大動脈弁狭窄症の手術療法
手術の内容
大動脈弁の手術として、全部取り出して新しい人工弁に付け換える方法(弁置換術)があります。機械弁か生体弁のどちらかを選択すべきかは、患者の条件(年齢など)や弁の状態により判断されます。
機械弁
カーボンで作られています。耐久性に優れています。ワーファリンを確実に生涯服用していただく必要があります。
生体弁
牛の心膜あるいはブタの心臓弁で作られています。10-15年の寿命があるため、弁の機能不全が判明した場合、再手術が必要になることがあります。ワーファリンを服用する場合、低用量で可。
機械弁
生体弁
図1 人工弁
一般的には、65歳以上が生体弁、65歳未満が機械弁(アメリカ心臓病学会推奨)とされていますが、ワーファリンを将来も間違えることなく確実に飲むことができるか、その他の状態(出血性素因、塞栓症の危険)などを総合的に考えて、どちらかの弁を選択する必要があります。
世界的趨勢として、生体弁がより多く使用される傾向にあります。その理由として
(1)再手術でも、手術のリスクは初回と同等であるという報告もあること
また近年、経皮的大動脈弁置換術が登場しましたが、
(2)将来再手術が必要な際に、この経皮的大動脈弁置換術を行える時代が来る可能性が期待されていること
(3)ワーファリンの副作用は決して無視できないものであること
などがあります。
長期的にみて、重要な問題のひとつが、ワーファリンに関わる問題です。人工物を血液にさらした場合、血栓が付着し、弁を動きが悪くなる、あるいは、そこから血栓がはずれ、脳梗塞などを引き起こします。それを予防するために、ワーファリンを生涯飲んでいただき、血のさらさら度(INR)を外来で定期的に調べる必要があります。
ワーファリンは、肝臓で作られるビタミンKに関係する血液を固まらせる因子を抑制するものです。ワーファリンが十分効かないと、その血栓を作り出すことになりますし、効きすぎると、微小血管からの出血が見られることがあります(鼻血、歯ぐきからの出血、あざ、などの軽いものから、脳出血、消化管出血)。1年間に起きうる確率は約1%です。
もうひとつの問題は感染です。なんらかの理由で、弁にばい菌がついてしまった場合には、長期間の抗生物質治療が必要となります。重症化した場合には、再手術が必要になることもあります。それを防ぐためにも、常日ごろ、虫歯の治療や小さな傷などの場合にも、予防的な抗生物質の投与が重要となります。
予定手術の場合、歯科受診をしていただきます。抜歯など必要な場合、術後には、弁感染、ワーファリンによる出血の心配がありますので、可能な限り、手術前に治しておくことが重要です。
※高齢者の大動脈弁狭窄症
近年の高齢化に伴い、高齢者(70~90歳代)の大動脈弁狭窄症が大変多くなっています。ほぼすべてが動脈硬化によるもので、急速に症状が進行するのが特徴です。また、冠動脈の病気(狭心症)を伴うことも多いです。
年齢のみで手術の可否を判断するのではなく、ご本人の全身状態を把握し、ご家族のご意見を十分お伺いした上で、治療方針を決定させていただきます。当院の最高齢患者は、88歳です。
※上行大動脈の高度動脈硬化(Porcelain aorta:陶器状大動脈)
上行大動脈の高度動脈硬化を伴い、文字通り陶器のように石灰化が強く固い場合があります。この場合、手術の手技上、上行大動脈を割って入る必要がありますが、その動脈硬化病変が脳梗塞の原因になりえる大変危険な病変です。
また、止血に難渋する病変です。このような病変に対しては、十分術前検査を行い、前述の合併症が起こらぬよう最大限の注意を払い対応させていただきます。
手術の危険性
日本胸部外科学会の調査(2004年)による全国手術統計では、大動脈弁置換手術の病院死亡率は3.3%であると示されています。
このような重症心不全は、手術前の心臓の状態が著しく低下していた人、あるいは心筋梗塞、腎機能障害など他の病変を合併していた人などに発生すると考えられます。
手術を行わなかった場合に予想される経過
狭窄の度合いが高度である場合、症状がある場合がほとんどですが、自然歴では以下の3症状(ここで言う以下がどこを指すか不明)がある場合、心不全症状(1~2年以内)、失神発作(2~3年以内)、狭心症症状(4~5年以内)に死亡するというデータがあります(Circulation 1968;38 V61-67)。
狭窄の度合いが中等度あるいは軽度で無症状である場合、弁膜の狭窄は時間とともに増悪してくる可能性があり、このため定期的な循環器科での診断を受けることが必要です。
手術後の経過観察
術後心臓エコー検査を行い、新たに植え込んだ弁・心機能等を評価いたします。問題がなければ、退院となります。退院に際して、医師、看護師、理学療法士(リハビリテーション)、薬剤師から、それぞれ退院指導を行います。近隣の方の場合、数回、当院心臓外科外来に来ていただきます。退院後の様子、安静度の相談をいたします。
その後は、ご紹介いただいた病院での外来通院となります。退院の際、こちらから、報告書をお渡しします。また、身体障害者申請書類を準備させていただきます。役所へ提出して申請を行ってください。個人の保険書類も必要であれば、退院前に主治医までお知らせください。
その後は、当院でも、6カ月後、年1回の経過観察を行います。もとの体の状態に戻るには個人差がありますが、3カ月程度かかります。ワーファリンのコントロール、感染の予防が重要です。MRI(核磁気共鳴検査)を行う必要がある場合、問題はありません。
大動脈弁狭窄症に対する新しい治療法(TAVI)
こちらをご覧ください。(新しいウインドが開きます)
大動脈弁閉鎖不全症の手術療法
手術の内容
大動脈弁の手術として、全部取り出して新しい人工弁に付け替える方法(弁置換術)があります。機械弁か生体弁のどちらかを選択すべきかは、患者様の条件(年齢など)や弁の状態などで判断されます。
大動脈の拡張も伴う場合、弁と同時に上行大動脈も人工血管で再建することが必要になることがあります(大動脈基部置換術―ベントール手術。*基部の部分がそれに関する情報です)。
機械弁
カーボンで作られています。耐久性に優れています。ワーファリンを確実に生涯服用していただく必要があります。
生体弁
牛の心膜あるいはブタの心臓弁で作られています。10~15年の寿命があるため、弁の機能不全が判明した場合、再手術が必要になることがあります。ワーファリンを服用する場合、低用量で可。
機械弁
生体弁
図1 人工弁
一般的には、65歳以上が生体弁、65歳未満が機械弁(アメリカ心臓病学会推奨)とされていますが、ワーファリンを将来も間違えることなく確実に飲むことができるか、その他の状態(出血性素因、塞栓症の危険)などを総合的に考えて判断する必要があります。
患者様がこの2弁の長所・短所を十分ご理解いただいた上で、最終的にどちらかを選択していただきます。
長期的にみて重要な問題のひとつが、ワーファリンに関わる問題です。人工物を血液にさらした場合、血栓が付着し、弁を動きが悪くなる、あるいは、そこから血栓がはずれ、脳梗塞などを引き起こします。それを予防するために、ワーファリンを生涯飲んでいただき、血のさらさら度(INR)を外来で定期的に調べる必要があります。
ワーファリンは、肝臓で作られるビタミンKに関係する血液を固まらせる因子を抑制するものです。ワーファリンが十分効かないと、その血栓を作り出すことになりますし、効きすぎると、微小血管からの出血が見られることがあります(鼻血、歯ぐきからの出血、あざ、などの軽いものから、脳出血、消化管出血)。1年間に起きうる確率は、約1%です。
もうひとつの問題は感染です。なんらかの理由で弁にばい菌がついてしまった場合には、長期間の抗生物質治療が必要となります。重症化した場合には、再手術が必要になることもあります。それを防ぐためにも、常日ごろ、虫歯の治療や小さな傷などの場合にも、予防的な抗生物質の投与が重要となります。
予定手術の場合、歯科受診をしていただきます。抜歯など必要な場合、術後には、弁感染、ワーファリンによる出血の心配がありますので、可能な限り手術前に治しておくことが重要です。
※大動脈基部置換術(Bentall手術)
上行大動脈と大動脈弁を切除します。人工血管と人工弁で置換します。大動脈基部には、冠動脈の入り口があるために、その入り口を再建した大動脈へ縫い付ける作業が必要となります。
図2
※大動脈自己弁温存術(David手術、Yacoub手術)
上行大動脈の拡大が理由で大動脈弁閉鎖不全を起こしている場合、その大動脈ght;を人工血管で再建し、自己弁を温存する方法です。この方法は、大動脈の拡大があるわりには、弁閉鎖不全が少ない場合、弁自体は正常である場合などの条件では、大変よい術式といわれています。
その理由として、自己弁を温存するため人工弁を植え込む必要がなく、その結果ワーファリンを服用する必要がなく、ワーファリン由来の副作用(出血、梗塞)を回避することができるためです。
しかし、弁自体の伸展や、弁輪の拡大など伴う場合には、術後早期に、再手術を行うこともありえる術式であり、医師と十分相談のうえ、術式決定が必要です。
図3
手術の危険性
日本胸部外科学会の調査(2004年)による全国手術統計では、大動脈弁置換手術の病院死亡率は3.3%であると示されています。
このような重症心不全は、手術前の心臓の状態が著しく低下していた人、あるいは心筋梗塞、腎機能障害など他の病変を合併していた人などに発生すると考えられます。
手術を行わなかった場合に予想される経過
弁膜の逆流度がⅡ度以下である場合には手術をすることはありません。しかし、そのまま放置すると症状が進行して、階段を登る際に呼吸が苦しくなったり脈拍が急に速くなったりすることもあります。
明らかな弁膜症と診断された時には、治療として心臓の機能を助けるための強心剤を服用し、過剰な水分の摂取は控えることが必要です。これらの調整にあたっては、循環器科の専門医の診察を受けることが必要です。
中には逆流度Ⅲ度以上でもいろいろな理由で手術をされない方もいます。この場合、内科的治療が必要となります。具体的には強心薬、利尿薬(尿を出す薬)等の薬物療法と生活上の指導(適度な運動等の制限)が中心になりますが、個人個人で病気の重さや症状によって違いがあり、専門医の診断と治療が必要です。
内科的治療は弁の病変を根本的に治すことはできませんが、心臓機能の悪化を遅らせる効果があります。
弁膜症の診断がついても弁膜逆流の度合いがⅡ度以下で、自覚症状のまったく現れない人もいます。この際には手術も内服薬による治療も不要でしょう。しかし、弁膜の逆流は時間とともに増悪してくる可能性があり、このため定期的な循環器科での診断を受けることが必要です。
手術後の経過観察
術後心臓エコー検査を行い、新たに植え込んだ弁・心機能等を評価いたします。問題がなければ退院となります。退院に際して、医師、看護師、理学療法士(リハビリテーション)、薬剤師から、それぞれ退院指導を行います。近隣の方の場合、数回、当院心臓外科外来に来ていただきます。
退院後の様子、安静度の相談をいたします。その後は、ご紹介いただいた病院での外来通院となります。退院の際、こちらから報告書をお渡しします。また、身体障害者申請書類を準備させていただきます。役所へ提出して申請を行ってください。個人の保険書類も必要であれば、退院前に主治医までお知らせください。
その後は、当院でも、6カ月後、年1回の経過観察を行います。もとの体の状態に戻るには個人差がありますが、3カ月程度かかります。ワーファリンのコントロール、感染の予防が重要です。MRI(核磁気共鳴検査)を行う必要がある場合、問題はありません。
僧帽弁狭窄症の手術療法
手術の内容
僧帽弁の手術には、弁を全部取り出して新しい人工弁に付け換える方法(弁置換術)があります。
弁置換術
機械弁
カーボンで作られています。耐久性に優れています。ワーファリンを確実に生涯服用していただく必要があります。
生体弁
牛の心膜あるいはブタの心臓弁で作られています。10~15年の寿命があるため、弁の機能不全が判明した場合、再手術が必要になることがあります。
機械弁
生体弁
図1 人工弁
一般的には、65歳以上が生体弁、65歳未満が機械弁(アメリカ心臓病学会推奨)とされていますが、ワーファリンを将来も間違えることなく確実に飲むことができるか、その他の状態(出血性素因、塞栓症の危険)などを総合的に考えて判断する必要があります。
患者様が、この2弁の長所・短所を十分ご理解いただいた上で、最終的にどちらかを選択していただきます。
長期的に見て、重要な問題のひとつが、ワーファリンに関わる問題です。人工物を血液にさらした場合、血栓が付着し、弁の動きが悪くなる、あるいは、そこから血栓がはずれ、脳梗塞などを引き起こします。それを予防するために、ワーファリンを生涯飲んでいただき、血のさらさら度(INR)を外来で定期的に調べる必要があります。
ワーファリンは、肝臓で作られるビタミンKに関係する血液を固まらせる因子を抑制するものです。ワーファリンが十分効かないと、その血栓を作り出すことになりますし、効きすぎると、微小血管からの出血が見られることがあります(鼻血、歯ぐきからの出血、あざ、などの軽いものから、脳出血、消化管出血)。1年間に起きうる確率は約1%です。
もうひとつの問題は感染です。なんらかの理由で、弁にばい菌がついてしまった場合には、長期間の抗生物質治療が必要となります。重症化した場合には、再手術が必要になることもあります。それを防ぐためにも、常日ごろ、虫歯の治療や小さな傷などの場合にも、予防的な抗生物質の投与が重要となります。
予定手術の場合、歯科受診をしていただきます。抜歯など必要な場合、術後には、弁感染、ワーファリンによる出血の心配がありますので、可能な限り、手術前に治しておくことが重要です。
三尖弁形成術
左側の心臓から右側の心臓に負担がかかり、三尖弁閉鎖不全を認める場合、同時に、三尖弁形成術を行います。形成用人工リングを逢着し、逆流を防止するものです。
不整脈手術(メイズ手術)
心臓のリズムが不整(心房細動)である場合に、凍結凝固法を用いて行うことがあります。
*僧帽弁輪石灰化(MAC:Mitral Annular Calcification)
高齢、透析患者などの場合、僧帽弁輪の高度な石灰化があることがあります。この場合、石灰化を十分取らないと、人工弁をきちんと逢着できず、弁周囲逆流の原因になる危険性があります。
また、とりすぎると、弁輪を縫い付ける周辺から裂けて、左室破裂という死にいたる合併症を引き起こす危険性があります。術前に十分計画を練り、慎重に対応させていただきます。
手術の危険性など
日本胸部外科学会の調査(2004年)による全国手術統計では、僧帽弁置換手術の病院死亡率は4.7%(弁形成術1.4%)であると示されています。
手術を行わなかった場合に予想される経過
狭窄がある場合、軽度、中等度である場合には、手術をすることはありませんが、弁膜の狭窄は時間とともに増悪してくる可能性があり、このため定期的な循環器科での診断を受けることが必要です。
中等度の動作で、きつい程度の症状がある場合(NYHAIII)、10年生存率は40%。
軽度動作で症状ある場合(NYHAIV)、5年生存率は15%(Br Heart J 1962;24:349-357)。
手術後の経過観察
術後心臓エコー検査を行い、新たに植え込んだ弁(または修繕した弁)・心機能等を評価いたします。問題がなければ退院となります。退院に際しては、医師、看護師、理学療法士(リハビリテーション)、薬剤師から、それぞれ退院指導を行います。近隣の方の場合、数回、当院心臓外科外来に来ていただきます。退院後の様子、安静度の相談をいたします。
その後は、ご紹介いただいた病院での外来通院となります。退院の際、こちらから報告書をお渡しします。また、身体障害者申請書類を準備させていただきます。役所へ提出して申請を行ってください。個人の保険書類も必要であれば、退院前に主治医までお知らせください。
その後は、当院でも、6カ月後、年1回の経過観察を行います。もとの体の状態に戻るには個人差がありますが、3カ月程度かかります。ワーファリンのコントロール、感染の予防が重要です。MRI(核磁気共鳴検査)を行う必要がある場合、問題はありません。
僧帽弁閉鎖不全症の手術療法
手術の内容
僧帽弁の手術には弁の一部を修理する方法(弁形成術)と、弁を全部取り出して新しい人工弁に付け換える方法(弁置換術)があります。自己弁を温存する形成術を可能なかぎり追求し、術後の患者様の生活の質向上に努めています。
弁形成術
伸びた病変部を切除する方法や、切れた弁下組織の再建を行うなどして、自己弁を修復する方法です。さらに、弁輪へ人工弁輪を逢着し拡大を予防します。
図1
心房細動などの不整脈がない場合には、術後3カ月間のワーファリン内服後、中止することができます。そのため、ワーファリンに起因する合併症(出血、梗塞)を回避することができます。
将来、弁の病変が進行した場合、再度手術が必要になることがあります。
弁置換術
機械弁
カーボンで作られています。耐久性に優れています。ワーファリンを確実に生涯服用していただく必要があります。
生体弁
牛の心膜あるいはブタの心臓弁で作られています。10-15年の寿命があるため、弁の機能不全が判明した場合、再手術が必要になることがあります。
機械弁
生体弁
図2 人工弁
一般的には、65歳以上が生体弁、65歳未満が機械弁(アメリカ心臓病学会推奨)とされていますが、ワーファリンを将来も間違えることなく確実に飲むことができるか、
その他の状態(出血性素因、塞栓症の危険)などを総合的に考えて判断する必要があります。
患者様が、この2弁の長所・短所を十分ご理解いただいた上で、最終的にどちらかを選択していただきます。
長期的にみて、重要な問題のひとつが、ワーファリンに関わる問題です。人工物を血液にさらした場合、血栓が付着し、弁の動きが悪くなる、あるいは、そこから血栓がはずれ、脳梗塞などを引き起こします。それを予防するために、ワーファリンを生涯飲んでいただき、血のさらさら度(INR)を外来で定期的に調べる必要があります。
ワーファリンは、肝臓で作られるビタミンKに関係する血液を固まらせる因子を抑制するものです。ワーファリンが十分効かないと、その血栓を作り出すことになりますし、効きすぎると、微小血管からの出血が見られることがあります(鼻血、歯ぐきからの出血、あざ、などの軽いものから、脳出血、消化管出血)。1年間に起きうる確率は、約1%です。
もうひとつの問題は感染です。なんらかの理由で、弁にばい菌がついてしまった場合には、長期間の抗生物質治療が必要となります。重症化した場合には、再手術が必要になることもあります。それを防ぐためにも、常日ごろ、虫歯の治療や小さな傷などの場合にも、予防的な抗生物質の投与が重要となります。
予定手術の場合、歯科受診をしていただきます。抜歯など必要な場合、術後には、弁感染、ワーファリンによる出血の心配がありますので、可能な限り、手術前に治しておくことが重要です。
三尖弁形成術
左側の心臓から右側の心臓に負担がかかり、三尖弁閉鎖不全を認める場合、同時に三尖弁形成術を行います。形成用人工リングを逢着し、逆流を防止するものです。
不整脈手術(メイズ手術)
心臓のリズムが不整(心房細動)である場合に、凍結凝固法を用いて行うことがあります。
手術の危険性
日本胸部外科学会の調査(2004年)による全国手術統計では、僧帽弁置換手術の病院死亡率は4.7%(弁形成術1.4%)であると示されています。
手術を行わなかった場合に予想される経過
弁膜の逆流度がⅡ度以下である場合には手術をすることはありません。しかし、そのまま放置すると症状が進行して、階段を登る際に呼吸が苦しくなったり脈拍が急に速くなることもあります。
明らかな弁膜症と診断された時には、治療として心臓の機能を助けるための強心剤を服用し、過剰な水分の摂取は控えることが必要です。これらの調整にあたっては、循環器科の専門医の診察を受けることが必要です。
中には逆流度Ⅲ度以上でも、いろいろな理由で手術をされない方もいます。この場合、内科的治療が必要となります。具体的には強心薬、利尿薬(尿を出す薬)等の薬物療法と生活上の指導(適度な運動等の制限)が中心になりますが、個人個人で病気の重さや症状によって違いがあり、専門医の診断と治療が必要です。内科的治療は弁の病変を根本的に治すことはできませんが、心臓機能の悪化を遅らせる効果があります。
弁膜症の診断がついても弁膜逆流の度合いがⅡ度以下で、自覚症状のまったく現れない人もいます。この際には、手術も内服薬による治療も不要でしょう。しかし弁膜の逆流は時間とともに増悪してくる可能性があり、このため定期的な循環器科での診断を受けることが必要です。
手術後の経過観察
術後心臓エコー検査を行い、新たに植え込んだ弁(または修繕した弁)・心機能等を評価いたします。問題がなければ退院となります。退院に際して、医師、看護師、理学療法士(リハビリテーション)、薬剤師から、それぞれ退院指導を行います。近隣の方の場合、数回、当院心臓外科外来に来ていただきます。退院後の様子、安静度の相談をいたします。
その後は、ご紹介いただいた病院での外来通院となります。退院の際、こちらから、報告書をお渡しします。また、身体障害者申請書類を準備させていただきます。役所へ提出して申請を行ってください。個人の保険書類も必要であれば、退院前に主治医までお知らせください。
その後は、当院でも、6カ月後、年1回の経過観察を行います。もとの体の状態に戻るには個人差がありますが、3カ月程度かかります。ワーファリンのコントロール、感染の予防が重要です。MRI(核磁気共鳴検査)を行う必要がある場合、問題はありません。