『きょうもラジオは!? 2時6時 』~第90弾~

2024年2月22日午後2時30分、『本地洋一のハート相談所』 令和6年4回目の放送です。

吉田早苗さん: 本日は、いつも司会進行をしていただいている本地洋一さんがお休みのため、ピンチヒッターとして相川真一さんと一緒に番組を進めていきます。

今回の放送のテーマは『糖尿病』についてです。

リスナーの皆さんやその周りにも『糖尿病』の方は何人かおられるようで、血糖値がどうだとかヘモグロビンA1Cが・・・といったお話を時々聞くことがあります。

『糖尿病』は結構身近な病気のような気がしますが、実際のところはどうなのでしょうか?

『糖尿病は生活習慣病の一つです』

松尾仁司院長: みなさん生活習慣病という言葉を聞いたことがあると思います。生活習慣病とは、糖尿病・脂質異常症・高血圧・高尿酸血症など、生活習慣が発症原因に深く関与していると考えられている疾患の総称です。なかでも『糖尿病』は一つ間違うと非常に恐ろしい合併症をおこすため、『糖尿病』の気があるとか『糖尿病』と診断された場合はしっかりと治療をする必要がある病気の一つです。

『糖尿病』を知る上で重要なワードに『血糖値』があります。これは血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度を表す言葉です。食事の際にご飯やパン、麺類を食べると思いますが、これら炭水化物は、体の中で消化吸収されて、ブドウ糖(グルコース)になり、血液中に入って人が生きていくためのエネルギーになっていきます。したがって人はエネルギーを消費すると、『血糖値』が下がり空腹や疲労を感じます。食事で炭水化物を摂取すると、『血糖値』は上がり再び仕事や勉強をするための活力が生まれます。

『血糖を低下させるからだの仕組みは脆弱』

健康な人の場合はこの血糖値はホルモンによって上がりすぎたり下がりすぎたりしないようにコントロールされています。

血糖を上げる作用は体の中にはたくさんあります。脳下垂体からでる成長ホルモン、副腎皮質から産生される副腎皮質ホルモン(コルチゾール・アルドステロン)、副腎髄質ホルモン(カテコールアミン)、甲状腺ホルモン、すい臓や腸管から分泌されるグルカゴン、ソマトスタチンなどがあります。 これらのホルモンが必要以上にたくさん分泌されると血糖値が上昇します。一方、高血糖の際に血糖を低下させるホルモンはインスリンしかありません。

低血糖に対応する仕組みに比べると、糖質の過剰摂取による高血糖に対応する仕組みが脆弱と言えます。

相川真一さん: つまり、人間の身体は『血糖値』を上げるための仕組みは沢山あるけれど、上がりすぎた『血糖値』を下げるための仕組みは1種類しかないということですね!

それはどういった理由なのでしょうか?

松尾仁司院長: 大変良い質問ですね!

歴史的に見るとなるとすごくスケールの大きな話になりますが、

人類が誕生したのは、およそ500万年前のアフリカといわれています。 その後、人類は、猿人(約500万年前に出現:アウストラロピテクス)・原人(約180万年前に出現:ホモ=エレクトゥス)・旧人(約20万年前に出現:ネアンデルタール人)・新人(約4万年前に出現:クロマニョン人など)の順に進化してきました。

人類が農耕を開始したのは1万3千年前で、それまでの約499万年間人類は米やパンなどを食べることなく、木の実を食べるか狩猟によって得た肉や魚を食べていたことになります。

人類が糖質を食事でとるようになったのは人類の歴史500万年のうち1万3千年程度で、農耕によってコメやパン、パスタなどの炭水化物つまり糖質を食べられるようになる前は、人類は常に飢えていたということです。

相川真一さん: 要するも人類は進化の過程で飢餓との長い戦いがあったということですね!

そのため飢えて血糖値が下がっても生きていくことが出来る仕組みが備わってきたけれど、高い血糖値を下げるための仕組みはさほど必要ではなかったため、インスリンのみであるということですか。

松尾仁司院長: 『糖尿病』とは、この膵臓の働きが悪くなってインスリンの分泌量が少なってしまったり、インスリンがうまく働かなくてグルコースが脳や筋肉などの臓器にうまくとりこめなくなって『血糖値』が常に高い状態になる病気です。

農耕によって人類は飢餓を克服する一方で急速に飽食の社会を作り上げてきました。その結果、狩猟生活を送っていたころには考えられなかった『糖尿病』という病に悩まされることになりました。

吉田早苗さん: 大昔は『糖尿病』はなかった病気なのですか?

 

『光源氏は糖尿病だった』

松尾仁司院長: 日本では、平安時代の記録から一部の貴族には糖尿病があったのではないかと考えられています。

たとえば、紫式部が書いた“源氏物語”の主人公、光源氏は藤原道長がモデルになっていますが、日本では記録に残る糖尿病患者の第1号と言われています。当時の記録では、藤原道長は摂政関白となった頃(50歳)より、『頻りに将水を飲む。口渇き力なし。食は例より減ぜず』という『糖尿病』特有の症状である口喝・多飲・全身倦怠感が出現し、52歳で『目見えざる由近づくも即ち汝の顔殊に見えず。晩景と昼の時と如何と、只殊に見えざるなり』と『糖尿病』の合併症で視力が低下した記録が残されています。最後に61歳で背中の瘍がもとで敗血症を引き起こし、亡くなっています。

吉田早苗さん: 平安時代は現代よりも食事はかなり質素だったのではないですか?

松尾仁司院長: 確かに一般の庶民と言われる方々は質素な生活をされていたと思います。しかしながら、当時の貴族は朝10時と夕方4時の食事の他に間食、夜食を摂り、週に2~3回は宴会で、タイ、エビ、サケ、コイ、アユ、サザエ、白貝、雉を食べ、にごり酒を大量に飲んでいたようですよ。また、非活動的な生活と衣装による運動不足、激しい権力闘争による多大なストレスもあったのではないでしょうか。

吉田早苗さん: 先ほど糖尿病の自覚症状についてもう少し教えてください。

 

『糖尿病の自覚症状』

糖尿病で通院されている方に「体調はどうですか?」と聞くと「なんともないよ。血液検査の数値が高いだけ」といったお返事が返ってくることがあります。「糖尿病=自覚症状がない」と思われている方もいらっしゃいます。

実際に、血糖値の上昇の程度が軽いと、自覚症状がないことがあります。一方、血糖値が著しく高いと、口渇(のどがかわく)、多飲(たくさん飲む)、多尿(たくさん尿が出る)、体重減少などの症状が出現することがあります。もっと程度がひどいと意識障害や昏睡になりえます。

年齢が高い方の場合、症状がはっきりしない、けれどもなんとなくすっきりしない、といったこともあります。「最近、疲れやすい」「横になってばかりで」「物忘れがふえた気がする」「なんだかぼんやりしている」なども血糖値の悪化と関係していることがあります。

「目がかすむ」「ふらふらする」「足がじんじんする」などは、高血糖そのものによる症状というよりも、糖尿病の合併症の症状かもしれません。

『糖尿病の診断基準』

松尾仁司院長: 高い血糖値が続いていれば、糖尿病と診断します。

具体的には、血液検査でわかる血糖値とHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が基準値より高いかどうかで判断します。

・ 血糖値:検査したその時の、血糖の濃度

 ⇒空腹時血糖値(10時間以上絶食後の、早朝空腹時の血糖値)が126mg/dl以上

・HbA1c:過去1-2か月分の血糖値のあらましを反映

⇒6.5%以上

上に示したうち、どれか1つでも満たした方は、糖尿病の疑い(糖尿病型)があります。

ただし、空腹時血糖が正常でも、食後血統が高い隠れた糖尿病もあります。隠れた糖尿病を発見するためには75g経口ブドウ糖負荷試験という詳しい検査を行います。

吉田早苗さん: リスナーさんからも、“私は血糖値が・・・”とか、“HbA1cが6.0%を超えた・・・”とかいうお話を聞くことがありますが、血糖値よりもどちらかといえばHbA1cの値に注意したほうが良いのでしょうか?

松尾仁司院長: 血糖値というのは常に変動しています。それに対してHbA1cの値は過去1-2か月の血糖のあらましを反映した数値です。つまりHbA1cの値が6.7%とか6.8%であったということは、この1-2か月の間高血糖の状態が続いていたと判断できるわけです。

一方、食事で炭水化物を取りますと『血糖値』は一時的に急上昇します。これをグルコーススパイクというのですが、健常な人の場合このグルコーススパイクによる『血糖値』の急上昇をインスリンが抑え込む働きをしているのですが、『糖尿病』の患者さんはグルコーススパイクによる『血糖値』の急上昇を抑えることが出来ないため、内皮細胞の障害が起きやすくなってしまうのです。

吉田早苗さん: 『糖尿病』とは血糖値が常に高い状態ということですが、この状態が続くといろいろな病気を引き起こすと言われていますが、我々にとってどのような悪いことが起こるのでしょうか?

松尾仁司院長: 細胞に入るとエネルギー源として役に立つブドウ糖ですが、血液の中では、血管を破壊して動脈硬化を起こすようになります。特に脳や心臓の血管が被害を受けやすく、脳卒中や心筋梗塞の原因となります。

『糖尿病の合併症』

『糖尿病』は恐ろしい合併症を起こしてきます。最小血管合併症として腎症、網膜症、神経障害、が3大合併症としてしられています。糖尿病性網膜症は成人後の失明原因の20%をしめており、トップです。また腎不全で透析される患者様の40%が糖尿病であることがしられています。

その他にも動脈硬化の最も重要な危険因子のひとつの糖尿病は、狭心症、心筋梗塞などの心臓病、脳梗塞や脳出血などの脳卒中が起こりやすいことが知られています。

さきほど、グルコーススパイクが血管内皮細胞に障害を起こすと言いましたが、この状態が何年も続くと内皮細胞機能がどんどん低下してしまい、それに伴って動脈硬化がどんどん進行してしまいます。

また下肢閉塞性動脈硬化症といわれる足の動脈硬化から歩行困難になったり、下肢壊疽になるなど、重症化することが知られています。また高血糖は免疫機能の低下を起こすため、感染症にかかりやすくなります。また神経障害が合併するため、痛みが感じにくく、症状の出現が重症化してはじめて発見されることが少なくなりません。

『糖尿病』とは脳卒中や心筋梗塞などの命に関わる危険な病気にかかりやすいうえに、失明や腎不全になるおそれもあり、さらに神経障害によって自覚症状が少ないために、病気の進行に気が付かない場合が多いということですね!

松尾仁司院長: リスナーの皆様の中にも自分は病気とは無縁だとお考えの方もおられるかもしれませんが、『糖尿病』とは特に症状もなく徐々に全身をむしばんでいくシロアリのような病気です。

早期発見、早期治療が大変大切ですので健康診断はきちんと受けることを強くお勧めいたします。

採血検査や尿検査で『糖尿病』が指摘された場合は、その時点で特に自覚症状が無くても、医療機関できちんと検査し診断していただくことが長く健康に生活するうえで大変重要です。

吉田早苗さん:次回のハート相談所は2024年3月14日(木)にお送りいたします。

また、心臓や循環器疾患に対する質問やご意見などは番組までドシドシとお寄せください。