小さい傷による心臓外科手術について-MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術)-

体の負担が少なく、傷の小さい心臓手術をご存じですか?

「あなたは心臓の手術が必要です。」と言われた時の、ショック・不安感は大変なものだと思います。しかし現在の心臓外科手術成績の向上は著しく、高齢者を含め手術を受けたほとんどの方々が元気に社会復帰できる時代になりました。さらに最近では、その心臓手術をより小さい傷・少ない体の負担だけで行えるようになりました。それが完全内視鏡下に行う低侵襲心臓手術【MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:ミックス)】です。
MICSとは、簡単に説明すると、傷を小さくして体の負担を少なく行う心臓手術のことです。通常の心臓手術は、胸骨という胸の真ん中にある骨を切開して行うことが標準です。しかし、胸骨を切開すると、しばらくの期間は運動制限などの不具合が発生します。これに対してMICSでは胸骨を切開せず、もともと隙間のある肋骨の間から細い内視鏡カメラと手術器具を挿入して心臓手術を行います。
MICSで心臓手術を行うと、通常の心臓手術に比較して、傷が小さく目立たないだけでなく、術後の痛みや出血量が極めて少なくなりますし、感染症の発生リスクも低くなります。さらに何と言っても術直後の養生期間が大変短くできるため、元の生活への復帰が早くなります。例えば、車の運転や就労は概ね退院後1~2週間で行ってもよいとお話ししています(通常の心臓手術では、退院後1~2か月後から)。
MICSは手術手技が少し難しくなりますが、当院では最新画像技術である3D内視鏡を用いることにより、小さい傷でも通常の心臓手術と比較して手術の完成度が低下することは全くありません。

当院のMICSの対象は、心臓弁膜症、心房中隔欠損症、狭心症、心臓腫瘍などです。
大変、魅力的なMICSではありますが、残念ながら次の様な方はMICSが適切でない場合もあります。

  • 心臓機能が著しく低下している方
  • 動脈硬化が強く、全身の血管の性状がわるい方
  • 全身状態が不安定な緊急手術の方

このような方は程度にもよりますがMICSにより手術リスクを高めてしまう可能性が高いと考えます。
通常の心臓手術のほうが、安全性が高いと判断される場合は、当院ではMICSは行っておりません。

最後に

患者さんに有益となるMICSは、通常の心臓手術とは異なるアプローチにて手術を行うため、通常以上に気を付けないといけないポイントが多々あります。故に、MICSを安全に行うためには、まずは豊富な通常の心臓手術の実績が絶対に必要になります。当院では、開院からの10年間に1700例以上の心臓手術を行ってきました。その経験と技術を最大限に活かしてスタッフ一同、協力してMICSに取り組んでいます。まずはお気軽にご相談ください。

大動脈弁閉鎖不全症、大動脈弁輪拡張症(動脈瘤)に対しての大動脈弁形成術、自己大動脈弁温存基部置換術について

当院では、これまで、人工弁(生体弁/機械弁)による弁置換術でしか治療されていなかった大動脈弁閉鎖不全症および大動脈基部拡張症(動脈瘤)に対して、人工弁を使用せず、患者さんの大動脈弁を形成/温存する大動脈弁形成術や自己大動脈弁温存基部置換術を多く行っております。

多くの施設では、大動脈弁に対する標準的な手術治療法として人工弁による弁置換術が行われています(当然、当院でも弁置換術は行います)。
人工弁は、大きく2種類に分けられます。一つはパイロライトカーボンなどによる機械弁、もう一つはウシ心膜などを使用した生体弁です。
それぞれ特徴を簡単に説明すると、機械弁はほとんどが半永久的に作動してくれますが、血栓(血の塊)が機械弁につきやすいのでワルファリンカリウムという抗凝固剤を生涯内服し続けることで血栓を予防しなければなりません。
抗凝固剤を内服すると、患者さんは1~2か月に一度、必ず病院にて採血を行い、薬剤の効果を確認する必要があります。効きがわるければ、血栓が体内で形成され、脳梗塞などの塞栓症、弁血栓による弁機能不全がおこり、致命傷となります。効きすぎれば出血しやすくなるため、脳出血、消化管出血、外傷による出血が起こりやすくなり、これもまた致命的になることがあります。さらに、挙児希望の女性には抗凝固剤は使用禁止です。

このような抗凝固剤による血栓・出血合併症を回避できるのが生体弁ですが、生体弁には寿命があります。一般的には15~20年といわれますが、弁置換時の年齢が若ければ若いほど、弁寿命は短くなります(60歳以下では10年持たないことが多い)。また、生体弁は構造上本来の弁の面積よりかなり小さくなるため、スポーツをするなどの活動的な方には不利なこともあります。
機械弁も生体弁も、患者さんの体にとっては異物ですので免疫力が及びにくく、人工弁感染を起こすと再手術は免がれません。

(人工弁の表を作る。参考はエドワーズの冊子)

このような、人工弁にまつわる合併症(発生率は年1~1.6%)を回避する事ができるのが、大動脈弁形成術、自己大動脈弁温存基部置換術です。

この手術方法は、大動脈弁を切除せず、変形した弁自体を修復したり、人工血管を用いて弁付着部(大動脈基部といいます)を置換して弁を寄せ合わせることで弁機能を回復・温存する方法です。

人工弁を使用しないため、抗凝固療法は不要であり、適切に形成・温存ができれば生体弁よりも機能的、寿命的にも優れていると考えられます。
そのため65歳以下の若年患者さんや妊娠出産を考えておられる方には、大変望ましい方法であります。

当院では毎年10~15例、大動脈弁形成・自己弁温存基部置換術を行い、多くの方々に喜んでいただいておりますが、どなたもこの手術方法が適切なわけではありません。特に、ご自身の大動脈弁の壊れ具合が、手術可能かどうかを判断するもっとも重要な因子です。それを評価するためには、当院外来にて造影CTや経食道心エコー検査で大動脈弁とその周囲の具合をしっかり評価することが必要になります。

また、患者さん背景(大動脈解離/瘤やMarfan症候群などの結合織異常の既往・家族歴など)も手術方法や介入時期を決定するのに必要な情報になります。

当院では以上のように、患者さんの大動脈弁の解剖学的条件と、年齢・背景・希望を熟慮した上で、適切な方に限り、自己大動脈弁の温存・形成を行っております。

参考資料

1.大動脈弁閉鎖不全症の原因とその治療方法
2.大動脈基部構造術