前史 1999[平成11]年─2008[平成20]年
岐阜県初の循環器専門病院が立ち上がるまで
循環器専門病院のメリットは、循環器専門医や循環器治療に特化したMedical staffの力を集約することができる点に大きな利点があるといわれています。また、近年はカテーテル治療や外科手術など高度な技術が要求されており、治療経験が多い施設での治療のメリットも強調されています。
このような時代の流れの中で誕生したのが、鈴木孝彦理事長が開設した豊橋ハートセンターであり、その10年後に誕生した名古屋ハートセンター、岐阜ハートセンターです。
名古屋ハートセンターは、2008(平成20)年10月1日に名古屋の砂田橋に開設されました。外山淳治院長、松原徹夫副院長(循環器内科)、米田正始副院長(心臓血管外科)、浅井優子看護部長が中心となり、64床の循環器専門病院として誕生しました。2012年からは、新院長として大川育秀医師が就任し、外山淳治院長が総長に就任しました。患者様、医療機関の諸先生方に対して“断らない、待たせない、温かい”医療を実践し、名古屋医療圏での循環器救急に必要不可欠な病院として認識されています。また、豊橋ハートセンターと同様に、日本国内のみでなく、世界への情報発信にも力をいれています。
現在は、伊藤立也循環器内科統括部長を中心に13名の内科医師、そして北村英樹心臓血管外科部長を中心とした8名の心臓血管外科医で構成された陣容で、地域の循環器拠点病院として謙虚な姿勢で専門医療を追究しています。
岐阜ハートセンターの初期構想は2006(平成18)年4月に遡ります。当時、岐阜市民病院の循環器内科部長だった上野勝己医師(前岐阜ハートセンター院長・現松波総合病院心臓疾患センター長)と岐阜県総合医療センターの循環器内科医長であった松尾仁司医師(現岐阜ハートセンター院長)の二人が、地域医療への貢献と循環器医療を担う次世代医師の育成を目的とした岐阜でのハートセンター設立構想を、豊橋ハートセンターの鈴木孝彦院長に相談されたことから始まります。
2007(平成19)年から19床の診療所も地域医療計画に入ってしまい、自由に開業ができない状況となりました。しかし岐阜医療圏は、ちょうどその時、病床の整備計画がすすめられていました。最初のヒアリングでは5床という意見が岐阜県からだされましたが、鈴木孝彦理事長から急性期循環器医療を行うための病床を強く要求した結果、2007年2月15日に32床の配分をいただきました。
病院の土地選定も難渋を極めました。病床数はすでにいただいたにも関わらず、土地が決定されていないという綱渡りの状態でした。しかし、最終的に岐阜県庁、岐阜県警、そしてふれあい会館の中間に位置する素晴らしい土地を、地主である井上富雄様が岐阜ハートセンター設立の主旨を御理解いただき、快く譲ってくださったことで、岐阜ハートセンターの建築が始まりました。
鈴木孝彦理事長は、将来すぐに病床が足りなくなると判断し、32床許可病床数の病院でありながら、120床規模の病院(1850坪)を建設することとしました。すると2008(平成20)年にさらに28床の許可病床をいただくことができ、60床でスタートできることになりました。
2008年6月2日、着工前に薮田地区の住民の方々に岐阜ハートセンター開院とヘリポート建設に対する説明会を開催しました。岐阜県民ふれあい会館(現OKBふれあい会館)の13階会議室を借りて行われた住民説明会には、たくさんの地域の方々の参加がありました。岐阜ハートセンターが心臓や血管病の専門病院として開院すること、岐阜県全体の心臓病で困った患者様を一刻も早く搬送するため、ヘリポートを設置させていただきたいことを御理解いただくために、松尾仁司医師から懇切丁寧な説明が行われました。最初はヘリコプターの発着に関しての安全性や不安に関しての意見や質問がありましたが、たくさんの心臓病の患者様を救命するための施設を作ることに関して、参加者の御理解をえることができました。
2008年12月、明るいベージュ色の壁が温もりを感じさせる4階建ての岐阜ハートセンターが完成しました。その後、開院までの2カ月間は、スタッフ全員で、シミュレーションを行い、開院の準備を行いました。
そして、ついに岐阜ハートセンターは2009(平成21)年2月5日、心疾患をはじめとする循環器治療の専門病院として、岐阜市薮田南に開院することができました。病棟は開院時60床(現90床、許可病床は120床)、開院時のスタッフは内科4名(上野勝己院長、松尾仁司循環器内科部長、三宅泰次医師、近藤裕樹医師)、外科3名(富田伸司心臓血管外科部長、加藤貴吉医師、玉置基継医師)の7名、看護師(杉本郁子看護部長他23名)、総スタッフ数48名での開院となりました。
2009[平成21]年
岐阜県下唯一の心臓循環器専門病院として開院
豊橋ハートセンターの開設から10年。名古屋ハートセンターに続き、新たに岐阜ハートセンターが設立されました。岐阜県下唯一の心臓循環器専門病院として、循環器疾患の急性期から慢性期までをカバーできる質の高い最先端医療を目標に、多職種連携を基本としたチーム医療体制でスタートしました。
岐阜ハートセンターの外来正面玄関には、コリドールと呼ばれる憩いのスペースがあります。このスペースは様々なアーティストの作品を紹介する“ハートギャラリー”として活用されています。1カ月毎に展示作品が変わり、外来患者様は様々な芸術作品を楽しむことができます。患者様からは「心の癒しとなっている。素晴らしい」と喜びのお声をいただいています。
地域医療貢献への取り組みの一環として、県内の臨床工学技士および放射線科の医師達を招待して、「GHC imaging Seminer 2009 IVUS 若鮎塾」と題した勉強会を開催しました。岐阜ハートセンターのスーパーバイザーであり血管内超音波法のオピニオンリーダーである本江純子先生の指導のもと、カテーテル治療における血管内超音波(IVUS)の活用法を学びました。
心臓病にならないための予防は大変重要です。岐阜ハートセンターでは、動脈硬化疾患の撲滅のため、生活習慣病に対する知識と対策を地域住民の方々と勉強する機会を設けています。第1回勉強会は、岐阜駅前じゅうろくプラザにて、財団法人高尾病院理事長の江部康二先生をお招きして、「糖尿病・メタボリックシンドロームと糖質制限食」のテーマで生活習慣病に関する講演会を開催しました。講演では、“薬を最小限に抑えることができる糖質制限食で糖尿病を克服する”についてご講演いただきました。
岐阜ハートセンターの取り組みと患者様へのメッセージをご理解いただくために、「岐阜ハートセンター便り」の発刊をスタートしました。「もっと患者様の近くに、もっと親しみやすいハートセンターに」との思いを込めて創刊され、以後は季刊誌として年3回発刊されています。
岐阜ハートセンターでの第1例目となる腹部大動脈ステントグラフト手術(EVAR)が無事に成功しました。従来の開腹手術と比較し、術後回復は早く術後8日で退院され、喜びのお声をいただきました。
血管内超音波診断法(IVUS)の技術を情報発信する「第18回i-IVUS.JP セミナー」が開催され、岐阜ハートセンターの医師とコメディカルが総動員で対応し、カテーテル室からライブ・デモンストレーションを行いました。200名近い見学者が集まる会場で、松尾仁司循環器内科部長(現院長)がカテーテル治療を行いながら、会場の質問に答える様子が映像で放映されました。
2010[平成22]年
開院1周年を迎え、心臓リハビリテーションを開始
岐阜ハートセンターは開院から1周年を迎えました。この1年間を振り返り、患者様はもちろん、関係者の皆様方への感謝の気持ちを胸に、さらに喜んでいただける病院を目指すことをスタッフ全員で誓いました。
第1例目の開心術から1年以内で、無事に100例目となる患者様を手術する機会をいただきました。記念として、職員を対象としたささやかな謝恩会を開催しました。
岐阜県下初の心臓疾患専門病院として開院した当院は、無事1周年を迎えました。白紙からのスタートであり「患者様に寄り添う医療」を心がけながら、安全な医療を提供することに力を注いできました。
2年目の目標は、接遇の徹底で患者様の「満足度」を高めることです。これは、スタッフ1人ひとりが余裕をもって仕事に当たれるようにすることで「接遇」にさらに磨きをかけ、結果として気持ちのよい対応が病院全体の質を高めることに繫げていきます。
糖尿病や脂質異常症、高血圧は心臓病の危険因子といわれています。岐阜ハートセンターでは、糖尿病患者様を対象とする「糖質制限食体験入院」を開始しました。2009年10月に開催した江部康二先生による生活習慣病講演会をきっかけに、糖質制限食の導入を検討し、栄養教室で糖質制限食の紹介をスタートさせました。入院は3日コースと10日コースで、入院中は血糖値の急激な上昇を抑えた1日1400カロリー前後で肉や野菜、海草類がバランスよく組み込まれた「糖質制限食」を体験していただきました。
患者様からご要望のあった中庭庭園が、室内から眺められる病棟の吹き抜け部分に完成しました。入院患者様の憩いの空間になっています。
岐阜ハートセンターの上野勝己院長(現松波総合病院心臓疾患センター長)が会長を務める日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)東海北陸地方会の第23回大会が、岐阜県民ふれあい会館サラマンカホールにて開催されました。今回は「オーダーメイド医療」と「チーム医療」をテーマに掲げ、i-IVUS研究会と共催するような形でライブ・デモンストレーションも岐阜ハートセンターから放映しました。
ライブの合間には、パイプオルガンのミニ演奏会も行われ、聴衆を魅了しました。また、同日に市民公開講座も開催され、富田伸司心臓血管外科部長(現副院長)が大動脈瘤について、土屋邦彦循環器内科部長(現副院長)が心房細動について、住民の方々に講演を行いました。
2009年12月より、原康貴看護主任と永井敬志理学療法士の2名が中心となって導入準備を進めていた「心臓リハビリテーションプログラム」がスタートしました。
心臓リハビリテーションとは、心臓病で低下した体力や精神的な自信を回復させ、社会や職場に早期復帰できることを狙いとする総合的なプログラムで、運動療法や教育、生活指導などで構成されます。狭心症や心筋梗塞、心不全、大血管疾患などの回復後に5カ月間、健康保険を用いて行うことができます。4階のナースステーション前に開設された心リハ専用室には、運動療法のためのエアロバイク2台を設置し、患者様に利用していただける体制を整えました。
2回目となる「ハートの日」イベントが岐阜県民ふれあい会館サラマンカホールで開催され、講演会やコンサートなどが行われました。
ハート講演会では「メタボリックシンドロームの予防と治療」をテーマに講演会と座談会が行われ、当院の上野勝己院長が「臨床現場での糖質制限の実際」に関して講演しました。その他、ハート健診(医療相談)や救急蘇生法講習会、運動教室、栄養相談室などが開催され、たくさんの地域の皆様にご参加いただきました。
財団法人高雄病院理事長の江部康二先生による、医療従事者向け糖質制限食に関する講演会をハートホールにて開催し、病診連携の病院やクリニックから多くの医師の皆様にご参加をいただきました。
2011[平成23]年
岐阜大学病院のドクターヘリが当院へ初飛来
岐阜ハートセンターは開院から2 周年を迎えました。この年は、岐阜県と岐阜大学が運用するドクターヘリが初飛来するなど、岐阜県全域の患者様の治療に携わることができるようになりました。
地域との医療連携を積極的に行い、医療連携での更なる充実が期待される1年となりました。
日本ステントグラフト実施基準管理委員会による審査の結果、当院がステントグラフト治療の施設基準に適合していることを証明する「胸部ステントグラフト実施施設」に認定されました。
開院から2周年を迎え、患者様は岐阜県全域から来院されるようになりました。各地の病院からのご紹介も増え、当院の診療実績は、2010年でカテーテル治療件数が1,000件、開心術は120例を超えました。不整脈部門では、アブレーション治療やペースメーカーの植え込み治療も増加しました。患者様の1人ひとりの背景を十分に考慮した「オーダーメイド医療」を提供しながら、さらなる充実を目指しています。
当院内に「岐阜ハートセンター南」の停車場名で、西岐阜くるくるバスのバス停が設置されました。バスは西岐阜駅から1時間10分毎に出て、当院のバス停までは約13分で着くとあって、患者様により便利にご利用いただけるようになりました。
5月15日に開催される「高橋尚子杯ぎふ清流マラソン」を前に、現場で応急処置を行う「ハートサポートランナー」登録者を対象とした救命講習会を岐阜ハートセンターハートホールで開催しました。講師は、清流マラソン救護スタッフである杉浦武治臨床工学技士が務め、AEDの操作方法や心臓マッサージの方法を説明しました。
この日、ドクターヘリが初めて患者様を乗せて当院へ飛来しました。これまでは、岐阜県の防災ヘリに当院の医師が搭乗して患者様を迎えに行っていましたが、岐阜大学病院救命救急部医師と看護師が同乗し、患者様を搬送していただきました。岐阜県の救急システムに感謝です。
1階ロビー横に、医療連携ボードが完成しました。当院では、地域の「かかりつけ医」の先生方と医療連携を積極的に行っています。地域の家庭医の先生方と協力し、患者様にとって最適な医療ができるよう、今後も多くの医療機関と積極的に連携を深めていきたいと思います。
患者様の個人情報の取り扱いについて院内研修会を開催しました。日本医療事務センター(現株式会社ソラスト)岐阜支社の服部美鶴支社長に講師をお願いし、個人情報の取り扱いについての講演やDVDによる事例紹介、ディスカッションを行いました。病院は個人情報を扱う特殊な職場といえます。職員全員が個人情報を大切にする意識を共有することができました。
県民ふれあい会館サラマンカホールにて「第3回ハートの日 in Gifu」が開催されました。テーマは「ハートのケアとこころのケア」で、中濃厚生病院の田中孜院長先生による「胸の痛みについて」、五日市剛先生による「感謝は心の万能薬」の講演会が行われました。また、健康イベントとして「栄養教室」と「運動教室」が行われ、たくさんの方々の参加をいただきました。
岐阜保健短期大学看護学部3年生の4名が、岐阜ハートセンターで看護学実習を体験しました。今回は、心臓血管外科を中心に、患者様の入院から退院まで約3週間にわたり、ご家族を理解しながらの看護方法の実際を学びました。また、心臓手術の見学、豚の心臓の血管を縫う体験、心肺蘇生・AEDの実習、心臓カテーテル検査・心臓リハビリテーションの見学などを体験しました。
金沢循環器病院院長の池田正寿先生をお招きして、職員、関連職員全員を対象とした医療安全講習会を開催しました。当院からは60名の職員が参加しました。テーマは「医療安全を継続する取り組みを模索してみました。」と題し、医療安全の具体的な取り組み方について講演をしていただきました。
北九州市立八幡病院・循環器内科の原田敬先生をお招きして、「腎動脈echoについて」の講演会を開催しました。岐阜ハートセンターのスタッフだけでなく、近隣の施設からも医師、臨床検査技師、臨床工学技士、診療放射線技師をお迎えし、30名を超える方にご参加をいただきました。
2012[平成24]年
質の高い医療と救急体制の構築を目指して
岐阜ハートセンターは開院から3周年を迎えました。患者様とコミュニケーションを取りながら、地域に根ざした、いつでも安心して来院いただける病院として、より質の高い医療と24時間救急体制の構築を目指しました。
CT画像診断において放射線専門医の診断をうけることができる遠隔診断技術の導入を行いました。これにより、主治医と放射線科専門医によるダブルチェックが可能となり、患者様により安全な医療の提供ができることとなりました。
心臓外科医を志望している後期研修生を中心に、院内から看護師、検査技師、ME学生が参加して心臓外科WetLabを開催しました。
外部講師として、羽山クリニック藤田浩弥先生に指導をお願いし、心臓外科の解剖・生理をブタの心臓を用いて勉強しました。当初の予定を3時間延長するなど、熱意あふれる勉強会となりました。
2013[平成25]年
“確かな技術”のご提供と“やさしさの医療”の両立へ
開院4年目を迎え、医師やスタッフも増え、設備も充実してきました。医療レベルの向上を図りながら、安全で安心できる医療に取り組みつつ、患者様と密なコミュニケーションを取りながら「確かな技術」のご提供と「やさしさの医療」で、地域に根ざした病院を目指しました。
2014[平成26]年
新院長のもと新たな布陣で、より地域に根ざした病院へ
この年、上野勝己院長から松尾仁司院長へとバトンタッチが行われました。松尾仁司新院長のもと、上野勝己前院長の意志を継承しながら、“目の前の患者様を大切に”そして“常に考えながら”地域に貢献できる病院を目指していくことを皆で再確認しました。
2015[平成27]年
新病棟開設で80床に増床、新たに心不全チームも誕生
集中治療室の拡充やハイブリッド手術室の完成に続き、新病棟の開設で病床数が80床へと増床し、設備の充実が図られました。心不全チームも誕生し、急性期から慢性期までの総合的包括的心臓病治療を行うことが可能となりました。
2016[平成28]年
設備の充実とともに、最先端の診断・治療技術を導入
CCU の拡張や新病棟の開設など、これまでの設備の充実とともに数多くの患者様を受け入れることが可能となりました。さらにTAVI の実施、最新の核医学検査装置や足の外来技術の導入も行い、地域に貢献できる病院として一歩前進することができました。
2017[平成29]年
新たに多職種によるフットケアチームがスタート
昨年度に発足した多職種スタッフによる心不全チームが順調な活動を続けるなか、新たに医師2名とスタッフ18名を迎え、共に行うチーム医療で循環器専門病院として最上級の医療の提供を目指して行くことになりました。
2018[平成30]年
チーム医療で、最上級の医療のご提供へ
岐阜ハートセンターは開院10年目を迎え、多職種連携を基本としたチーム医療で地域の皆様の健康をささえていく体制を構築しました。これからも、医療の安全性と質を高め、最上級の医療を提供できるようスタッフ全員が力を合わせて前進し続けることを誓いました。