罹患しにくくなることは結果的に先ほど話したような感染による心臓へのストレスがかからずに済むということです。なので、高齢で心臓がちょっと悪いという人はインフルエンザワクチンを積極的に接種すべきだと思います。

医学の世界で出ている論文があるのですが、ワクチンを接種している人としていない人で心血管イベントを40〜50%抑制する効果があるという発表があります。

吉田早苗さん:じゃあ、ご家族の人達も高齢者の方と一緒に住んでいる方たちは、なるべくかからないように予防接種はした方がいいですね?

松尾仁司院長:そうですね。ご高齢の方に限らず小さいお子さんも予防接種をして、家族みんなでインフルエンザにかからないようにすることが大切ですね。

 

次回のハート相談所は2025年12月18日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。