構造的心疾患に対するカテーテル治療

構造的心疾患とは心臓弁膜症、心筋症、先天性心疾患などの総称をさします。これらの疾患は従来外科的に治療されることが一般的でありましたが、構造的心疾患に対するカテーテル治療が脚光を浴びています。

1. 肥大型心筋症に対する心室中隔エタノール焼灼術(PTSMA)

現在、カテーテル治療により劇的な治療効果が期待できる疾患として、閉塞性肥大型心筋症(HOCM)があります。これに対しては1995年ごろより欧州で始まった経皮的中隔心筋焼灼術 (PTSMA)が非常に有効であり、当院では100例を超える治療経験がある松尾仁司院長、川瀬世史明循環器内科部長が担当しており、良好な成績が期待できる治療方法です。岐阜ハートセンターでは10年間で26例の患者様に対してPTSMAを施行しております。閉塞性肥大型心筋症の患者様の数は多くありませんが、PTSMAは薬物療法抵抗性有症状を有する閉塞性肥大型心筋症患者様には極めて有用な治療法です。

2. 心臓弁膜症に対するカテーテル治療

歴史的には古くから経皮的僧帽弁交連バルーン切開術(PTMC)、大動脈弁狭窄症に対するバルーン形成術が行われてきました。PTMCは一部の症例に大変有効でありますが、リウマチ性弁膜症の減少とともに減少傾向にあります。また、大動脈弁狭窄症に対して以前よりバルーン大動脈弁拡張術(BAV)も行われてきましたが、一時的に非常に良くなるものの再狭窄という問題があり、姑息的治療としての位置づけから脱却することはできませんでした。しかし、2013年10月より本邦でも保険適応となり、注目を集めている治療方法として、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)があります。大動脈弁狭窄症は高齢者に最も多い心臓弁膜症です。TAVIは呼吸器疾患や肝疾患など全身併発症を持っているような手術ハイリスクの大動脈弁狭窄症の患者様にとって素晴らしい福音となりました。TAVIは外科的大動脈弁置換手術と比較して低侵襲で、現在では局所麻酔下での治療も行われ、術後早期離床退院が可能な画期的な治療であります。当院では大久保宗則循環器内科部長、恒川智宏前心臓血管外科医長、平田哲夫循環器内科医長が中心となり2016年4月11日に豊橋ハートセンターの山本真功先生のご指導のもと第1例目を施行し、現在2019年1月の時点で100例の治療を行い、手術死亡率(30日間)0%(一般的には1.7%程度)、ペースメーカー植え込み率3.0%(一般的には10%程度)と良好な治療成績を残しています。今後はTAVIの適応もより低リスクの患者様に拡大される可能性があり、症例の増加が予想されます。

3. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)に対する肺動脈バルーン形成術(BPA)

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は労作時呼吸困難で患者様を苦しめる予後不良の難病です。近年カテーテルを用いた肺動脈に対する血管形成術(BPA)が有効であることが示されています。BPAはこれまで薬以外に対応不可能であった外科手術不応例に対して有効な治療法として脚光を浴びています。このカテーテル治療の出現により肺高血圧症の劇的な改善がもたらされNYHA3-4度の心不全症状の患者様がNYHA1-2度まで改善することが示されています。岐阜ハートセンターにおいても2016年2月18日、国立循環器病研究センターの大郷剛先生の御指導のもと、平田哲夫循環器内科医長を中心に第1例目を施行致しました。以後、2018年12月までに肺高血圧症15例にBPAを64回施行し、多くの患者様の症状が劇的に改善することに大きな喜びを感じております。

4. 今後の展開

岐阜ハートセンターでは、今後、心房中隔欠損症や偏頭痛に対する経カテーテル的欠損口閉鎖術(Amplatzer)、僧帽弁逆流症に対するMitral clip治療、心房細動に対する経カテーテル的左心耳閉鎖術(Watchman device)などますます脚光を浴びつつあるこの分野の治療に対しての実施施設資格の取得を目指しています。構造的心疾患に対するカテーテル治療の利点と欠点を十分に理解し、目の前の患者様にとって最適な治療を内科、外科、麻酔科医を含めたハートチームとして検討する体制をより強固にして、患者様にとって最善な治療を選択していきたいと思います。

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