末梢動脈疾患・静脈疾患
血管には動脈と静脈があります。末梢血管外来では主に末梢動脈疾患(PAD)を担当し、静脈疾患(慢性静脈不全、深部静脈血栓症、静脈瘤など)に関してはあしの外来にて診断、治療を行っております。
動脈系疾患としては主には下肢閉塞性動脈疾患(lower extremity artery disease: LEAD)に対して内科医の得意とするカテーテル治療、血管外科医の得意とするバイパスや血栓内膜摘除など末梢血管に関する総合的な診療を担当します。
静脈疾患については、下肢静脈瘤は下肢静脈瘤外来で、あしの外来ではリンパ浮腫や、静脈不全などを中心に診療させて頂いております。
また、慢性腎臓病に対する血液透析患者様のシャント狭窄や閉塞に対するバルーン拡張術、血栓除去術も循環器内科・血管外科医師との協力体制のもとに、迅速に対応できる体制を完備しております。
透析患者様に多く見受けられる、包括的高度慢性下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia: CLTI)に関しては、総合力が最も問われる領域であります。これに関しては、ハートセンターグループが全体で診ていく方針として対応しつつ、形成外科医とも連携して患者様にベストな治療方法を提案できる体制をとっています。
末梢動脈疾患(Peripheral artery disease : PAD)
「人は血管とともに老いる」という言葉を,内科医であったWilliam Oslerが残したのは19世紀ですが,その考えが正しいことが今日明らかとなってきています。これは加齢とともに全身の動脈硬化が進行することを表した言葉です。血流が悪くなると、部位毎にさまざまな症状が現れます。末梢動脈とは主に上肢、下肢、腹部、頚部の動脈を指し、これらの閉塞・狭窄により血流低下を生じる疾患を末梢動脈疾患(PAD)といいます。なかでも下肢動脈の閉塞・狭窄は自覚症状が現れやすく患者数も多いため、しばしばPADと下肢閉塞性動脈疾患(lower extremity artery disease: LEAD)は同義で用いられます。
末梢動脈疾患(PAD)の症状
間欠性跛行
歩行の途中で下肢のだるさ、痛み、しびれなどが現れ、歩行を続けられなくなることを間欠性跛行といいます。歩行時には下肢筋肉がより多くの血流(酸素)を必要としますが、動脈に閉塞・狭窄があると、血流不足の症状として痛みが現れます。この症状はしばらく休むと軽快し、また歩行を再開できるようになります。
安静時痛
さらに重症になると、何もしていなくても、痛み、しびれなどを自覚するようになります。
難治性創傷、壊疽
最重症になると、痛みだけではなく、通常であれば数日で自然に治るような小さな傷が数週間以上たっても治らず(難治性創傷)、皮膚や筋肉などの組織が死んでしまいます(壊疽)。このような病状では創部に細菌感染しやすくなり、救命のために下肢切断を余儀なくされることもあります。安静時痛と難治性創傷、壊疽をあわせて重症下肢虚血といいます。
末梢動脈疾患(PAD)の治療
運動療法、薬物療法
軽症の間欠性跛行例では、動脈の狭窄・閉塞が残っていても、運動療法(跛行トレーニング)と内服薬により、自覚症状を改善させることができます。運動療法については、患者様のみで独自に行うよりも、専門家のサポートのもとに行うほうが(監視下運動療法)効果が高いことが多くの研究で証明されております。当院では外来通院や短期入院による監視下運動療法を、積極的に行っております。他院でPADと診断された患者様でも、当院で運動療法をご希望の方はお気軽にご相談ください。
血行再建術(血管内治療、外科的手術)
重症の間欠性跛行と重症下肢虚血の症状を改善させるためには、物理的に血流を増加させる必要があります。
血管内治療(EVT:Endovascular treatment)はカテーテル治療とも呼ばれ、動脈の閉塞・狭窄を血管内から風船やステントで拡張し、自身の動脈を修理する方法です。局所麻酔で施行可能で、皮膚切開や縫合も不要なので、体への侵襲が少ないことが最大のメリットです。
下肢動脈の外科的手術は、バイパス手術や血栓内膜摘除術がその代表です。
EVTでは再閉塞しやすいような病状や、より多くの血流改善が望まれるような重症例に選択されます。近年では、EVT治療技術の向上、より再発率の低い風船やステントの開発が進んだこと、またご高齢の患者様が増えていることから、より低侵襲であるEVTが選択されることが増えています。当院ではEVT、外科的手術のいずれも施行可能でありますので、個々の患者様の病状に応じて、より適切と考えられる治療方針をご提案させて頂きます。また、形成外科医の協力体制もあり、血行再建不能症例に対する下肢切断を要する患者様の管理や創傷の管理もより充実しつつあります。
血管内治療(EVT:Endovascular treatment);矢印部分の閉塞・狭窄に対して風船治療(ステント治療)実施にて良好な血行再建がされています
下肢バイパス治療
浅大腿動脈に対する、ステントグラフト
静脈疾患の治療
下肢静脈瘤に対する治療
下肢静脈瘤外来のページ参照ください
血液透析用バスキュラーアクセスのカテーテル治療(VAIVT; Vascular Access Intervention Therapy)
血液透析に用いられるバスキュラーアクセス vascular access(以下 VA ) は、以前は透析シャントと呼ばれていましたが、VAIVT (vascular access intervention therapy)の普及とともに血液透析に用いるアクセスとして認知されてきています。
血液透析用バスキュラーアクセスのインターベンションによる修復(VAIVT:Vascular Access Intervention Therapy)の基本的技術に関するガイドライン 2020年5月改定より抜粋
本邦での維持血液透析患者は、2019年末の段階で344640 人と 34 万人 を超し基礎疾患の第一位は糖尿病性腎症が 39.1%で、平均年齢は患者全体で 69.1 才と高齢化が進んでいます。日本では自己血管内シャント(略して“シャント”と呼ばれることが多い)が90%程度と大部分を占め、その他の人工血管を用いたグラフト内シャント、動脈表在化、長期留置カテーテルは10%程度です。自己血管内シャントは人工的に動脈と静脈を吻合し、動脈血を表在静脈に流し込み静脈の動脈化が起きる点と、血液透析の為に週三回 2 本の穿刺針を穿刺するという行為を繰り返すという点によって、内膜肥厚・瘢痕性狭窄による狭窄を主体としたトラブルが生じている。VAIVT は、VA 機能を長期に維持するために、狭窄・閉塞の部位によって第一選択となる治療であります。
上記の通り、静脈疾患に関しても、圧迫両方のみではなく、バルーン拡張や、ステント留置、静脈瘤に対しては、高周波を用いた焼灼術など、全ての治療選択肢から患者様それぞれの病状に合わせてベストの選択ができる体制であります。