『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第109弾~
2024年12月12日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 今年23回目の放送です。
本地洋一さん: 今日のテーマは『アルコールと心臓病』です。
これから年末年始にかけて忘年会やお正月休みなどでお酒を飲む機会も増えてくる方も多いと思います。皆さん飲み過ぎは身体に良くないことはご存じな反面、適度な量の飲酒は身体良いと思われている方も多いのではないでしょうか?
吉田早苗さん: 昔から昔から酒は百薬の長とも言われていますよね。また、赤ワインにはポリフェロールがたくさん含まれていて体に良いと聞いたことがあります。
松尾仁司院長: おっしゃるとおりで、適度の飲酒は循現器疾患に保護的に働くといわれています。一方で過度の飲酒は逆に循環器疾患のリスク因子になります。「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要です。また、循渫器疾患以外のリスクや持病・体質等も考えると、現在飲酒していない人や飲めない人に対して飲酒を強要しないことも重要です。
≪適度な飲酒の影響≫
適度なアルコール摂取が心血管疾患に与える影恕については、一部の研究で以下のような
可能性が示唆されています。
潜在的な利点
HDL(善玉)コレステロールの増加:
・ アルコールは、HDLコレステロールを増加させ、動脈硬化のリスクを低減する可能性があります。
血液の凝固を抑制:
・ 適度な飲酒は血小板の凝集を抑制し、血栓の形成を減らすとされます。これにより、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが低下する可能性があります。
抗炎症作用:
・ 赤ワインに含まれるポリフェノール(例:レスベラトロール)は、抗酸化作用や抗炎症作用があり、血管の健康をサポートすると考えられています。
本地洋一さん: 適度な量というのはどれくらいの量を言うのでしょうか?
松尾仁司院長: 大変良い質問ですが、難しい問題ですよね。というのは飲酒により摂取したアルコールはアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase; ADH)とミクロゾームエタノール酸化系(microsomal ethanol oxidizing system; MEOS)によってアセトアルデヒドになり、アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase; ALDH)によって酢酸になります。
ここまでは主として肝臓での代謝ですが、この能力は個人差が大きく、遅い代謝の酵素を持つ人は、速い代謝の人と比べて、肝組織のADHの実測活性が1/5~1/6しかありません。
吉田早苗さん: 人によって適度な量は違うということですね!
松尾仁司院長: 一般的に循環器疾患にとっての適量とは、「1ドリンク= 10gのアルコール量」を指し、ビール中ビン0.5本、日本酒0.5合に相当します。しかしこれは、あくまでも全体としての平均値の酒量であって体質や体格によって個々人の許容量は異なりますので注意が必要です。
また、ここ最近では、少量の飲酒により、心筋梗塞などの循環器疾患の発症リスクは下がるものの、結核や乳がんなどの他の疾患リスクが上昇するため、飲酒とJカーブを否定し得る報告もあり、注意が必要です。
特に、生まれつきお酒を飲めない人や、お酒を飲む習慣がない人に、飲酒を強要しないことも重要です。お酒に対する強さの体質は、アルデヒド分解に関わる遺伝子(ALDH2)が大きく影響することがわかっています。この遺伝子の活性が弱い人は、ごく少量の飲酒でも顔面紅潮や動悸、嘔気、頭痛などの不快な反応を起こします。飲酒の許容量は各々異なることを踏まえ、循環器疾患への影響だけで少量の飲酒を勧めるのではなく、体質的にお酒が飲めない人や、様々な理由によりお酒を飲む習慣がない人に無理に飲酒させることがないよう心がけることが求められます。
本地洋一さん: 飲酒と心臓病の関係についてもう少し詳しく教えてください。
松尾仁司院長: 循環器疾患では出血性疾患と不整脈疾患を除けば少量の飲酒はよい方向に働いているように見えます。このメカニズムにはアルコールの抗凝固作用・抗酸化作用などの関与が指摘されています。
≪循環器疾患と飲酒との関係≫
冠動脈疾患
男性でビール中ビン1本、日本酒1合程度の飲酒なら心臓関連死のリスクが20%減るという報告があります。
心不全
ビール中ビン0.5~1本、日本酒0.5~1合の飲酒の飲酒なら保股的に働くが、それ以上の飲酒は心不全発症率を上昇させるという報告があります。なお、多量飲酒によってアルコール心筋症を呈していた場合、断酒は不可欠です。
高血圧
少量のアルコールは血圧を一時的に低下させるが、長期間の飲酒は血圧を上昇させ、高血圧の原因になりうる。
脳梗塞・脳出血
脳梗塞は約ビール中ビン1本、日本酒1合程度の飲酒は保護的に働く。脳出血はアルコール摂取塁が増えると直線的にリスクは増加する。
不整脈
飲酒は心房細動を誘発する。平均2合以上の飲酒をすると、心房細動の罹患リスクが約2倍になると報告されている。
今お示ししたように、アルコールは心臓によいことばかりというわけではありません。世間的にはアルコールの良い点が強調されがちですが、過度の飲酒は循環器疾患関連死を増大させ、乳がんや肝硬変その他あらゆる疾患のリスク因子となります。ほかにも、いわゆる一気飲みは急性アルコール中毒による突然死のリスクを高めます。
≪アルコール摂取に関する心臓病のガイドライン≫
1.アメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)
基本的な立場:
AHA は、アルコールを摂取しないことが健康にとって最も安全であると述べています。
適度な飲酒が心血管リスクを下げる可能性があることを認めつつ、アルコールには依存症や他の健康リスクがあるため、飲酒を推奨していません。
適度な飲酒の定義:
男性: 1日1~2杯まで。
女性: 1日1杯まで。
(1杯= ビール約355ml、ワイン約150ml、蒸留酒約45ml)
2.ヨーロッパ心臓病学会 (ESC:European Society ofC ardiology)
基本的な立場:
ESCのガイドラインでは、アルコールの摂取は「できるだけ減らす」ことを推奨しています。
飲酒によるポリフェノールなどの潜在的な利点よりも、リスク(高血圧、心房細動、がんなど)が重視されます。
具体的な勧告:
1週間の飲酒醤は男性で100g以下、女性で50g以下を目安とすることが推奨されています(純アルコール量換算)。
3.日本循漿器学会(JCS:Japanese Circulation Society)
基本的な立場:
適度な飲酒であれば必ずしも禁止されていませんが、節度を持った飲酒が強調されます。
高血圧や心房細動などのリスクがある場合は、飲酒量を控えることが勧められます。
適量の指標:
男性:1日20~30gの純アルコール量以下。
女性:男性の半分程度。
注意点:
飲酒に耐性が低い人(アジア人にはALDH2欠損者が多い)では、少量でも有害な影響が出やすいとされています。
4.WHO(世界保健機関)
基本的な立場:
WHOは、アルコールは健康にリスクをもたらすと指摘しており、健康促進のためにアルコールを摂取することを推奨していません。
心血管疾患予防のためには、アルコール摂取以外の方法(運動、食事、禁煙など)に焦点を当てるべきとしています。
5.心房細動や高血圧患者における特別な注意
心房細動(AF):
アルコールは心房細動のリスクを増加させるため、飲酒を控えるか、完全に避けることが推奨されます。
大量飲酒によりホリデーハート症候群が誘発されるリスクもあるため、注意が必要です。
高血圧:
過剰なアルコール摂取は血圧を上昇させるため、飲酒量を制限することが推奨されます。
血圧がコントロールされていない場合、完全に禁酒することが望ましいとされています。
6.代替案としての推奨行動
健康的な心臓を維持するために、アルコール摂取ではなく以下が推奨されています。
地中海式食事(魚、野菜、果物、オリーブオイル中心の食事)。
規則的な有酸素運動。
禁煙。
ストレス管理。
本地洋一さん: 酒は必ずしも百薬の長ではないことが良くわかりました。飲酒によって引き起こされる悪い点も正しく理解することが大切ですね!
ということは飲酒に関して、今まで常識とされていたことを今一度考え直す必要がありそうですね!
吉田早苗さん: 次回のハート相談所は2024年12月26日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。