『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第100弾~
2024年7月25日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 今年14回目の放送です。
本地洋一さん:今回は、松尾院長が学会出張のため、電話での出演になります。
また今日は吉田早苗さんがお休みで、ピンチヒッターとして林 景子さんが私と一緒に番組を進めていきます。
さて、 今回のテーマは高血圧症に引き続き『大動脈瘤』についてです。
松尾院長、よろしくお願いします。
松尾仁司院長:『大動脈瘤』は大動脈に出来た瘤のことですが、病気のお話をする前にまず大動脈とは何かからお話ししましょう。
心臓とは全身に血液を送り出すポンプで、成人では安静時に1分間に5~6リットルの血液を送り出しています。さらに運動時には安静時の4~5倍、つまり20~25リットルの血液を全身に送り出しています。
その大量の血液を受け止めて、心臓から全身に血液を送り出すパイプの役割を果たすのが大動脈です。大動脈は脳、消化管、腎臓などの臓器へ向けて多くの枝を出しながら、お臍の下あたりで左右に分かれます。
心臓は24時間、365日休みなく血液を全身に送り出していますから大動脈には常に血圧による圧力がかかっています。
『高血圧症』の方はこの大動脈に常に高い圧力がかかります。この状態を長年放置しますと、本来弾力があり比較的やわらかい大動脈に動脈硬化が起こってきます。この動脈硬化が大動脈に起こると、大動脈は徐々に蛇行してきます。大動脈が蛇行すると、もともと大動脈の内壁に均等にかかっていた血圧が不均等になり、大動脈の壁が瘤のように膨らんでくることがあります。この病気を『大動脈瘤』といいます。
動脈の壁というのはそれほど分厚いものではないですし、動脈硬化により硬くなっているところが膨らんで『大動脈瘤』を形成した場合、『大動脈瘤破裂』の可能性も高くなります。『破裂性大動脈瘤』とも言います。大動脈が突然破裂すると、一気に血圧が低下して命を落とすこともある恐ろしい病気です。
(https://gifu-heart-center.jp/aortic_disease_treatment/)
本地洋一さん:大動脈は、心臓から全身に大量の血液を送り出すパイプということですが、そのパイプが破裂すると大量の血液は一気に血管の外に噴き出すということですね!
松尾仁司院長:『大動脈瘤破裂』は大変恐ろしい病気で病院につく前に命を落としてしまう方も多く見えます。したがって『大動脈瘤』が破裂する前に何とか見つけることが重要です。ところが大動脈は身体の外からは見ることはありませんし、『大動脈瘤』は自覚症状なく進行するため、ほどんどの場合、偶発的に見つかることが多い病気です。
『胸部大動脈瘤』は、健康診断などでたまたまレントゲン検査を受けたとき、大動脈が拡大しているのが分かり、初めて診断される場合が多いのですが、『胸部大動脈瘤』が拡大してくると食道が圧迫されて「ものを飲み込むのが困難になる」、左反回神経(声を出したり、ものを飲み込んだりするときに使う神経)の圧迫による「かすれ声」などの症状が出る場合があります。『腹部大動脈瘤』の場合は、やせて体脂肪の少ない方などはたまたまお腹を触った際に脈を打つ『腹部大動脈瘤』に気づく場合があります。
本地洋一さん:恐ろしいですね。『大動脈瘤破裂』を起こさないためにはそもそも『大動脈瘤』にならないことが大切だと思うのですが、『大動脈瘤』になりやすい方がお見えになるのでしょうか?
松尾仁司院長:先天的に血管の壁が脆弱な方もまれにお見えになりますが、『大動脈瘤』を発症する多くの患者様は、血管の壁が動脈硬化によって硬くなり、かつ硬くなった大動脈に常に強い力がかかり続けることによって瘤が大きくなっていきます。つまり高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、喫煙習慣といった動脈硬化の危険因子をお持ちの方が『大動脈瘤』にかかりやすいといえます。特に高血圧が重要で、『大動脈瘤』のほとんどの患者様が高血圧症の既往をお持ちです。
本地洋一さん:この番組でも松尾院長はよく高血圧のお話をされますが、高血圧は動脈硬化の危険因子の一つでもあるため『大動脈瘤』発症の原因にもなるということですね!
松尾仁司院長:さきほど『大動脈瘤』は症状なく進行するため見つけにくいといいましたが、近年は多くの病院でCT検査を受けることが出来ます。これによって『大動脈瘤』の部位、『大動脈瘤』の大きさを正確に診断することが可能となっています。
成人の場合、正常な大動脈の血管経は25mm~30mmです。これが50mmを超えると破裂の危険背が高いといわれています。
『大動脈瘤』の手術をするうえでのガイドライン上は『腹部大動脈瘤』の場合、大きさ(最大短径)が60mm、『胸部大動脈瘤』ですと55mmを超すサイズの『大動脈瘤』は破裂する危険性があり、その他大動脈瘤の大きさが急速に拡大している場合も手術による治療が推奨されています。
『大動脈瘤』治療は破裂の危険性が低い場合は血圧コントロールを厳密にして、定期的にCTやMRIでサイズをフォローします。しかしながら『大動脈瘤』サイズが大きく破裂のリスクが高いと判断した場合は何らかの侵襲的な治療を選択します。
『大動脈瘤』の治療目的は動脈瘤の破裂を予防する、動脈瘤由来の末梢塞栓を予防する、動脈瘤による凝固障害を予防することです。
『大動脈瘤』サイズがまだ小さく、破裂がさし迫っていない場合は、破裂リスクを回避するための内科治療を行い、破裂の可能性が増大した瘤では、外科治療を優先することが原則となります。
日常生活におきましては、散歩などの適度な運動はお勧めしますが、血圧を極端に上げる筋力トレーニングや、激しい運動は避けたほうが良いです。また過度な精神的な興奮もなるべく避けるように心掛けると良いですね。
本地洋一さん:大動脈破裂を予防するための外科的な治療についても教えてください。
松尾仁司院長:岐阜ハートセンターでは開胸あるいは開腹による人工血管置換術と、開胸あるいは開腹を行わない、カテーテルによる血管内治療(ステントグラフト内挿術)の2種類の手術療法を行っております。
『大動脈瘤』の部位や形状により方法・術後経過が異なるので、具体的には患者様それぞれに合った治療法を説明したうえで、行っています。
人工血管置換術は胸部あるいは腹部切開を行い、『大動脈瘤』へ到達し、血流を遮断して瘤を切開、正常な血管と人工血管を繋ぐ手術です。
ステントグラフトによる治療とは、『大動脈瘤』を直接切除することなく、動脈瘤内にステントグラフトと呼ばれる針金骨格付人工血管を挿入して破裂を予防する治療法です。8mm程度の細い管(カテーテル)内にステントグラフトを折りたたんで詰め、それを約5cmの皮膚切開で露出した足のつけねの動脈から、血管内を通して動脈瘤部分まで運んでステントグラフトを広げて留置します。『大動脈瘤』は体の中に残ったままですが、瘤には血圧が直接かからないので破裂の危険がなくなります。胸や腹を切開しないため人工血管置換術に比べ体の負担が少ないのが特徴です。
本地洋一さん:血圧が高い人は世の中にはたくさんお見えになりますが、そういう人たちはまずはお医者さんの指示に従ってお薬でコントロールすることが大切ということですか?
松尾仁司院長:『高血圧症』の罹病期間が長ければ長いほど、心血管系の合併症を併発する可能性が高くなることが知られています。
『高血圧症』方はたとえ自覚症状がなくても、健康年齢を延ばすためにお薬で血圧コントロールすることが重要です。
林 景子さん: 次回のハート相談所は2024年8月8日(木)にお送りいたします。
また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。