2023年1月26日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 令和5年2回目の放送です。

今回の放送のテーマは『急性心筋梗塞』です。

本地洋一さん:『急性心筋梗塞』ってよく聞く病気ですが、どのような病気なのでしょうか?

『急性心筋梗塞とは心臓を栄養している血管が急激に詰まることによって心臓の筋肉が壊死してしまう病気です』

松尾仁司院長:心臓という臓器は人が母親のお腹にいる時からその方がお亡くなりなるまで、起きているときはもちろん寝ている時も、ズーっと動き続けなければならない臓器で、心筋という筋肉で出来ています。動き続けるためには、直径最大4mm程度の太さの冠状動脈により酸素と栄養が供給され続けなければなりません。

心臓に酸素や栄養を運ぶ血管を『冠状動脈』といい、心臓の表面を冠(かんむり)が覆いかぶさるようにして心臓全体に血液を運んでいます。

年齢を重ねてきますと、冠状動脈が動脈硬化によって狭くなったり詰まったりすることがあります。

動脈硬化自体には自覚症状はないのですが、ある時動脈硬化の起こっている部位に血栓という血の塊ができて急激に詰まることにより、一気に血流が途絶することがあります。そうなると心臓の筋肉に栄養が行かなくなって心筋は壊死を起こしてしまいます。これが『心筋梗塞』という病気です。

本地洋一さん:『急性心筋梗塞』の場合、患者様はどのような症状を訴えられるのでしょうか?

『急性心筋梗塞の典型的な症状は激しい胸の痛みです』

松尾仁司院長:『急性心筋梗塞』の典型的な症状は胸の真ん中が締め付けられ、冷汗を伴う胸の痛みを訴えられる方が多いです。しかし、中には激しい症状がなく、なんとなく胸に違和感がある程度の軽い症状の方もお見えになります。

また、これらの胸の症状は『急性心筋梗塞』以外の病気でも起こることがあるので、症状だけで『急性心筋梗塞』と診断するのは難しいです。

しかしながら、ほとんどの『急性心筋梗塞』は病院で心電図と採血検査を行うことによって診断がつきます。

本地洋一さん:『急性心筋梗塞』に罹りやすいとかあるのでしょうか?

『急性心筋梗塞患者様の半数は以前にまったく胸痛などの前駆症状がないことが知られています』

『急性心筋梗塞』で来院された方のお話を聞くと、約50%の方は発症前に一時的な胸痛や、胸部圧迫感などの自覚症状があったと言われます。しかしながら50%の方は今までこのような胸の症状は全く経験したことがなく、ご自分は病気とは無縁だと思っていたと言われます。

一方、前駆症状がない方の多くは、糖尿病、脂質異常症、高血圧症、肥満、喫煙習慣などの動脈硬化危険因子を指摘されていたことも分かっています。

これらの危険因子は特に症状なく、徐々に全身の血管にダメージを与えていきます。これらの危険因子をお持ちの方は、将来『急性心筋梗塞』や脳卒中などの恐ろしい病気を予防するためにも危険因子のコントロールが重要であることをご承知ください。

 

『急性心筋梗塞の恐ろしい合併症に致死的不整脈があります』

松尾仁司院長:もっとも致命的で恐ろしい合併症は心室細動という不整脈です。これは心室が痙攣したように震えてポンプの働きを失ってしまう不整脈です。この状態が続くと致命的であるため、直ちに除細動をして心室細動を止める必要があります。

心筋梗塞患者様の15%に心室細動による心肺停止が発生し、その中の30%の方は病院まで到着する前に死亡するというデータがあります。近年AED(自動体外的除細動器)の普及があり、駅やデパートなどの多くの公共の場所に配置され、このような致死的不整脈に対応することができるようになりました。新聞やニュースなどでAEDを使って救命されたことが報道されています。皆さんも職場や通勤の途中にAEDの場所を確認されるとよいと思います。

『病院にくることができた方の急性心筋梗塞救命率は95%です』

病院に到着することができた『急性心筋梗塞』の死亡率は30年前には50%と言われていましたが、集中治療室で24時間心電図や呼吸状態をモニターすることが出来るようになったこと、カテーテル治療の普及により詰まった冠動脈をいち早く再灌流されることにより心筋のダメージを小さくすることが出来るようになったこと、重症心不全の救命のための外科治療、補助循環装置の導入により劇的に死亡率が低下しました。岐阜ハートセンターの統計では、生存状態で病院に来院された『急性心筋梗塞』患者様の95%は回復して退院することが可能となっています。

本地洋一さん:一口に迅速にと言っても、患者様が倒れた環境であるとか、地域性によっても、心筋梗塞の発症から病院を受診するまでの時間に差が出てしまうのではないですか?

『急性心筋梗塞の治療は時間との戦いです』

松尾仁司院長:『心筋梗塞』の場合、冠動脈が詰まってから90分以内に再疎通出来ると、予後は良好であると言われています。一方で24時間以上詰まった状態が続くと心筋壊死が完成してしまうことが分かっています。一般的には発症から6時間以内に再疎通治療を行うことが理想的であると言えます。

つい先日、初めて岐阜ハートセンターの外来を受診された方なのですが、その方は最近散歩中に胸の痛みを感じるようになったため、当院を受診された方です。

朝8時頃、自家用車で来院され駐車場で車から降りたところで、意識を失われて転倒されたところを職員が発見しました。新型コロナウイルス感染症の陰性確認をしつつ8時17分に救急室で心電図検査をおこなったところ重篤な虚血所見を認めたため、心臓超音波検査、CT検査後、8時53分にカテーテル室に入室。その際患者様はショック状態であったため、インペラという補助ポンプで心臓のポンプ機能を代償しつつ冠動脈造影検査を行ったところ、左主幹部に非常に強い狭窄を認めました。

通常左主幹部が閉塞すると左心室のほとんどに血液が流れなくなるため30秒程度で心臓はポンプとしての機能を失ってしまいます。今回この患者様が駐車場で意識を失ったのはこの左主幹部が一時的に閉塞したものだと思われます。

左主幹部を責任病変とした急性心筋梗塞と診断して、引き続きステントを留置して速やかに血流再開に成功し救命することが出来ました。

本地洋一さん:本当に一刻を争う状況だったのですね!無事助かって良かったです。

松尾仁司院長:その通りです。最近は救急車にも心電図が搭載されており、救急隊員の方々が現場で心電図を見て、「心筋梗塞の可能性が高い」と判断した場合、病院では患者様の到着前に準備をして、到着後速やかにカテーテル室に入室し、治療を始めることもあります。

現在の医療では病院に到着した患者様は95%の方が生存退院することが出来ます。

『急性心筋梗塞』は怖い病気ですが、きちんと治療をすればほとんどの方は元通りの生活に戻ることが可能です。

そのためには、元気になって退院してからも再発を予防する必要があります。

これには、危険因子(リスクファクター)をコントロールをすることが重要です。

具体的には、糖尿病のコントロール、悪玉コレステロール値を下げる、禁煙、肥満の改善などです。

一病息災という言葉があります。これはちょっとした病気のある人のほうがからだに注意するので、健康な人よりもかえって長生きするということです。

『心筋梗塞』で入院治療をして幸いにも良くなって退院した方などは、きちんとお薬を飲んで、食生活を改善したり、運動習慣をつけることによって二次予防をきちんとすることが大変重要です。

本地洋一さん:再発の防止には自己管理が重要ということですね!大変よくわかりました。

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吉田早苗さん:次回のハート相談所は2023年2月9日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。